俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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スピンオフ編【一ノ瀬悠真】:第1話「親友ポジション、以上」

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教室の窓から差し込む午後の光は、春の終わりにしてはまだやわらかい。
昼休みが終わる直前、チャイムが鳴るまでの数分間。
何でもない時間のように見えて、
一ノ瀬悠真は、その短い静寂がやけに心に沁みるのを感じていた。
 

目の前では、桐嶋凛音が机に頬杖をつきながらスマホをいじっている。
音もなく、しかし確実に何かを見ては小さく口角を上げるその姿に、
悠真は“いつものように”話しかけようとして――やめた。
 

ここで呼びかければ、凛音は必ず顔を上げる。
「ん?」と聞き返してくれる。
それが、あまりにも自然で、
昔からずっとそうだったから、
それが当たり前になりすぎて、
時々――苦しくなる。

 
それでも自分は、凛音の“親友ポジション”に居続ける。
ずっと、そこにいると決めたのは、自分だった。

 
「悠真、次の数学、ノート貸してくれね?」

 
予想通り、凛音はスマホから目を離し、
手の甲で前髪をかき上げながら、何でもないように言った。

 
「……またサボってただろ」

 
「由依姉に提出物チェックされてて、マジで余裕なかったんだって」

 
「はいはい。俺、家庭教師じゃねぇからな」
 

「お前はもはや俺の生活指導係だろ。俺の命綱」

 
「……勝手に殺すな」

 
笑いながら肩をすくめる凛音に、
悠真は、やっぱりこの距離感が心地いいと思ってしまう。
思ってしまうのが――いちばん苦しい。
 


 

放課後。
体育館裏の自販機の前。
飲み物を買ってから、ベンチに座ってぼんやり空を見上げるのが、
悠真のひそかなルーティンになっていた。
 

少し前まで、ここには凛音もいた。
姉たちから逃げるために。
騒がしいクラスから抜けるために。
誰よりも自由そうな彼が、
唯一“安心できる静かな場所”として選んだのが、
このベンチだった。

 
けれど最近は――
彼はあまり来ない。
 

理由は分かっている。
白石天音が転校してきた日から、
凛音の“よりどころ”が、少しずつ変わったのだ。

 
あの時のことを、悠真は今でもはっきり覚えている。

 
扉が開いて、担任が「今日から転校生が……」と話す前。
すでに教室の空気が変わったのは、
そこに立った彼女の“気配”のせいだった。

 
天音の瞳はまっすぐだった。
誰もを包み込むような笑顔。
堂々と自己紹介する声に、教室中がざわめいて。
そのざわめきの中で、
悠真の隣の席で、凛音がふと――止まった。
 

ほんの一瞬だった。
だが、悠真には分かった。

 
「……あ、これ、やばいやつかも」

 
胸の奥で、小さな警報が鳴った気がした。

 


 
夜。
自室のベッドの上に寝転がりながら、
天井を見つめる。
 

机には、開きっぱなしの英語の教科書と、
カーテン越しに揺れる街灯の明かり。

 
スマホを握ったまま、ふとホーム画面を開くと、
そこには凛音との2ショットが表示されていた。

 
体育祭の後に、美咲に撮られて強制的に送られたやつだ。
凛音は少し笑っていて、悠真は何も知らないふりをして
“親友らしく”肩を並べている。

 
あの日のことを思い出す。
凛音が天音のことを「守る」と言った時の顔。
彼女を庇って転びながら、笑った横顔。

 
――あんな顔、悠真には向けられたことがない。

 
いや、違う。
似たような顔なら何度も見てきた。
でも、それは**“俺にだけ見せる顔”ではなかった**。

 
「……俺、何やってんだろ」

 
つぶやいても、返事はない。
当たり前だ。
この気持ちは、どこにも届かないように、
心の底に沈めたはずだったのに。
 

それでも、
凛音が自分だけを見てくれた時間を思い出すたびに、
苦しくなる。

 
怒鳴った時の声。
不意に笑った時の目の細め方。
ふざけあって背中を叩き合った時の温度。

 
全部、忘れたくないと思ってしまう。

 
だけど――その全部が、今、
“白石天音”という名前の少女に向かってる。

 


 
スマホを伏せ、目を閉じる。
そのまま眠ってしまえば、
この感情も一緒に眠ってくれないかと願いながら。

 
けれど、
脳裏に浮かぶのは、凛音の声だった。

 
「お前がいねーと、俺ほんと無理なんだけど」
 

それは、きっと――
何の意味もない、ただの親しさだったんだ。
 

それでも。
自分の中でそれが、特別になってしまった。
 

それが恋だと呼べるか分からない。
だけど、憧れとか、友情とか、
そんな言葉じゃもう片づけられないところまで来てしまった。

 
「……せめて、このままバレないでくれ」

 
誰にも。
凛音にも。
天音にも。
夏菜にも。
 

――特に、夏菜には。

 
そう思いながら目を閉じたその夜、
スマホには新着メッセージが一件届いていた。

 
《ねぇ悠真、明日ちょっと話せる?》

 
差出人は、夏菜だった。

 
悠真はそれを見て、
そっとスマホを裏返し、
心の奥がじわりと熱くなるのを感じていた。

 
彼女だけは、
きっと――とっくに知っていたのかもしれない。
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