俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

文字の大きさ
48 / 55

スピンオフ編【一ノ瀬悠真】:第3話「気づいてしまった側の孤独」

しおりを挟む
誰にも言えないことって、
たいてい、誰かに気づかれている。

 
そういうのを、夏菜は昔からよく知っていた。

 
人の目線。
言葉の抑揚。
沈黙の質。
一瞬のため息の深さ。

 
たったそれだけで、
「この人は、何かを抱えてるな」って察する感覚。
それは特技でも才能でもなく、
ただ――“誰にも気づかれなかった子ども時代”の後遺症みたいなものだった。

 
だからこそ。
悠真が誰にも見せない顔で、
凛音を見つめるたび、
夏菜の胸には、静かな痛みが走った。

 


 
「夏菜~、明日さ、クラスで集まりあるって知ってた?」

 
放課後、天音がスキップ混じりに駆け寄ってくる。
相変わらず、ふわふわした笑顔。
風に揺れる長い髪に、男子たちが廊下からちらちら視線を寄越している。

 
天音はそれに気づいていない。
いや、気づいていても気にしていないのかもしれない。
 

「知ってるよ。担任が言ってた」

 
「悠真くんも来るかな? なんか最近ちょっと元気ないよね?」

 
――その言葉に、夏菜の指先がわずかに震える。

 
「……うん。そうだね。気づいてたんだ」

 
「うん。だって、いつもより“静かに優しい”もん」

 
天音はまっすぐな目でそう言った。
その目には、濁りがない。
裏がない。
どこまでもまっすぐで、だからこそ――残酷なほど、優しい。

 
「凛音くんのこと、悠真くん……すごく大事にしてるでしょ?」

 
その言葉に、夏菜は返事をしなかった。

 
だってそれは、天音が“気づいてないフリをしてる”ことを証明してしまうから。
そして、彼女自身がその関係の真ん中にいることを知ってしまうから。

 
「……ねえ、天音。あんたってさ」
 

「もしさ、凛音が誰かを好きだって言ったら、どうする?」
 

「え? え? 誰? 誰? ってなるよね!」

 
笑う天音に、夏菜も思わず吹き出した。

 
「ほんと、あんたってさ……罪だよ」

 
「えー? なんか私、悪いことした?」

 
「してない。……してないけどさ。ちょっとくらいは、自覚しなよ」

 

 

その夜。
夏菜は、自分の部屋でスマホをいじっていた。
 

チャットアプリを開いて、
一度、悠真とのトーク欄を開き、何も書かずに閉じる。

 
書くべき言葉が、わからなかった。

 
「“気づいた側”は、黙ってなきゃいけない」って、
いつからか、そんなルールが心にあった。

 
告げることで、相手を傷つけてしまうくらいなら。
気づいてないフリを続ける方が、ずっと優しい――って。

 
でも本当は、それって
“逃げ”なんだと思う。

 
悠真の中にある気持ちを、
ちゃんと見てしまった自分が、
どこかで怖がってる。

 
だって。
悠真が凛音を好きだというその現実を、
ちゃんと認めてしまったら――

 
自分が、その“隙間”に入り込める余地なんて、
永遠になくなってしまう気がしたから。

 
(でも)

 
(それでも、私は……)

 
手を止めていた指が、ゆっくりと動き出す。

 
《ねぇ悠真、明日ちょっと話せる?》

 


 
翌朝。
校門前で待ち合わせた悠真は、
やけに静かな顔をしていた。

 
夏菜は、何も言わずに歩き出す。
二人で学校の裏の桜並木を抜ける。
 

季節はもう、初夏に近い。
なのに、風はまだどこか冷たい。
 

「昨日、いろいろ考えた」

 
「……俺、自分が思ってたより、凛音のこと……大事だったんだなって」
 

悠真の言葉に、夏菜はうなずく。

 
「うん。気づいてたよ」
 

「でも、大事ってだけじゃないでしょ」

 
悠真は立ち止まり、
少しだけ笑った。
ほんの少し、涙が混じるような、微かな笑顔だった。

 
「……うん。たぶん、好きだったんだと思う」

 
「でも、それを言葉にしたら……もう戻れなくなる気がして。
 親友って関係すら、壊れそうで、怖かった」

 
「わかるよ。壊したくないって思うほど、苦しくなることってあるよね」

 
「うん……ありがとう」

 
その“ありがとう”は、
夏菜に対するものなのか、
気づいてくれた誰かに対するものなのか、
自分を認めた自分に対するものなのか――分からなかった。
 

けれどその瞬間、
ふたりの間に流れた空気は、
言葉では形にできないほど――やさしかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...