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第2話「絶世の美少女にファンクラブ爆誕」
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朝のHRが終わって、1時間目のチャイムが鳴る。
教師が入ってきて教科書を開くと同時に、天音がふわっと息を吐いた。
「……あー、緊張したー」
ぼそっと漏らしたその声に、クラスの視線が一斉に彼女に向けられる。
それだけで、空気が変わるのがわかる。
天音の一挙一動に、周囲が反応している。
それはもう、視線というよりも“注目”というレベルだった。
それに気づいていないのか、気にしていないのか――
彼女は悠然とノートを開き、シャーペンを軽く回した。
カチッという音さえも、絵になる。
(……あれで天然なんだから、余計にタチが悪い)
凛音は、ちらりと横目で天音を見る。
久しぶりに再会した彼女は、あの頃よりもずっと、
ずっと美しくなっていた。
なのに、中身はあのまんま。
気取らず、飾らず、思ったことをストレートに言い、
周囲の空気を読まない――いや、読めないままに行動する。
でも、それがなぜか許されてしまう。
なぜなら、彼女の中心にあるのは、**まっすぐな“光”**だからだ。
「……」
自分がその光を苦手に思っている理由は、わかっていた。
彼女のようなまっすぐな存在に、自分の“仮面”は通用しないから。
無視すれば勝手に去っていく他の女子と違い、
天音は、凛音の冷たさにも動じない。
むしろ――懐かしそうに笑う。
(……やめろ。そういう顔すんな)
ふと、教室の前の方で何やらガサガサと物音がする。
「はい、プリント配るよー! 男子限定でね!」
聞き慣れた、バレー部の主将・蒼井夏菜の声だった。
長身で肩までの髪を一つに結び、竹刀のように真っ直ぐな性格。
男子にはちょっと怖がられているが、同性には頼りにされている。
「……なんだよこれ」
悠真が受け取った一枚の紙を見て、苦笑いする。
凛音もちらりと視線を向けた。
《白石天音非公式ファンクラブ発足のお知らせ》
目が滑った。
いや、滑ったというより、脳が現実を拒否した。
「え、マジかよ……」
「ね? 早かったね。予想より1日早かった」
「いや、予想してんのかよ」
「ちなみに会長は夏菜。本人公認だってさ」
「何が“公認”だ。聞いてんのか、あいつ」
「んー……聞いてたけど、反応は『ふーん』だけだった」
実に天音らしい。
重さも軽さもなく、ただ事実として受け止めてる感じ。
全方向に悪気がないせいで、誰も怒れない。
その結果、天音の周囲には男も女も自然と集まり、勝手に消えていく。
一方で、残された“天音の無自覚な被害者”だけが、じわじわと増えていく。
「やっかまれるのも時間の問題だな」
「もう始まってるよ」
教室の隅で、女子グループがひそひそと話している。
「天然とか言って、ぜってーあれわざとだよ」
「髪の巻き方とか、絶対計算じゃん」
「男子がちやほやするから調子乗ってんのよ」
嫉妬は、言葉になった瞬間に毒を帯びる。
それでも、天音はそれに気づかず、のほほんと凛音に話しかける。
「ねえ、凛音。ノートの取り方、今も几帳面なんだね」
「話しかけんな」
「そういうとこも、変わってないなー」
言って、楽しそうに笑う。
周囲の女子がギロリとこちらを見るが、天音は意にも介さない。
「ったく……」
本当は――照れてるだけだった。
でも、それを見抜かれるのが嫌で、突っぱねる。
俺様ぶっていれば、適度に距離が取れる。
それが、凛音の長年の処世術だった。
(でも、こいつだけは……)
「りおん様、今日も麗しい」
夏菜が突然現れ、わざとらしくそう言ってきた。
凛音がうんざりした目で見上げると、
その手には大量のプリント――天音ファンクラブの“会員規約”が印刷されていた。
「お前、まさか本気でやんのか」
「何言ってんの。もう20人以上が登録済みよ?」
「くだらねぇ」
「くだらなくない。天音は今、学校の財産だからね」
悠真が笑いをこらえながら言う。
「そっちは俺様王子、こっちは無自覚姫。いい勝負じゃん」
「誰が姫だよ」
天音はくすくすと笑いながら、二人のやり取りを聞いていた。
そして、ふと首を傾げて、凛音を見つめる。
「……嬉しい?」
「は?」
「みんなが私のこと話題にしてるの。凛音、ちょっと機嫌悪いからさ。気にしてるのかなって思って」
「誰が気にするか。バカ」
「そっか。でも、私は嬉しいよ」
とことん、真っ直ぐだ。
だからこそ、凛音の“仮面”なんか、意味がない。
自分を守るために築いてきた殻は、天音の前ではすぐにひび割れる。
昼休み。
凛音は屋上に逃げた。
本当は立ち入り禁止だが、鍵はなぜか開いていた。
姉の誰かが学校に言ってあるのだろう。
「弟の逃げ場は必要です」とかなんとか。
風が吹き抜ける。
喧騒から離れ、やっと深呼吸ができる。
「……はぁ」
休む間もなく追われる家。
姉たちの過剰な構いよう。
朝から夜までスケジュールはぎちぎち。
唯一の自由時間は夜の9時から11時だけ。
それを超えると、姉たちが添い寝しにくるという地獄特典付き。
そんな生活の中で、唯一の“仮初の自由”が、この学校だった。
俺様キャラを演じていれば、誰も深入りしてこない。
悠真以外は。
(なのに……)
その中心に、天音が現れた。
しかも、よりによって、美少女になって。
周囲の注目も嫉妬も、全部巻き込んで、
それでもなお、凛音だけを見てくる。
「……ズルいだろ」
風が吹いて、制服の裾が揺れた。
そして――
「……あれ? りおん、こんなとこにいたんだ」
背後から聞こえた、あまりにも聞き慣れた声。
振り向けば、
そこには笑顔で立っている天音がいた。
【つづく】
教師が入ってきて教科書を開くと同時に、天音がふわっと息を吐いた。
「……あー、緊張したー」
ぼそっと漏らしたその声に、クラスの視線が一斉に彼女に向けられる。
それだけで、空気が変わるのがわかる。
天音の一挙一動に、周囲が反応している。
それはもう、視線というよりも“注目”というレベルだった。
それに気づいていないのか、気にしていないのか――
彼女は悠然とノートを開き、シャーペンを軽く回した。
カチッという音さえも、絵になる。
(……あれで天然なんだから、余計にタチが悪い)
凛音は、ちらりと横目で天音を見る。
久しぶりに再会した彼女は、あの頃よりもずっと、
ずっと美しくなっていた。
なのに、中身はあのまんま。
気取らず、飾らず、思ったことをストレートに言い、
周囲の空気を読まない――いや、読めないままに行動する。
でも、それがなぜか許されてしまう。
なぜなら、彼女の中心にあるのは、**まっすぐな“光”**だからだ。
「……」
自分がその光を苦手に思っている理由は、わかっていた。
彼女のようなまっすぐな存在に、自分の“仮面”は通用しないから。
無視すれば勝手に去っていく他の女子と違い、
天音は、凛音の冷たさにも動じない。
むしろ――懐かしそうに笑う。
(……やめろ。そういう顔すんな)
ふと、教室の前の方で何やらガサガサと物音がする。
「はい、プリント配るよー! 男子限定でね!」
聞き慣れた、バレー部の主将・蒼井夏菜の声だった。
長身で肩までの髪を一つに結び、竹刀のように真っ直ぐな性格。
男子にはちょっと怖がられているが、同性には頼りにされている。
「……なんだよこれ」
悠真が受け取った一枚の紙を見て、苦笑いする。
凛音もちらりと視線を向けた。
《白石天音非公式ファンクラブ発足のお知らせ》
目が滑った。
いや、滑ったというより、脳が現実を拒否した。
「え、マジかよ……」
「ね? 早かったね。予想より1日早かった」
「いや、予想してんのかよ」
「ちなみに会長は夏菜。本人公認だってさ」
「何が“公認”だ。聞いてんのか、あいつ」
「んー……聞いてたけど、反応は『ふーん』だけだった」
実に天音らしい。
重さも軽さもなく、ただ事実として受け止めてる感じ。
全方向に悪気がないせいで、誰も怒れない。
その結果、天音の周囲には男も女も自然と集まり、勝手に消えていく。
一方で、残された“天音の無自覚な被害者”だけが、じわじわと増えていく。
「やっかまれるのも時間の問題だな」
「もう始まってるよ」
教室の隅で、女子グループがひそひそと話している。
「天然とか言って、ぜってーあれわざとだよ」
「髪の巻き方とか、絶対計算じゃん」
「男子がちやほやするから調子乗ってんのよ」
嫉妬は、言葉になった瞬間に毒を帯びる。
それでも、天音はそれに気づかず、のほほんと凛音に話しかける。
「ねえ、凛音。ノートの取り方、今も几帳面なんだね」
「話しかけんな」
「そういうとこも、変わってないなー」
言って、楽しそうに笑う。
周囲の女子がギロリとこちらを見るが、天音は意にも介さない。
「ったく……」
本当は――照れてるだけだった。
でも、それを見抜かれるのが嫌で、突っぱねる。
俺様ぶっていれば、適度に距離が取れる。
それが、凛音の長年の処世術だった。
(でも、こいつだけは……)
「りおん様、今日も麗しい」
夏菜が突然現れ、わざとらしくそう言ってきた。
凛音がうんざりした目で見上げると、
その手には大量のプリント――天音ファンクラブの“会員規約”が印刷されていた。
「お前、まさか本気でやんのか」
「何言ってんの。もう20人以上が登録済みよ?」
「くだらねぇ」
「くだらなくない。天音は今、学校の財産だからね」
悠真が笑いをこらえながら言う。
「そっちは俺様王子、こっちは無自覚姫。いい勝負じゃん」
「誰が姫だよ」
天音はくすくすと笑いながら、二人のやり取りを聞いていた。
そして、ふと首を傾げて、凛音を見つめる。
「……嬉しい?」
「は?」
「みんなが私のこと話題にしてるの。凛音、ちょっと機嫌悪いからさ。気にしてるのかなって思って」
「誰が気にするか。バカ」
「そっか。でも、私は嬉しいよ」
とことん、真っ直ぐだ。
だからこそ、凛音の“仮面”なんか、意味がない。
自分を守るために築いてきた殻は、天音の前ではすぐにひび割れる。
昼休み。
凛音は屋上に逃げた。
本当は立ち入り禁止だが、鍵はなぜか開いていた。
姉の誰かが学校に言ってあるのだろう。
「弟の逃げ場は必要です」とかなんとか。
風が吹き抜ける。
喧騒から離れ、やっと深呼吸ができる。
「……はぁ」
休む間もなく追われる家。
姉たちの過剰な構いよう。
朝から夜までスケジュールはぎちぎち。
唯一の自由時間は夜の9時から11時だけ。
それを超えると、姉たちが添い寝しにくるという地獄特典付き。
そんな生活の中で、唯一の“仮初の自由”が、この学校だった。
俺様キャラを演じていれば、誰も深入りしてこない。
悠真以外は。
(なのに……)
その中心に、天音が現れた。
しかも、よりによって、美少女になって。
周囲の注目も嫉妬も、全部巻き込んで、
それでもなお、凛音だけを見てくる。
「……ズルいだろ」
風が吹いて、制服の裾が揺れた。
そして――
「……あれ? りおん、こんなとこにいたんだ」
背後から聞こえた、あまりにも聞き慣れた声。
振り向けば、
そこには笑顔で立っている天音がいた。
【つづく】
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