俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第6話「モデル撮影、天音にバレる(芸能と私)」

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土曜の朝。
本来なら、学生にとっては“寝ていられる幸福な日”であるはずの時間帯に、
桐嶋凛音は、薄暗いスタジオの鏡の前に立っていた。

 
黒いロングコートに、首元まで締められたシャツ。
濃い影を落とすアイライン。
ヘアスタイルは美咲によって完璧にセットされ、
立っているだけで“作品”と化している。

 
カメラマンがライティングを調整し、
アシスタントが凛音の袖口のシワを直す。

撮影が始まるまで、あと数分。

 
「やっぱ、かっけぇなぁ……」

 
スタッフが小声でつぶやく。
だが凛音の表情は変わらない。
ポーズのひとつすら乱さず、鏡の中の自分を見つめていた。

 
この“スイッチ”が入ったときの彼は、
誰よりも冷たく、誰よりも美しくなる。

それは、姉たちの厳しい“英才教育”の賜物だった。

 
(――って、なんで俺がこんなことに……)

 
心の中では、しっかりとツッコミを入れている。
 

母はモデル事務所の社長。
次女・美咲はSNS映えと映像美に命をかけるインフルエンサー。

そんな家に生まれてしまった時点で、
桐嶋凛音の“芸能界サブキャラ人生”は半ば決定していた。

 
「今回は新ブランドのルック撮影だからね~。笑顔とか要らない。無機質、クール、支配的な雰囲気で」
 

美咲の声が飛ぶ。
助手にスタイリングの細かい指示を出しながら、凛音に指一本触れずに着崩れを直す技術は、もはや職人芸だ。
 

「はぁ……俺、もうすぐ受験生なんだけど」

「撮影は午前中で終わるから~♡」

「午前中って言って、午後まで引っ張るの知ってるからな」

 
「うっわ、信頼されてない……泣いちゃおっかな」

「泣け」

 
軽口を叩きながらも、凛音は鏡の前で再びポーズを取った。
次の瞬間、シャッター音が連続して鳴り響く。

“俺様王子”は、学校だけではなく、
カメラの前でもまた、“仮面”を使いこなす。

 

 

撮影は、予想通り午後までかかった。

昼食は軽いサンドイッチとスムージー。
栄養管理は由依がすべて計算しており、カロリー表を付けたメモまで添えてくる。

(……こういうとこだけ、超有能だよな、あの人)

撮影が終わると、スタッフが拍手を送ってくれた。
モデルとしての凛音は、すでに事務所内で“小さな伝説”になっている。

にもかかわらず、本人にその自覚は薄い。

 
「お疲れ~♡ 凛音、やっぱ映えるなあ。今回のテーマ『支配者と檻』って感じ、完璧じゃん」

「どんなテーマだよ」

「お姉ちゃんの世界観だもん♪」

「……頼むから、次は『普通の高校生男子』とかにしてくれ」

「無理♡ 凛音は“普通”じゃないもん♡」

 
「……クソが」

 
帰り支度をしながら、凛音は無意識にため息をついた。
今日はどこにも寄らず、真っすぐ帰るつもりだった。

けれど。

スタジオの出口を出たそのとき――

 
「あ、やっぱり凛音だった」

 
聞き慣れた声が、真正面から飛んできた。

 
「……は?」

 
目の前に立っていたのは、
なんと制服姿の白石天音だった。
 

「あのね、近くの駅で友達と会う約束してて、通りかかったら凛音っぽいの見えて」

 
「……ストーカーかお前は」

「違うよ! たまたまだってば!」

 
「何してんだ。つか制服のままって」

「だって、午後からだから着替える時間なくて。……あれ、なんか今日の服、すっごく……」

 
天音の目が、凛音の“衣装”に吸い寄せられる。

コートはブランド名のないモード系デザイン。
金属質なアクセサリーと、シャープに整えられた前髪。

完全に、“芸能界仕様”だった。

 
「あ……モデルの、仕事?」
 

凛音は、無言のままフードを深くかぶった。

でも――それは、肯定のサインだった。

 
「すごい。……やっぱ、カッコいいんだね」

 
「……ふざけんなよ」

 
「ふざけてないよ。本気で言ってる」

 
「見にくんなよ」

 
「偶然だってば」
 

「……つーか、お前にだけは見られたくなかった」

 
その言葉に、天音の笑顔が、一瞬だけ凍った。

 
「……なんで?」

 
「……俺の、こういう姿って……お前の言ってた“昔の俺”とは、全然違うだろ」

 
「違うけど」
 

即答だった。
 

「でも、違うから嫌いになるわけじゃない」

 
凛音は、目を逸らした。

その正直さが、刺さる。
真っすぐで、飾らなくて、
それでいて、どこまでも綺麗だ。

 
自分は、家でも、学校でも、カメラの前でも“仮面”を被って生きている。
でも彼女は
――最初から裸足でこちらに踏み込んでくる。

無防備に、まっすぐに。

 

「私、凛音の全部が好きって、言ったら困る?」

 

「……困る」

 

「そっか」

 

ふっと笑った天音は、
そのままくるりと踵を返した。

でも、その背中は少しだけ、寂しそうに見えた。

 

追いかける言葉が、喉元まで出かかって、
凛音はそれを飲み込んだ。

 

(……俺が好きなのは、あの“まっすぐさ”なんだろ?)

なら――
そのままの彼女に、向き合わないと。

それが、怖い。
けれど、少しだけ、覚悟という名の何かが、芽生えていた。

 


 
夜。

リビングに顔を出すと、案の定、姉三人がリラックスしながらテレビを見ていた。

凛音が何も言わずに通り過ぎようとすると、
美咲が口笛を吹いた。

 
「おかえり、モデルくん。今日の撮影、SNSに上げてもいい?」

 
「絶対ダメ」

 
「え~~っ! あの“壁ドン未遂みたいなカット”が超いいのにぃ~」

 
「壁ドン……っ!?」

 
紗奈がぴょんと立ち上がる。

「凛音くん、誰かに壁ドンしたの!? それ、もしかしなくても……彼女?」

 
「違うわ!」

 
由依が冷静にお茶をすすりながら、ノートPCの画面を凛音に見せる。

「明日、母が編集部に出すプロフィール確認してって言ってたわ。新しい写真も追加ね」

 
「勝手に増やすな!」

 
「凛音は一家の誇りなんだから♡」

 
リビングは今日も騒がしく、
凛音は自室に逃げ込んだ。

静かな部屋。
シャツを脱ぎながら、ふと天音の言葉を思い出す。
 

「私、凛音の全部が好きって、言ったら困る?」
 

困る、って言ってしまった。

でも
――ほんとうは、心のどこかで、嬉しかった。

 
ベッドに倒れ込み、
天井を見つめながら、凛音は思う。

 
(……困るけど。好きだわ、たぶん。お前のそういうとこ)

 
それを認めるには、
もう少し時間が、必要だった。

 
【つづく】
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