俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第7話「ファンクラブ暴走、守る夏菜」

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週明けの月曜日。

天気は快晴。
陽射しは柔らかく、通学路の街路樹が淡く揺れていた。
風は穏やか。
気温もちょうどよく。

――つまり、絶好の学園日和。

しかし、桐嶋凛音の精神状態だけは、嵐の前だった。

 
「なあ悠真」

「ん?」

「俺、今日、ちょっと学校行きたくねぇ」

「理由は?」

「……なんとなく、空気がやばい気がする」

「なんとなくって、なんだよ」

 
正門前で並んで歩く二人。
凛音の感覚は、こういうときだけやたら鋭い。

悠真もわかっていた。
先週末
――“天音が凛音のモデル現場に遭遇した”事件。

本人たちは互いに何も口にしていないけれど、
クラスにはうっすらと「二人が何かあった」という空気が流れ始めていた。

それは、
噂というより“予感”のレベル。
だがそれだけでも、女子たちのジェラシーを刺激するには充分だった。

 

そして――教室のドアを開けた瞬間。

凛音は、その“嫌な予感”が現実になったことを悟った。

 

空気が、重い。

静まり返った教室。
なのに、視線だけが一斉に向けられる。

ざわ……と空気が軋む音が聞こえるようだった。

 
「……お、おはよ」

悠真がとりあえず無難に挨拶する。

凛音は何も言わず、無言で席へと向かう。

その横をすれ違う女子数人。
無言。

でも、冷たい目線だけは残していく。

 
「はーい、おはよ~」

 
と、その空気を破るように、明るく現れたのが白石天音だった。
今日も相変わらず。

ちょっと寝癖のついた髪。
シャツの第二ボタンが開いてて、リボンがずれてる。
でも、笑顔だけは満点。

男子たちがほっとしたように空気を吸い直す。

 
だが。

女子たちの視線が――ますます冷たくなった。

 
(……マジかよ)
 

凛音はすぐに空気の異変に気づいた。

そして、聞こえてくる。
女子たちの、ひそひそ声。

 
「今朝も一緒に来たんじゃないの?」

「たまたまのわけないよね」

「この前もモデル現場で会ったとか噂になってるし……」
 

噂は尾ひれをつけ、勝手に肥大していく。

やがてそれは
――行動に変わる。

 
「天音ちゃんってさ、いつも男子に囲まれてて楽しそうだよね」

 
一人の女子が、笑顔を貼りつけたまま声をかけてきた。

周囲の数人も便乗する。

「人気者って、ほんとすごいなぁって思って」
「彼氏いないのに、男の子にばっかり囲まれて」
 

まるで刺すような言葉。
だが、当の天音は
――ポカンとしていた。

 
「え、うん? そうかな? なんか、いろんな人が話しかけてくれて……」

 
悪気のなさすぎる返答が、逆に油を注いだ。

「そっか~。すごいなあ。普通、女子にも話しかけると思うけどな~」

「うちら、全然話したことないよね?」

「天音ちゃんって、女子嫌いなの?」
 

「え? そんなことないよ?」

「ふ~ん。じゃあ今度、一緒にトイレでも行こうよ」
 

空気がぬめっとした笑みで包まれる。
善意の皮を被った“囲い込み”。
これは女子の世界で言う、“陰湿な歓迎会”だった。

 
(……うわ、きたよこれ)

 
悠真が苦い顔をする。

だが、その時――

「やめな」

 
その低い声が、教室に響いた。

 
凛音ではない。

でも、それに近い圧を持った声。

――蒼井夏菜。

バレー部部長。
天音のファンクラブ会長にして、影の女番長。
 

教室の後方から現れた彼女は、いつもより目つきを鋭くしていた。

 
「そういう“女子同士のノリ”ってやつ、私は嫌いなんだよね」

「な、なにそれ? 別にそんなつもりで言ってないし……」

 
「“そんなつもり”じゃないなら、顔が怖すぎる。鏡見てこいよ」

 
静かに、けれど的確に撃ち抜く言葉。

教室の空気が、ビシリと緊張する。

女子たちが小さく舌打ちして、話題を変えようと引いていく。

夏菜はそのまま天音の隣まで来て、ぼそっと言った。

 
「アンタは、無自覚すぎ」

 
「え? 私、なんかした?」
 

「……してない。その顔で、生きてるだけで十分問題」

 
「……それって褒めてる?」
 

「バカか。少しは自覚しろって言ってんの」

 
その会話に凛音が口をはさもうとしたが、
天音があっさりと笑って、「ありがと」と言った。
 

「夏菜ちゃん、ありがと。私、ちょっと怖かったかも」
 

夏菜の肩がピクリと動いた。

そして、耳が赤くなる。

 
「……は? 怖かったのかよ。ならもっと警戒しろよ」

「でも、助けてくれたの、嬉しかった」

「……そ、そっかよ」
 

夏菜が天音の背をぽんと叩く。
不器用な友情の成立。

そして、その様子を見ていた凛音は、知らず知らずに口元が緩んでいた。
 

(……やっぱ、あいつは周囲を変える)

本人が無自覚なだけで、
近くにいる人間が、少しずつ、確かに変わっていく。
 

夏菜が、天音の盾になった。

自分は、何もできなかった。

けれど。
 

次は、自分が守りたい。

そんな想いが、胸の奥で小さく点灯した。

 


 
その日の放課後。
教室を出ようとした凛音の背中に、天音の声がかかる。

 
「凛音、今日ちょっとだけ歩かない?」

 
「……また、か」

 
「うん。今日は、ちゃんと“二人で”歩きたい」
 

廊下の端で待っていた彼女の表情は、
少しだけ、心細げで。

でも
――ほんのりと、強かった。

 
その歩みを並べながら、凛音は少しうつむいて言う。
 

「……悪かったな。何も言わずに。お前があんなこと言われてんのに、俺……」
 

「ううん。大丈夫だったよ」

 
「でも、なんか……腹立ってさ」

 
天音が小さく笑った。

 
「ねえ、凛音」

「ん」

「私、誰かに守られるの、ちょっと苦手だったけど……」
 

足を止めて、彼女は少し照れたように言った。
 

「……でも、凛音になら、守られたいかも」

 
風が吹いた。

制服の裾が揺れ、夕焼けが、二人の影を長く伸ばす。

凛音は、それに答える言葉を探して、見つけられず、
ただ、小さく一歩だけ近づいて――

その距離を、心の中で少しだけ、埋めた。

 
【つづく】
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