俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第8話「姉たちの恋愛査問会」

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金曜日の夕方。
雨が降る気配はなかった。

空は薄曇りで、風も穏やか。
学校帰りの道を、桐嶋凛音は足早に歩いていた。

 
「ただいま」

玄関を開けると、甘いアロマの香りが鼻先をくすぐった。
リビングの奥から、微かにキータイプ音。

由依だ。

彼女は大手企業の部長でありながら、基本は家でテレワーク。
弟の動向を逐一監視するこの家の実質的な“管理者”である。

 
「おかえり。ちょうど今、姉弟会議を開こうと思ってたところよ」
 

声が、落ち着きすぎていて、逆に怖い。

リビングに入ると、
由依はPCを閉じて、すでに準備されていた大判ノートをテーブルの上に広げた。

そのページの見出しには、達筆な文字でこう書かれていた。
 

《凛音恋愛疑惑に関する調査報告および対応方針会議》
 

「は?」

 
口から出たのは、一言の疑問だけだった。

それ以上の反応が出てこない。
というか、出せない。

 
「じゃあ、開会宣言。議長は長女・桐嶋由依。議題は“凛音の現在の恋愛状況と、その背景に関する調査および対応策”」

 
「意味がわからん」

 
「わからなくて結構。説明するから黙って聞いてて」

 
由依のメガネの奥の目が光る。
この人がこうなると、どんなに正論を吐いても意味がない。

 
ソファにはすでに、美咲と紗奈がスタンバイしていた。

美咲はスマホでなにやらSNSをチェック中。
紗奈は抱き枕をぎゅっと抱いて、すでに泣く準備をしている。

この布陣は、もはや“凛音処刑会”でしかない。

 
「議題1:凛音の交友関係の急激な変化」
 

由依が読み上げると同時に、美咲がスマホを凛音の顔の前に突きつけた。
 

「これ見て! 天音ちゃんって子でしょ? 凛音と同じクラスで、超絶美少女ってバズってんの」
 

「えっ、マジ? これバズってんの?」

 
「桐嶋凛音の隣の席にいる女の子がヤバいって話題。コメント欄には“俺もあの隣に生まれたかった”って書いてある。私もそう思う」
 

「知るか!」

 
「で、だ。ここからが本題」

由依がノートの次のページをめくる。
 

「凛音、お前、白石天音さんと“二人で下校”したことあるわね?」

 
「……見てたのかよ」

 
「監視はしてない。報告が上がってきただけ」

 
「報告ってなんだよ」

 
「この家、SNSの監視AIが組み込まれてるの忘れた? 該当ハッシュタグで通知が飛ぶようにしてる」

 
「いや怖えよ!? 俺のプライバシーどこ行った!?」
 

紗奈がぽつりとつぶやく。
 

「……凛音くんに彼女ができたら、お姉ちゃん、本当に死ぬかも」

 
「死ぬな。勝手に」

 
「じゃあ添い寝してもらわないと、紗奈、心の安定保てない……」
 

「それもやめろって言ってんだろ!!」
 

美咲がさらに追い打ちをかけるように画像を見せてくる。

そこには、街で凛音と天音が並んで歩く写真。

しかも、モデル撮影帰りのコーディネート付き。
 

「この写真、撮られたこと知ってた?」
 

「知らねぇよ! 誰が撮ったんだこれ!」
 

「たぶんフォロワー。で、この天音ちゃんって子、芸能界にスカウトされてる噂あるらしい」
 

「は?」
 

「つまりね、天音ちゃんは“美少女すぎて偶然街で見かけた人間がシャッターを切ってしまう”レベルの逸材ってことよ」

 
由依がしれっと締めに入る。

「で、凛音」
 

彼女は姿勢を正し、目を細めて言った。

 
「この子、どんな子なの? お前は、彼女のこと、どう思ってるの?」

 
言葉が出なかった。

凛音は、思わず拳を握りしめた。

頭の中に浮かぶのは――
天音の、あのときの笑顔。

あっけらかんとしていて、でもどこか切なくて。

そして、自分にだけ見せてくれた、少し弱った顔。

 
「……いい奴だよ」

 
それは精一杯、正直な答えだった。

でも、それ以上を言うのは、まだ怖かった。

だから、凛音はそれだけ言って、目を伏せた。

 
すると、由依がほんの一拍だけ間を置いてから言った。

 
「そう」

 
そして、静かに立ち上がる。

「今日はこれで終わりにするわ。恋愛に関しては、弟の意志を尊重する主義だから」

 
「ほんとに尊重してる奴の態度じゃねぇ」
 

「でも、次に“なにかあった”ときは、ちゃんと報告してね」

 
その声には、どこか本気の優しさがあった。

由依は“許可を求めてる”わけではない。

ただ、“共有してほしい”だけなのだ。

 
凛音は、少しだけ視線を上げて言った。

 
「……わかった」

 
その一言で、由依は満足げに微笑んだ。
 

「よろしい」

 
すると、突然ソファの紗奈が立ち上がり――

「……でも、凛音くんが取られちゃうのは……絶対に嫌!」

 
叫んだ。

次の瞬間、彼女は突進してきて凛音に抱きついた。

 
「もう、ずっと凛音くんと一緒にいたいの! 天音ちゃんなんかに渡さない!」

 
「バカ! 離せ!」

 
「いや~~~~~!!」

 
リビングは騒然とし、
美咲は「これ、動画に撮っとこう♪」とノリノリで録画を始めた。

由依が頭を押さえてため息をつく。

「……また家がバズるわね」

 
それでも。

凛音の心の中には、
ほんの少しだけ、暖かい火が灯っていた。

この家はめちゃくちゃだ。
干渉も過干渉。
プライバシーなんて存在しない。

けれど
――誰よりも、自分を想ってくれている。

だから、守りたいと思う。

この日常も、
天音との関係も、
そして、自分自身の気持ちも。

ちゃんと、自分の手で選び取れるように。

 
【つづく】
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