俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第19話「臨時美術教師、嵐を呼ぶ三女」

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その日、2限目のチャイムが鳴ると、教室に妙な空気が漂った。

いつもなら美術教師の丸山先生が来るはずなのに、
代わりに現れたのは、真っ黒なオーバーサイズのシャツにベレー帽、デザイナー然とした出で立ちの若い女性だった。

見た目だけで言えばモデル、
喋らなければ美術館にいても違和感のないその存在が、ずかずかと教室に足を踏み入れてくる。
 

「おはようございまーす! 今日から臨時で美術を担当することになった、桐嶋紗奈先生です♡ よろしくねぇ♡」

 
「え、先生……!?」

「え、桐嶋……って……」

「まさか、桐嶋って、あの……」

 
隣の席から、天音が凛音の顔をちらりと見た。

凛音はというと、机に額を押し付けていた。

 
「……俺の姉だ」

 
「三女?」

 
「三女」

 
「……ご愁傷様」
 

彼女の名前は桐嶋紗奈(さな)。
凛音の三番目の姉で、現在は芸術大学の服飾デザイン専攻。
それでいて、家では誰よりも弟への執着が強く、“弟は私の最高傑作”という電波発言を平然と連発する筋金入りのブラコンである。

そして
――今、この瞬間。
彼女は“何かを確かめに来た目”で教室を見渡していた。
 

「では今日は、みなさんに“恋する感情を絵にする”というテーマで自由制作をしてもらいます♡」
 
「なんでそれ……!」

「恋愛主義!?」

「教育方針ガン無視すぎん!?」

 
紗奈はノートを取り出し、教室内をぐるりと観察していた。

彼女の目が、とある女子生徒に止まった。

天音だった。
 

ふわっとした栗色の髪。
制服のスカートから覗く細い足。
何より、無垢な瞳でこちらを見つめ返す天然美少女オーラ。
 

「…………」

 
「?」

 
一瞬、教室に時が止まったような静寂が流れる。

紗奈は、自分の手帳を落としそうになりながら、呻いた。

 
「は…………天使…………」

 
「……え?」

 
「っぶぁぁああああああ!!! なにこの子!! なにこの子!! 凛音、何者連れてきてんの!!」
 

突然の叫びに、教室がざわめく。

「なんだなんだ!?」
「え、先生が騒いでる!?」

 
紗奈は椅子を蹴倒しながら天音のもとへ駆け寄り、
両手で彼女の顔を包み込んだ。
 

「かわいすぎて無理!! 人間か!? 君、人間か!? どこの次元から来たの!? 凛音、説明して!!」

 
「してたまるかああああ!!」

 
凛音が机を蹴って立ち上がる。

「何しに来たんだよお前は!!!」
 

「凛音の恋愛が怪しいから監査に来たの!!」

 
「やっぱりかあああ!!」

 
「でももういいよ!! 合格!! この子ならもう何されてもいい!!連れて帰りたい!!」
 

「……あの、私、学校あるんで……」
 

天音のぼそっとした反応がまた可愛く、
紗奈は後ろにひっくり返りそうになる。

教室はもはや騒乱状態だった。

 
「なにこのカオス」
「この人ほんとに先生?」
「凛音くんの姉ってやっぱヤバいんだな……」

 
そんな中、紗奈はついに凛音の席の前に立ち、
ビシッと人差し指を突きつけた。
 

「桐嶋凛音、聞きなさい。
 この美少女を泣かせたら、お前の寝顔をデッサンして学内展に飾るからな」

 
「拷問だろそれ……」
 

「誓いなさい、愛してるって」
 

「なんで教室で公開プロポーズさせるんだよ……」
 

「誓って! 今すぐ!」
 

凛音は苛立ちを隠せず天音を見やったが、
当の天音はほわんと微笑んでいて、
むしろ「早く言って♡」と言わんばかりの眼差し。

その顔を見てしまえば、
もう、逃げられなかった。

 
「……あぁ。
 ちゃんと愛してるよ。
 この……天然うっかり癒しバカを」

 
「うっかり……癒しバカ?」
 

「かわいいって意味だ。たぶん」

 
「ん……うれしい♡」

 
その瞬間、
教室内から黄色い歓声と拍手が巻き起こった。

「きゃあああああ!!」
「尊い!!!」
「ちょ、マジで恋人ってレベル超えてる!!」

 
悠真と夏菜も後方の席で拍手を送っていた。

「いや、もうここまできたら応援せざるを得ないな」

「うん。てか……いいな、こういうの」
 

その横顔を見て、
夏菜はふと、微笑んだ。

 

 

その日の帰宅後。

凛音はリビングのソファで力尽きていた。

顔にタオルを乗せたまま、うめく。
 
「……やられた。
 もう、いろんな意味で疲れた……」
 
するとキッチンから声がする。

「はい、お疲れ様でした~。弟彼氏ちゃんにはハーブティーをどうぞ~」
 
カップを持ってきたのは、もちろん紗奈。

「……なんでもういるんだよ」
 
「今日は添い寝してから部屋に戻る予定です」
 
「やめろ」
 
「明日からも美術室でお姉ちゃんの愛を描いてもらうから覚悟しといてね♡」
 
「……学校を、俺の安全圏から排除しないでくれ」
 

それでも、
凛音の口元には、ほんの少し笑みが浮かんでいた。

彼の背中にはまだ、家族の存在が重くのしかかっている。

けれど。
それを支えてくれる誰かが、今、隣にいてくれる。

――その確かな実感が、
彼の心に、静かな光を灯していた。

 
【つづく】
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