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第13話:スケッチブックに描かれた嘘(3/4)
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~過去を描く手、現在を揺らす心~
翌日の昼休み。
マコトたちは、1年A組の教室前で立ち止まっていた。
中では普通に授業が進められており、生徒たちの笑い声が聞こえてくる。
その中に、あの名前――姫乃 樹里(ひめの じゅり)――もあった。
「本当にここにいるんだな……」とマコト。
「1年A組って、いろはさんのクラスだよね?」と蓮。
いろはは頷いた。表情は複雑で、目は伏し目がちだ。
「……樹里さんは明るくて、優しくて、絵もすごく上手い。
でも……やっぱり、ちょっと……何を考えてるのかわからない時があるんです」
「ふむ……そういう人ほど、名探偵的には超気になるタイプだな」
「それ、絶対逆効果になるパターンのやつでしょ」と早紀。
マコトは教室の扉をノックした。
■姫乃 樹里との対面
「えっと……1年A組の姫乃さん、いますか?」
「は~い!」
ぱっと手を挙げて現れたのは、明るいピンク系のカーディガンを着た少女。
ぱっと見、柔らかい笑顔の“キラキラ系女子”だが――どこか、“仕立ての良い仮面”のような印象をマコトは受けた。
「生徒会の方ですか? わたし、何かしました?」
「ちょっとだけ、お話を……いいですか?」
屋上のベンチ。春風が吹くなか、マコト、早紀、美穂、そしていろはと姫乃の5人は並んでいた。
「……慧くんのことですね」
姫乃は、いきなり核心に触れてきた。
「知ってるんですか、絵のこと」
「うん。いろはちゃん、びっくりしたでしょ?
でも、それ――わたしが描いたの」
「……!」
「じゃあやっぱり……」
マコトが口を開きかけた瞬間、姫乃は微笑みながら先手を打った。
「だけどね、わたし、“嘘は描いてない”んです」
■姫乃の告白
「慧くんが亡くなって、すぐのこと。
いろはちゃんから、スケッチブックを少しだけ見せてもらったとき……
最後の3ページが、白紙だった」
「……?」
「慧くんは、“最後の3枚”を白紙で終わらせたの。わざと。
わたし、聞いたことある。“いつか、足してくれる誰かがいたらいい”って」
「……それって、遺言みたいなもの?」
「違うよ。ただの“願い”。でも、わたしはその願いに応えたかった。
慧くんの“続きを描く”ことで、彼がいなくなっても、“ここにいる”って証明できると思ったから」
「じゃあ、贋作とか、嘘とかじゃなくて――」
「そう。“続き”。
わたしが描いたのは、慧くんの絵じゃない。
“慧くんが生きていたら描いたかもしれない未来”」
姫乃は、やわらかく微笑んだ。まるで花が咲くように。
「ごめんね、いろはちゃん。勝手にやって……でもね、後悔はしてないの。
わたしにとっては、慧くんの“最後のキャンバス”だったから」
いろはは、じっとスケッチブックを抱きしめたまま、姫乃を見つめていた。
その目には、怒りも悲しみもない。
ただ――小さな戸惑いと、少しの涙が滲んでいた。
「……ありがとう、ございます」
「え?」
「わたし……お兄ちゃんのこと、忘れたくなくて。でも、どうしていいかわからなくて……
だから、こうして“誰かのなかに残ってる”って思えただけで、なんか……少し、救われました」
美穂が、空気を和ませるように言った。
「よかったね、いろはちゃん。“愛されてた兄”って、なんか、マンガのタイトルみたいだけどさ」
「うわ、それ絶対マコトが主役になるスピンオフのやつ」
「俺そんな死んでねーよ!!」
マコトは立ち上がり、空を見上げた。
「……事件、解決。いや、“事件”じゃなかったかもしれないけど」
「でも、誰かの心が動いたなら、それでいいと思うよ」
姫乃が目を丸くする。
「それ、ちょっと探偵っぽい……」
「でしょ!?“心の謎を解くのが、名探偵”って感じじゃない!?」
「いまの自分で台無しにしたな」と早紀。
■数日後、生徒会室にて
いろはが、生徒会室にふらっとやって来た。
手には、あのスケッチブック。
「えっと……ありがとうございました、皆さん。
これ、描き足されたページです。今は、ちゃんと“わたしの手で”閉じました」
彼女が開いた最後のページには――
慧へ
あなたの絵は、私が覚えています。
そして、みんなが少しずつ“描き続けて”くれました。
今度は、私の番です。
そこには、いろはが初めて描いた風景画。
兄が残したスタイルをなぞるようでいて、そこには、明らかに“彼女自身の線”があった。
◆つづく◆
翌日の昼休み。
マコトたちは、1年A組の教室前で立ち止まっていた。
中では普通に授業が進められており、生徒たちの笑い声が聞こえてくる。
その中に、あの名前――姫乃 樹里(ひめの じゅり)――もあった。
「本当にここにいるんだな……」とマコト。
「1年A組って、いろはさんのクラスだよね?」と蓮。
いろはは頷いた。表情は複雑で、目は伏し目がちだ。
「……樹里さんは明るくて、優しくて、絵もすごく上手い。
でも……やっぱり、ちょっと……何を考えてるのかわからない時があるんです」
「ふむ……そういう人ほど、名探偵的には超気になるタイプだな」
「それ、絶対逆効果になるパターンのやつでしょ」と早紀。
マコトは教室の扉をノックした。
■姫乃 樹里との対面
「えっと……1年A組の姫乃さん、いますか?」
「は~い!」
ぱっと手を挙げて現れたのは、明るいピンク系のカーディガンを着た少女。
ぱっと見、柔らかい笑顔の“キラキラ系女子”だが――どこか、“仕立ての良い仮面”のような印象をマコトは受けた。
「生徒会の方ですか? わたし、何かしました?」
「ちょっとだけ、お話を……いいですか?」
屋上のベンチ。春風が吹くなか、マコト、早紀、美穂、そしていろはと姫乃の5人は並んでいた。
「……慧くんのことですね」
姫乃は、いきなり核心に触れてきた。
「知ってるんですか、絵のこと」
「うん。いろはちゃん、びっくりしたでしょ?
でも、それ――わたしが描いたの」
「……!」
「じゃあやっぱり……」
マコトが口を開きかけた瞬間、姫乃は微笑みながら先手を打った。
「だけどね、わたし、“嘘は描いてない”んです」
■姫乃の告白
「慧くんが亡くなって、すぐのこと。
いろはちゃんから、スケッチブックを少しだけ見せてもらったとき……
最後の3ページが、白紙だった」
「……?」
「慧くんは、“最後の3枚”を白紙で終わらせたの。わざと。
わたし、聞いたことある。“いつか、足してくれる誰かがいたらいい”って」
「……それって、遺言みたいなもの?」
「違うよ。ただの“願い”。でも、わたしはその願いに応えたかった。
慧くんの“続きを描く”ことで、彼がいなくなっても、“ここにいる”って証明できると思ったから」
「じゃあ、贋作とか、嘘とかじゃなくて――」
「そう。“続き”。
わたしが描いたのは、慧くんの絵じゃない。
“慧くんが生きていたら描いたかもしれない未来”」
姫乃は、やわらかく微笑んだ。まるで花が咲くように。
「ごめんね、いろはちゃん。勝手にやって……でもね、後悔はしてないの。
わたしにとっては、慧くんの“最後のキャンバス”だったから」
いろはは、じっとスケッチブックを抱きしめたまま、姫乃を見つめていた。
その目には、怒りも悲しみもない。
ただ――小さな戸惑いと、少しの涙が滲んでいた。
「……ありがとう、ございます」
「え?」
「わたし……お兄ちゃんのこと、忘れたくなくて。でも、どうしていいかわからなくて……
だから、こうして“誰かのなかに残ってる”って思えただけで、なんか……少し、救われました」
美穂が、空気を和ませるように言った。
「よかったね、いろはちゃん。“愛されてた兄”って、なんか、マンガのタイトルみたいだけどさ」
「うわ、それ絶対マコトが主役になるスピンオフのやつ」
「俺そんな死んでねーよ!!」
マコトは立ち上がり、空を見上げた。
「……事件、解決。いや、“事件”じゃなかったかもしれないけど」
「でも、誰かの心が動いたなら、それでいいと思うよ」
姫乃が目を丸くする。
「それ、ちょっと探偵っぽい……」
「でしょ!?“心の謎を解くのが、名探偵”って感じじゃない!?」
「いまの自分で台無しにしたな」と早紀。
■数日後、生徒会室にて
いろはが、生徒会室にふらっとやって来た。
手には、あのスケッチブック。
「えっと……ありがとうございました、皆さん。
これ、描き足されたページです。今は、ちゃんと“わたしの手で”閉じました」
彼女が開いた最後のページには――
慧へ
あなたの絵は、私が覚えています。
そして、みんなが少しずつ“描き続けて”くれました。
今度は、私の番です。
そこには、いろはが初めて描いた風景画。
兄が残したスタイルをなぞるようでいて、そこには、明らかに“彼女自身の線”があった。
◆つづく◆
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