面白ミステリー『名探偵マコトの事件簿2』

naomikoryo

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第70話『パンに頼らず、伝えるってやつ』

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その日の放課後、ことりは呼び出しを受けて、1年A組の担任・滝沢先生の元へ向かっていた。

教室の隅、職員用の小さなテーブル。
滝沢先生は眼鏡をかけた30代男性教師で、いつも静かに、そして真面目に生徒を見ているタイプだった。

 
滝沢先生:「……椎名。ようやく落ち着いたようだね、“パン騒動”。」

 
ことり:「……はい。“一旦封印”という形で、まとめました」

 
滝沢先生:「いや、まとめなくていいからね?」

 
ことり:「……はい」

 
滝沢先生:「あのね、椎名。率直に言うよ。
君の出席日数、“パンの配布日”しか記録されてないんだよ」

 
ことり:「それでも皆勤ではあります」

 
滝沢先生:「確かに物理的にはね!?でもそれ、“教室にはいた”ってだけで授業は出てないんだよ!?」

◆【怒られ…そうで怒られない】

滝沢先生:「正直、校内が“恋のパン教”で騒がしくなってた間、
君がその中心だったってわかってたけど……」

 
ことり:「……すみません」

 
滝沢先生:「でも……成績、全部トップクラスなんだよなぁ……」
 

ことり:「そこは、祖父譲りです」

 
滝沢先生:「いや、ほんと困るのよ。怒りにくいのよ、君みたいなの!!
休んでるのにレポート完璧だし、小テストも満点だし……!」
 

ことり(すごく小さな声で):「……パン焼く時間が無くなるので、スキマ時間で全て片づけてます」

 
滝沢先生:「隙あらばパンなのやめろおおぉぉ!!」

◆【でも、ちゃんと伝えられるように】

滝沢先生:「……まあ、君のやってることが“完全に悪”とは思ってないよ。
パンって、人を元気にしたり、誰かの背中を押すこともあるし」

 
ことり:「……はい」

 
滝沢先生:「でも、これからは“教室”にもちゃんといてほしい。
みんなと、ちゃんと顔を合わせて、話して、時には……“ことば”でも伝えてごらん」
 

ことり:「“ことば”ですか……」

 
滝沢先生:「うん。パンの香りでも、温度でもなく――君の声でね」
 

ことりはしばらく黙っていたが、
やがて、少しだけ笑ってうなずいた。

 
ことり:「……わかりました。
パンの代わりに、少しずつ“私の言葉”を焼いてみます」

 

滝沢先生:「うん、それ混ざってるから!比喩混ざってるからね!!」

◆【その夜:メッセージパン】

夜。
マコトの家のポストに、小さな袋が入っていた。

中には――
焼きたてのミニ食パンと、メモが添えられていた。

 
『ことばで伝えるのは、まだちょっと恥ずかしいので――
このパンは、“応援してる”の気持ち入りです。
明日、ちゃんと教室にいます。 -ことり』

 
マコトはパンを見つめながら、
ぼそっとつぶやいた。
 

「……お前ってやっぱ、最高の相棒だな」

 
そして、パンを一口。

じんわりと、あったかい“気持ち”が広がっていった。

 
(つづく)
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