瑞樹と桜子:新婚隣人の恋バナ対決

naomikoryo

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第4章:一途な恋と報われない恋

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「さて……私の初恋の話をする前に」

 桜子はカップを持ち上げ、ゆっくりと紅茶をひと口飲んだ。
そして、瑞希を見てニヤリと微笑む。

「瑞希の話、確かに甘酸っぱくて青春って感じだったね。
 でも、私の初恋は……
 そんなにキラキラしたものじゃなかったよ」

「おっ、なんか意味深だね。
 で? 
 誰なの? 
 私も知ってる人って言ったけど」

「うん。
 瑞希も、きっと覚えてるはず」

 桜子は少しだけ間を置き、ゆっくりと名前を口にした。

「……相沢直人、って覚えてる?」

「えっ!? 
 あの相沢??」

 瑞希の目が驚きで見開かれる。

「そう、あの相沢。
 クラスで目立つタイプじゃなかったけど、成績はいつも上位で、どちらかというと地味だけど、優しい人だった」

「あー……
 確かに、いたね。
 なんか、静かに目立ってたっていうか……」

「そう。
 私ね、高校一年の時、彼のことがずっと好きだったんだ」

-----------------------------------------------------------------

 私が相沢を好きになったきっかけは、ほんの些細なことだった。

 高校に入ったばかりの頃、数学の時間に問題がわからなくて、たまたま隣の席だった相沢に
「ねぇ、これってどうやるの?」って聞いたの。
そしたら、彼はちょっと驚いた顔をしたあと、小さな声で「ここをこうして……」って説明してくれてね。

 その時の彼の説明が、すごく丁寧でわかりやすかったの。
私、数学が得意な方だったけど、彼の解き方は私とは違う視点で、「なるほど」って思わされることが多かったんだよね。

 それから、自然と彼と話すことが増えていって……
気がついたら、彼のことを目で追うようになってた。

 でもね、私の恋は、瑞希みたいにドラマみたいな展開にはならなかったの。

 ただ、ずっと片思いだった。

 何度も「好き」って伝えたかったけど、言えなかった。
彼は穏やかで優しいけれど、特別誰かと親しくするタイプでもなくて……
自分が彼にとって特別な存在じゃないことを、薄々わかっていたから。

 それでも、私は諦められなくて、三年間ずっと彼を好きでいたの。

 好きな人ができたっていう噂を聞くたびに胸が痛くなって、体育祭でたまたま同じ係になっただけで嬉しくなって、席替えで隣になった時は密かにガッツポーズして……
でも、彼はずっと、私の気持ちに気づくことはなかった。

 結局、卒業式の日に、私は彼に「今までありがとう」って言うことしかできなかった。

 彼はいつもと変わらない笑顔で「うん、桜子も元気でね」って言ってくれた。それだけ。

 私は彼に、何も伝えられなかったまま、終わったんだよね。

-----------------------------------------------------------------

 桜子が語り終えると、瑞希は珍しく黙り込んでいた。
そして、ぽつりと呟く。

「……そっか。
 三年間、片思いしてたんだ」

「うん。
 長すぎて、途中で恋してるのが当たり前になってたけどね」

「それって、辛くなかった?」

「辛かったよ。
 でも、同時に楽しくもあったかな。
 だって、好きな人がいるだけで、学校に行くのがちょっと楽しくなるんだもん」

 桜子は苦笑しながら、紅茶をもうひと口飲む。
瑞希は腕を組んで、しばらく考え込んでいたが、やがて「ふーん」と口を開いた。

「桜子らしいっていうか……
 なんか、わかる気がするなぁ」

「え?」

「ほら、桜子って意地張るし、あんまり感情を表に出さないじゃん? 
 だから、そういう風に静かに好きでいるのも、なんか納得」

「それ、褒めてる?」

「うーん、まぁ半分くらいは?」

 瑞希はからかうように笑い、すぐに真剣な顔に戻る。

「でもさ、私とは真逆だよね。
 私の初恋は両想いになって、付き合ったけど終わった。
 でも、桜子はずっと片思いのまま終わった」

「……そうだね」

「結局、どっちが『いい恋』だったのかな?」

 その問いに、桜子は少し考え、微笑んだ。

「さぁ……
 でも、どちらも“初恋”って意味では、負けてないと思うよ」

「……なるほどね」

 二人は目を見合わせて、くすりと笑い合った。

 桜子と瑞希。

 まったく違う形の初恋を経験した二人だったが、どちらもそれぞれに大切な思い出であり、少しほろ苦い記憶だった。

 そして、初恋の話が終わったことで、二人の恋バナ対決はますます白熱していく——。
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