瑞樹と桜子:新婚隣人の恋バナ対決

naomikoryo

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第5章:ドラマのような恋愛

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「さて、次のテーマは……」

 瑞希はテーブルを指で軽く叩きながら、少し考えるそぶりを見せた。

「せっかくだからさ、今度は“ドラマみたいな恋”について話そうよ」

「ドラマみたいな恋?」

「そう! 
 ほら、映画とか小説に出てきそうな、ちょっと現実離れした恋愛ってあるじゃん? 
 そういうの、経験したことない?」

「うーん……」

 桜子はカップを持ち上げながら、記憶の引き出しを開ける。
たしかに現実的な恋愛ばかりではなく、どこか映画のワンシーンみたいな出来事もあったような気がする。
でも、それを話す前に——。

「じゃあ、まずは瑞希から」

「えっ、私?」

「最初に言い出したのは瑞希でしょ?」

「まぁ、そうだけど……」

 瑞希は少し照れくさそうに笑いながら、指を組んだ。

「……実はね、私、一度だけ“海外ロマンス”みたいなのを経験したことがあるんだ」

「海外ロマンス?」

「うん、大学の卒業旅行で行ったフランスでの話なんだけど……」

-----------------------------------------------------------------

 大学を卒業する前の春、私は友達と一緒にパリへ旅行に行ったの。
ずっと憧れていた街で、エッフェル塔やルーブル美術館を巡って、カフェでクロワッサンを食べて……
っていう、まぁ普通の観光をしてたんだけど。

 でもね、旅行最終日にちょっとした事件が起きたの。

 セーヌ川沿いを歩いてた時、ふと目に入ったストリートアーティストが描いてた絵がすごく素敵でね。
思わず足を止めて見てたの。
そしたら、その画家がこっちを見てニコッと微笑んできたのよ。

 それが、めちゃくちゃイケメンでさ!!

 黒髪に青い瞳で、少し無精ひげがあって……
もう、完全に映画に出てくるような「パリのアーティスト」って感じだった。

 そしたら彼、突然「君、ちょっと座ってくれる?」って言うのよ。
英語で、ね。

 最初はびっくりしたけど、好奇心が勝っちゃって、つい座っちゃったのよね。
そしたら、彼、私のスケッチを描き始めたの。

 「君の雰囲気がとても素敵だから、描かせてほしい」なんて、もう……ヤバくない?

「いや、それもう完全に映画のワンシーンじゃん」

「でしょ!? 
 私も“こんなこと、ほんとにあるんだ!”って思ったもん!」

 瑞希は目を輝かせながら、話を続ける。

 彼はフランス人と日本人のハーフで、名前はレオ。
フランスで生まれ育ったけど、日本語も少し話せるって言ってた。

 絵を描いてもらってる間、いろんな話をした。
パリの街のこと、彼の好きな絵画のこと、日本に行った時の思い出のこと……。

 でね、スケッチが完成したあと、彼が突然こう言ったの。

 「君ともっと話したい。
 もしよかったら、今日の夜、一緒に食事に行かない?」って。

「えっ、マジで?」

「マジで! 
 もう心臓バクバクだったよ!」

 当然、最初は迷った。
だって、海外で出会ったばかりの人と夜に出かけるなんて、普通は警戒するじゃん? 
でも……直感で、“この人は大丈夫”って思ったのよね。

 だから、友達に事情を話して、慎重に行動することを約束したうえで、私はレオとディナーに行くことにしたの。

 そしたらもう、夢みたいな時間だったよ。

 セーヌ川の夜景を見ながら、ロマンチックなレストランで食事をして、ワインを飲んで……
彼はすごく紳士的で、私のことを丁寧にエスコートしてくれて。

 まるで映画のヒロインになった気分だった。

 ……でも、結局それは“一夜限りの夢”だったのよね。

 次の日、私は日本に帰らなきゃいけなかった。
彼は「また会おう」って言ってくれたし、連絡先も交換した。
でも、結局お互いの生活があって、そのまま連絡も途絶えてしまった。

 だから、あの時間はまさに“ドラマのような恋”だった。
現実じゃなくて、フィルムの中のワンシーンみたいなもの。

 それでも、あの夜のことを思い出すたびに、私はちょっとだけ甘い気分になるんだよね。

-----------------------------------------------------------------

 瑞希が話し終えると、桜子はため息をついた。

「……いやもう、反則でしょ、それ」

「でしょ!? 
 私もこんなことあるんだって思ったもん!」

「確かにドラマみたいな恋だったね。
 でも、じゃあ私も“非現実的な恋”の話をしないとね」

「おっ、桜子にもそんな恋愛あったの?」

「まぁね……
 ただし、私のは瑞希みたいにロマンチックじゃないけど」

「え、何それ?
 気になる!」

 桜子は少し遠くを見るような目をしながら、クスリと笑った。

「……次の章で話してあげる」

「うわっ! 
 また引っ張る!」

 二人の恋バナ対決は、ますます熱を帯びていく——。
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