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第4章:偽りの祝福者たち
第2話『影の集い』
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夜、町の西端。
今では使われなくなった旧鉱山の炭坑跡。
灯りはなく、足場は湿ってぬかるんでいる。
それでも、そこに人の気配があった。
集まっていたのは十数人の男女。
かつて神に祈り、しかし報われなかった者たち。
家族を失った者、飢えた子を救えなかった者、
病の床で叫んだが、神は沈黙したままだった者。
彼らは皆、**「祈りに見放された人間」**だった。
その中心に立つのは、黒い法衣の男――ゼル=クレイン。
「ようこそ、我が友よ」
落ち着いた声に、人々の肩がゆるむ。
「皆、心に“痛み”を抱えているな。
祈ったのに届かなかった者だけが、この場所に辿り着ける。
なぜなら、我らは“祈りの外側”に生きる存在なのだから」
誰も言葉を返さない。
ただ、うつむき、唇を噛み、静かに拳を握る者たち。
ゼルは、膝をつくようにして目線を下げた。
「怒りも、悲しみも、絶望もいい。
だがそのままでは“ただの沈黙”だ。
それを“力”に変える方法を、私が教えよう」
男の掌に、静かに光が浮かぶ。
それは祝福ではない。
聖なる光に似て、しかしどこか赤黒く濁った色だった。
「この力は、“真の祝福”ではない。
だが、“神に見捨てられた者”には等しく降り注ぐ。
これは、お前たち自身の“祈らない祈り”が作り出す力だ」
一人の女が声を震わせて問う。
「……これは、“神”ではないんですか……?」
「神は、お前を助けなかった」
ゼルは静かに答える。
「だったらもう、神を信じる必要などない。
お前自身が、自分の願いを叶えればいい。
この手で、祈りを力に変え、
もう一度――“神の座”を奪い返すのだ」
その場に、誰かが膝をつく音。
やがて、他の者たちも次々にうなずき、静かに頭を垂れた。
新たな“信仰”が生まれようとしていた。
それは祈りの形をしていながら、祈りではない。
信じることを諦めた者たちが抱く、呪いにも似た祈り――“逆祝福”。
ゼルはそれを、街に“静かに”撒こうとしていた。
—
そのころ、教会。
書庫の奥で、マーヴィンは静かに資料を漁っていた。
「……やっぱり、いたな」
古い教会記録のなかに、かつて神殿を追放された祝福者たちの記録があった。
“偽祝福者”と呼ばれた一派。
その中でも特に記録が曖昧で、最後まで処分が明記されていない男――ゼル・クレイン。
マーヴィンはその名に線を引き、ぼそりと呟く。
「お前、あの夜会った“奴”だな。
……祈りに似せた“怨念”を扱う者。
だがあれは言葉じゃ操れない。感情の熱そのものだ」
扉が軋み、足音がした。
現れたのは、セシリア。
静かな目で、マーヴィンの机に近づいてくる。
「また、“敵の名前”を見つけたのですね」
「バレてたか」
セシリアは少しだけ微笑む。
「マーヴィン様は、静かにしている時ほど“何か企んでる顔”になります」
「……心外だな」
「でも……ありがとう。
わたしが見えないところで、こうして調べてくれて。
……わたし、マーヴィン様がいなかったら、とっくに折れていたかもしれません」
マーヴィンは、視線を合わせなかった。
けれど、どこか照れたように肩をすくめる。
「……ああ見えて、敵は“祈りそのもの”を否定してる。
君の存在が“憎い”から狙ってるわけじゃない。
“祈るという行為”を、根っこから否定したいんだ」
セシリアはゆっくりとうなずく。
「でも、わたし……祈りを捨てたくない」
「なら、祈れ。
どんなに“偽り”に塗りつぶされても、
君の祈りは“本物”であり続ければいい。
……それが、あの男への最大の反撃になる」
—
その日の夜。
町の広場で、子どもたちのために開かれた小さな演奏会。
セシリアはその中心で、歌を捧げていた。
教会の鐘は鳴らず、光も差さない。
だが、彼女の歌は、そこにいる人々の心をわずかに温めた。
その片隅で、フードを被ったゼルが静かに見下ろしていた。
「……あれが、崩れない“核”か。
ならば、まずは“核のまわり”を剥がしていこう。
信じていた者が裏切ったとき、
あの娘の祈りはどれほど保てるかな?」
彼の言葉に、もう一人の黒衣が小さく笑う。
「次は、誰を狙いますか?」
「まずは、自警団だな。
あのマーヴィンという男――“戦わずに味方を作る”のが得意らしい。
……あれは“裏切り”に弱い。
彼の手の中にある信頼を、ひとつずつ剥がす。
言葉より先に、行動を混乱させる。
それが一番効く」
月が雲に隠れ、夜が深くなる。
そして、町は知らぬ間に、祈りの戦場へと足を踏み入れていた。
今では使われなくなった旧鉱山の炭坑跡。
灯りはなく、足場は湿ってぬかるんでいる。
それでも、そこに人の気配があった。
集まっていたのは十数人の男女。
かつて神に祈り、しかし報われなかった者たち。
家族を失った者、飢えた子を救えなかった者、
病の床で叫んだが、神は沈黙したままだった者。
彼らは皆、**「祈りに見放された人間」**だった。
その中心に立つのは、黒い法衣の男――ゼル=クレイン。
「ようこそ、我が友よ」
落ち着いた声に、人々の肩がゆるむ。
「皆、心に“痛み”を抱えているな。
祈ったのに届かなかった者だけが、この場所に辿り着ける。
なぜなら、我らは“祈りの外側”に生きる存在なのだから」
誰も言葉を返さない。
ただ、うつむき、唇を噛み、静かに拳を握る者たち。
ゼルは、膝をつくようにして目線を下げた。
「怒りも、悲しみも、絶望もいい。
だがそのままでは“ただの沈黙”だ。
それを“力”に変える方法を、私が教えよう」
男の掌に、静かに光が浮かぶ。
それは祝福ではない。
聖なる光に似て、しかしどこか赤黒く濁った色だった。
「この力は、“真の祝福”ではない。
だが、“神に見捨てられた者”には等しく降り注ぐ。
これは、お前たち自身の“祈らない祈り”が作り出す力だ」
一人の女が声を震わせて問う。
「……これは、“神”ではないんですか……?」
「神は、お前を助けなかった」
ゼルは静かに答える。
「だったらもう、神を信じる必要などない。
お前自身が、自分の願いを叶えればいい。
この手で、祈りを力に変え、
もう一度――“神の座”を奪い返すのだ」
その場に、誰かが膝をつく音。
やがて、他の者たちも次々にうなずき、静かに頭を垂れた。
新たな“信仰”が生まれようとしていた。
それは祈りの形をしていながら、祈りではない。
信じることを諦めた者たちが抱く、呪いにも似た祈り――“逆祝福”。
ゼルはそれを、街に“静かに”撒こうとしていた。
—
そのころ、教会。
書庫の奥で、マーヴィンは静かに資料を漁っていた。
「……やっぱり、いたな」
古い教会記録のなかに、かつて神殿を追放された祝福者たちの記録があった。
“偽祝福者”と呼ばれた一派。
その中でも特に記録が曖昧で、最後まで処分が明記されていない男――ゼル・クレイン。
マーヴィンはその名に線を引き、ぼそりと呟く。
「お前、あの夜会った“奴”だな。
……祈りに似せた“怨念”を扱う者。
だがあれは言葉じゃ操れない。感情の熱そのものだ」
扉が軋み、足音がした。
現れたのは、セシリア。
静かな目で、マーヴィンの机に近づいてくる。
「また、“敵の名前”を見つけたのですね」
「バレてたか」
セシリアは少しだけ微笑む。
「マーヴィン様は、静かにしている時ほど“何か企んでる顔”になります」
「……心外だな」
「でも……ありがとう。
わたしが見えないところで、こうして調べてくれて。
……わたし、マーヴィン様がいなかったら、とっくに折れていたかもしれません」
マーヴィンは、視線を合わせなかった。
けれど、どこか照れたように肩をすくめる。
「……ああ見えて、敵は“祈りそのもの”を否定してる。
君の存在が“憎い”から狙ってるわけじゃない。
“祈るという行為”を、根っこから否定したいんだ」
セシリアはゆっくりとうなずく。
「でも、わたし……祈りを捨てたくない」
「なら、祈れ。
どんなに“偽り”に塗りつぶされても、
君の祈りは“本物”であり続ければいい。
……それが、あの男への最大の反撃になる」
—
その日の夜。
町の広場で、子どもたちのために開かれた小さな演奏会。
セシリアはその中心で、歌を捧げていた。
教会の鐘は鳴らず、光も差さない。
だが、彼女の歌は、そこにいる人々の心をわずかに温めた。
その片隅で、フードを被ったゼルが静かに見下ろしていた。
「……あれが、崩れない“核”か。
ならば、まずは“核のまわり”を剥がしていこう。
信じていた者が裏切ったとき、
あの娘の祈りはどれほど保てるかな?」
彼の言葉に、もう一人の黒衣が小さく笑う。
「次は、誰を狙いますか?」
「まずは、自警団だな。
あのマーヴィンという男――“戦わずに味方を作る”のが得意らしい。
……あれは“裏切り”に弱い。
彼の手の中にある信頼を、ひとつずつ剥がす。
言葉より先に、行動を混乱させる。
それが一番効く」
月が雲に隠れ、夜が深くなる。
そして、町は知らぬ間に、祈りの戦場へと足を踏み入れていた。
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