魔女の贈り物 ~僕という奇跡~

naomikoryo

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第2章 日常のすれ違い

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朝の授業が始まると、琢磨はいつもの教室に立ち、黒板に大きく数式を記しながら今日の授業内容を頭の中で反芻していた。
窓から差し込む柔らかな朝日が、教室内の埃を煌めかせ、静かな空間に一筋の温もりをもたらしている。
生徒たちは各々の机に向かい、真剣な面持ちでノートを広げ、時折、軽妙な冗談や疑問を投げかける。
その中にあっても、琢磨は教師としての責任感と、どこか自分を卑下する内心の葛藤に苛まれていた。

授業中、黒板に次々と数式を書き込む彼の背後では、いつも通り、ささやかなざわめきが漂っていた。
しかし、琢磨の視線はふと一瞬、廊下の奥へと向けられる。
そこには、校内でも評判の才色兼備な生徒会長、高宮琴音が、厳粛な表情とともに歩んでいた。
彼女は、まるで学校全体の秩序を守るかのような鋭い眼差しで、時折廊下に集う生徒たちに向けても、厳格な指示を出していた。
琴音の存在は、琢磨にとって、学校という小さな世界の象徴のように感じられた。
その鋭い視線は、彼の隠された内面や、どこか弱さを見抜こうとするかのように、何度も心に刺さった。

昼休み、教室を抜け出して校内を歩くと、琢磨は自然と保健室へと足を運んだ。
そこでは、赤井静香が、いつものように淡々とした口調で校内の生徒の体調を気にかける業務に従事していた。
廊下でふとすれ違った際、静香はふと立ち止まり、やや辛辣な口調で呟く。
「また、メタボのことで心配になってしまうわね……」
その一言は、琢磨にとっては小さな刺のように感じられたが、どこか真剣な眼差しに隠された彼女なりの優しさも垣間見えた。
彼は苦笑いを浮かべながら、内心で「自分がいかに情けないか」としみじみと反省するのだった。
そうして、いつものように胃薬をもらって飲むのだった。

放課後、校内が静かに変わりゆく中、琢磨の心はひときわ複雑な思いで満たされていた。
教壇での堅実な振る舞いと、外では隠し持つ密かな情熱―
それは、誰にも見せることのできない小さな秘密だった。
ひとりきりになれる時間、彼は自室の片隅にこっそりと飾ってある魔女っ娘のフィギュアたちに目を向ける。
フィギュアは、細部にまでこだわった美しい衣装と、妖艶な表情をたたえており、まるで魔法の世界から飛び出してきたかのような存在感を放っていた。
彼にとってそれは、現実の重圧や自己嫌悪からの逃避の象徴であり、また、密かに抱く「もっと魅力的になりたい」という切実な願望の具現でもあった。

暗い教室での堅実な講義、厳しい現実を映し出す琴音の眼差し、そして、冷静でありながらも心配する静香の言葉。
すべてが、琢磨の日常を彩る一片の風景であった。
彼は、表向きは普通の数学教師としての顔を保ちながらも、内面ではいつしか「自分を変えたい」という淡い希望と、失われた自分への後悔とが入り混じった複雑な感情に苛まれていた。

その夜、校舎の窓越しに見える都会の明かりが、琢磨の心に一層の孤独感を呼び起こす。
薄暗い部屋に戻った彼は、窓辺に腰を下ろし、ふと空に向かって小さくつぶやいた。
「もし、ほんの少しでも……」
その短い呟きは、いつか自分が変わることへの微かな願いであり、同時に、今の自分では決して辿り着けない輝きを求める叫びでもあった。
思い返せば、教室で生徒たちと交わす何気ない会話や、琴音や静香との短いやり取りの中に、かつての自分が持っていた温かな誠実さがあった。
しかし、日々の忙しさと自己肯定感の低さが、彼の内面に少しずつ影を落としていったのだ。

琢磨はその夜、机に向かいながら自らの心情を静かに綴ることもなく、ただただ遠くに輝く未来に想いを馳せた。
たとえそれが、誰にも気づかれることのない密かな願望であっても―。
今日一日のすれ違いの数々は、彼にとって新たな変革への小さな前触れに過ぎなかった。
彼は、心の奥底でそっと、そして確かな決意を抱き始めていたのだ。

こうして、日常の何気ないすれ違いの中で、琢磨は自らの存在意義と向き合い、隠された内面の情熱を再確認するひとときを過ごした。
彼にとって、今日という一日は、ただの平凡な日常で終わるはずだった。
しかし、その心の奥底には、確かに「変わりたい」という小さな火種が、次第に大きな光となって燃え上がる予感があった。
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