2 / 31
第2話 「女たらしのようでマザコンな陽翔、社内モテとその裏側」
しおりを挟む
翌朝。
オフィスに入った瞬間、私はすでに少しだけ疲れていた。
昨夜の真木家訪問が、あまりにも濃すぎて、胃の奥に残ったままなのだ。
「うちの息子、どうにかして」
「婿にしてくれてもいい」
「養子にしちゃって?」
あのギャル母・玲奈さんのパッションに、私は圧倒されるどころか、しばらく湯船で魂が出てた。
そして問題の本人——
「おはようございます、黒瀬主任。昨日はありがとうございました。ママ、すっごく喜んでましたよ」
何食わぬ顔で、満面の笑みで私に声をかけてきたのは、他でもない真木陽翔本人。
「ママが」って言葉がもう普通に出てくる時点で、軽いホラーだ。
「……あのさ、昨日のことだけど」
「はい?」
「君のママに、ちょっと変なこと頼まれた気がするんだけど……」
「ああ、それですか。最近、ママ焦ってるみたいなんですよ。僕の将来が不安らしくて」
「……まぁ、確かに不安だけどね」
「えっ、そうですか?」
「“ママ”呼びする25歳、かなりレアだよ?」
「……えっ、そうですか?」
本人はこれっぽっちも悪びれてない。
いや、悪びれるどころか、それが自分の誇りみたいな顔してる。これがまた厄介だ。
***
社内はいつもどおり、“真木陽翔サーガ”が繰り広げられていた。
「真木くん、お昼行かない?」
「私、昨日の資料分かんなくて~。後で教えて?」
「ねぇねぇ、彼女いないんでしょ? 私、料理得意だよ?」
OLたちの視線が、常に陽翔に集中している。
ある者はさりげなく彼の隣の席に座り、ある者はスカートの裾を直しながら視線を送る。
けれど。
「すみません、午後は母とランチの約束があるので」
「今夜ですか? いや、母と映画を観に行く予定で」
まさかの母予定ラッシュ。
……おい、社内女子たちの目が死んでるぞ。
***
昼休み、私は給湯室でコーヒーを淹れながら、隣にいた**同期の榊(さかき)**と世間話をしていた。
「黒瀬、お前さぁ。あの真木って子と仲良いよな?」
「仲良いっていうか、直属の上司だからね」
「いや、それにしてもさ。やたら話しかけてくるし、ちょっと甘えたがってる感じがすんだよな。年上好きか?」
「んー……“好き”っていうか、“母親が好き”なんだよね、あの子」
「……それ、彼女できないタイプじゃね?」
「まったくもってそのとおり」
私は頷いた。
榊は、真面目な性格で、学生時代からの同期。
何かと気にかけてくれるし、時々飲みにも行く。
見た目も悪くないし、正直なところ――付き合えそうな気も、しないでもない。
でも、私は知っている。
彼は、私が誰かに気を取られていると、ちょっとだけ不機嫌になることを。
私が誰かと笑って話していると、急に仕事の話を持ち出してくることを。
――あれはたぶん、気のせいじゃない。
***
一方、陽翔は会議室で、年配の女性取引先と打ち合わせをしていた。
「真木さん、ほんとによく気がつくのねぇ。うちの若い社員より、よっぽど話が通じるわ」
「いえいえ、うちの“母”が、女性は話を“聞いてくれるだけ”で嬉しいって、よく言ってまして」
“母”という言葉を口にするたびに、相手の年上女性たちの顔がほころんでいく。
――それを、意図的に使ってる節がある。
陽翔はマザコンという名の、対年上女性最強兵器なのかもしれない。
言ってしまえば、計算高いところもある。
でも、悪びれない。どこか天然でやってるような“あざとさ”がある。そこがまた、憎めない。
***
夕方、私はふと、社内の若手OLたちが集まってひそひそと話しているのを聞いてしまった。
「黒瀬主任ってさ、真木くんと距離近くない?」
「わかる。なんか“お姉さん感”っていうか、“ママ感”出してる」
「え~、でもあの歳であれだけ綺麗なのすごくない?」
「むしろああなりたい~。崇拝……!」
最後の一言に、私は思わずコーヒーを吹きそうになった。
え、崇拝?
私は自分が“ちょっと年上のおもしろい先輩”だと思っていた。
でも、どうやらそれだけじゃなかったらしい。
――真木陽翔がモテるのは分かる。でも、私がこんな風に見られていたとは。
これはこれで……複雑だ。
***
帰り際、真木陽翔がまたしても私に話しかけてきた。
「黒瀬主任。……今度、またうち来ませんか? ママ、餃子作るって張り切ってて」
「ちょ、ちょっと待って。あの……毎回お母さんに会うの、ちょっと気まずいんだけど」
「えっ、なんでですか? ママ、黒瀬主任のこと、めちゃくちゃ気に入ってますよ?」
「……それがまた、怖いのよ」
「えっ、怖いって……どうして?」
天然なのか本気なのか、陽翔は首をかしげて見上げてくる。大きな犬みたいな目をして。
……この目で「ママ~」って言ってるのかと思うと、複雑な感情が胸の奥に渦巻く。
「……とりあえず、また考えとくわ」
「じゃあ、楽しみにしてますね」
そう言って、陽翔は笑顔で帰っていった。
その背中を見ながら、私はそっとため息をついた。
――これから、私の平穏な生活はどうなっていくんだろう。
――このマザコン新人と、どこまで関わることになるんだろう。
――そして、私の心は、どこまで揺さぶられていくんだろう。
分からない。
でも、一つだけ確信している。
この物語は、まだまだ**“ママ”の一声で動く**のだ——。
(つづく)
オフィスに入った瞬間、私はすでに少しだけ疲れていた。
昨夜の真木家訪問が、あまりにも濃すぎて、胃の奥に残ったままなのだ。
「うちの息子、どうにかして」
「婿にしてくれてもいい」
「養子にしちゃって?」
あのギャル母・玲奈さんのパッションに、私は圧倒されるどころか、しばらく湯船で魂が出てた。
そして問題の本人——
「おはようございます、黒瀬主任。昨日はありがとうございました。ママ、すっごく喜んでましたよ」
何食わぬ顔で、満面の笑みで私に声をかけてきたのは、他でもない真木陽翔本人。
「ママが」って言葉がもう普通に出てくる時点で、軽いホラーだ。
「……あのさ、昨日のことだけど」
「はい?」
「君のママに、ちょっと変なこと頼まれた気がするんだけど……」
「ああ、それですか。最近、ママ焦ってるみたいなんですよ。僕の将来が不安らしくて」
「……まぁ、確かに不安だけどね」
「えっ、そうですか?」
「“ママ”呼びする25歳、かなりレアだよ?」
「……えっ、そうですか?」
本人はこれっぽっちも悪びれてない。
いや、悪びれるどころか、それが自分の誇りみたいな顔してる。これがまた厄介だ。
***
社内はいつもどおり、“真木陽翔サーガ”が繰り広げられていた。
「真木くん、お昼行かない?」
「私、昨日の資料分かんなくて~。後で教えて?」
「ねぇねぇ、彼女いないんでしょ? 私、料理得意だよ?」
OLたちの視線が、常に陽翔に集中している。
ある者はさりげなく彼の隣の席に座り、ある者はスカートの裾を直しながら視線を送る。
けれど。
「すみません、午後は母とランチの約束があるので」
「今夜ですか? いや、母と映画を観に行く予定で」
まさかの母予定ラッシュ。
……おい、社内女子たちの目が死んでるぞ。
***
昼休み、私は給湯室でコーヒーを淹れながら、隣にいた**同期の榊(さかき)**と世間話をしていた。
「黒瀬、お前さぁ。あの真木って子と仲良いよな?」
「仲良いっていうか、直属の上司だからね」
「いや、それにしてもさ。やたら話しかけてくるし、ちょっと甘えたがってる感じがすんだよな。年上好きか?」
「んー……“好き”っていうか、“母親が好き”なんだよね、あの子」
「……それ、彼女できないタイプじゃね?」
「まったくもってそのとおり」
私は頷いた。
榊は、真面目な性格で、学生時代からの同期。
何かと気にかけてくれるし、時々飲みにも行く。
見た目も悪くないし、正直なところ――付き合えそうな気も、しないでもない。
でも、私は知っている。
彼は、私が誰かに気を取られていると、ちょっとだけ不機嫌になることを。
私が誰かと笑って話していると、急に仕事の話を持ち出してくることを。
――あれはたぶん、気のせいじゃない。
***
一方、陽翔は会議室で、年配の女性取引先と打ち合わせをしていた。
「真木さん、ほんとによく気がつくのねぇ。うちの若い社員より、よっぽど話が通じるわ」
「いえいえ、うちの“母”が、女性は話を“聞いてくれるだけ”で嬉しいって、よく言ってまして」
“母”という言葉を口にするたびに、相手の年上女性たちの顔がほころんでいく。
――それを、意図的に使ってる節がある。
陽翔はマザコンという名の、対年上女性最強兵器なのかもしれない。
言ってしまえば、計算高いところもある。
でも、悪びれない。どこか天然でやってるような“あざとさ”がある。そこがまた、憎めない。
***
夕方、私はふと、社内の若手OLたちが集まってひそひそと話しているのを聞いてしまった。
「黒瀬主任ってさ、真木くんと距離近くない?」
「わかる。なんか“お姉さん感”っていうか、“ママ感”出してる」
「え~、でもあの歳であれだけ綺麗なのすごくない?」
「むしろああなりたい~。崇拝……!」
最後の一言に、私は思わずコーヒーを吹きそうになった。
え、崇拝?
私は自分が“ちょっと年上のおもしろい先輩”だと思っていた。
でも、どうやらそれだけじゃなかったらしい。
――真木陽翔がモテるのは分かる。でも、私がこんな風に見られていたとは。
これはこれで……複雑だ。
***
帰り際、真木陽翔がまたしても私に話しかけてきた。
「黒瀬主任。……今度、またうち来ませんか? ママ、餃子作るって張り切ってて」
「ちょ、ちょっと待って。あの……毎回お母さんに会うの、ちょっと気まずいんだけど」
「えっ、なんでですか? ママ、黒瀬主任のこと、めちゃくちゃ気に入ってますよ?」
「……それがまた、怖いのよ」
「えっ、怖いって……どうして?」
天然なのか本気なのか、陽翔は首をかしげて見上げてくる。大きな犬みたいな目をして。
……この目で「ママ~」って言ってるのかと思うと、複雑な感情が胸の奥に渦巻く。
「……とりあえず、また考えとくわ」
「じゃあ、楽しみにしてますね」
そう言って、陽翔は笑顔で帰っていった。
その背中を見ながら、私はそっとため息をついた。
――これから、私の平穏な生活はどうなっていくんだろう。
――このマザコン新人と、どこまで関わることになるんだろう。
――そして、私の心は、どこまで揺さぶられていくんだろう。
分からない。
でも、一つだけ確信している。
この物語は、まだまだ**“ママ”の一声で動く**のだ——。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる