私の部下 ~マザコンでしたが、今では恋人で、夫です。

naomikoryo

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第6話 「黒瀬家での宅飲み、陽翔と二人きりの夜」

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 週末の金曜。
 残業明けの帰り道、私はふと気が抜けてしまって、ぽろりと口にした。

「……はぁ、誰かと飲みたいなぁ」

 真木陽翔は、その言葉に即座に反応した。

「じゃあ……僕、行きましょうか?」

「は?」

「黒瀬主任の家で、飲みます?」

「いや、そんな軽く来られても……って、え、君飲めたっけ?」

「ビールくらいなら。あとママがよくワイン飲んでるんで、付き合ってます」

 ——ママ基準か。

 そういうことじゃなくて、上司の家に新入社員が来るのってどうなのよって話なんだけど……。
けれど、疲れすぎていたせいか、私は気が緩んでいた。

「ま、まぁ……いいけど。一杯だけよ? 本当に一杯」

「やった、ママにも報告しよう」

「いらん報告しなくていい!」

 

***

 

 夜九時。
 近所のスーパーでつまみを買い込み、陽翔とともに私のマンションにたどり着いた。

「うわ、綺麗ですね。女性の一人暮らしって感じです」

「そう? そんなでもないけど……汚れてるとこあったら言って」

「いや全然。ママの部屋より片付いてるかも」

 だから比較対象がママの部屋なのやめて。

 缶ビールを開け、テーブルの上にはから揚げ、ポテサラ、枝豆、それから買ってきたチーズとナッツの盛り合わせ。
お互いにスウェットに着替え、すっかり部屋着モード。

 思いのほか、陽翔はリラックスしていた。
 というか、家庭的な空気に溶け込みすぎじゃないか?

「主任って、休日何してるんですか?」

「テレビ見たり、YouTube見たり、ラジオ聞いたり……わりと引きこもり」

「……やっぱり、落ち着く人だなあ。ママに似てる」

「……またそれか」

「でもほんとに似てるんですよ。口調とか、雰囲気とか。なんか、疲れないんです」

 ……それ、恋愛対象じゃなくて“母性採取場”として見てないか?

 

***

 

 1缶、2缶と進み、私は少しだけ酔っていた。
 陽翔は変わらず落ち着いていたが、どこか表情が柔らかい。

「黒瀬主任って……さっき、“引きこもり”って言ってましたけど」

「うん」

「寂しくないんですか?」

「んー、たまには。でも、誰かと一緒にいると、それはそれで気疲れしちゃうし。だったら一人のほうが楽でしょ?」

「……それ、ママも言ってました」

「……ほんと、君たち親子、同じ言語しゃべってるよね」

 ふふっと笑い合ったその瞬間、陽翔の目が、ふっと真剣になった。

「でも……主任といると、僕、疲れないです」

「……え?」

「他の人と一緒だと、気を遣っちゃうんですよ。年下の子って騒がしいし、女子って急にテンション高くなるし、こっちが合わせなきゃって思っちゃう。……でも主任は、そうじゃないから」

 そう言って、彼はテーブルにあったグラスを静かに傾けた。
 部屋の中は、テレビの音すら消えていて、ほんの少しだけ空気が重くなった。

「……主任って、“恋愛”とか、どう考えてるんですか?」

「……え?」

「僕、いままで彼女とかいなかったし、恋ってよく分からないんです。ママがいたから、別に必要だと思わなかった。でも、主任と一緒にいると、なんか……それだけじゃダメなんじゃないかって、思い始めてて」

「……真木くん」

「僕、主任のこと、好きかもしれません」

 ……時が止まった。

 酔っているのは私のほうだったはずなのに、今、この一言で一気に酔いが醒めた。

「……冗談でしょ?」

「本気ですよ。でも……ごめんなさい。ママにも言ってないです。主任には、ちゃんと僕の“自分の気持ち”として伝えたくて」

 彼の目は、まっすぐで澄んでいた。

 ——だけど。

 それが、“恋”なのか、“甘えたいだけ”なのか。
 それとも、ただの代理ママに対する勘違いなのか。

 私には、まだ分からなかった。

 

***

 

 夜が更け、時計の針は12時を過ぎていた。

「今日は、泊まっていく?」

「えっ……いいんですか?」

「ソファあるし。タオルとブランケットも出すから」

「じゃあ、遠慮なく。……ママも安心すると思います」

「いや、そこは安心しなくていいから!」

 

 私はシャワーを浴びてから、リビングに戻った。
 すると、陽翔はブランケットをかぶって、すでに横になっていた。

 その寝顔は、やっぱりまだ少年のようで、同時に、妙に綺麗だった。

 この子が、ちゃんと“恋”をするのは、いつなんだろう。
 その時、私はその“相手”になれるんだろうか——。

 そんなことを考えながら、私は寝室へと向かった。

 

(つづく)
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