最終電車

naomikoryo

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第十話:妹が見た夢

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1. 再会
 由紀が実家に戻ってから数時間後、玄関の扉が勢いよく開いた。

 「ただいまー!」

 元気な声が家の中に響く。

 「おかえり、玲奈」

 キッチンから母が顔を出す。

 「遅かったじゃない。部活、長引いたの?」

 「うん、明後日の試合に向けて練習してたんだ。でも、疲れたー!」

 リビングに駆け込んできたのは、高校生の妹・玲奈。
 黒髪をポニーテールにまとめ、スポーツバッグを肩にかけた姿は、元気いっぱいの運動部員そのものだった。

 「姉ちゃん、おかえり!」

 玲奈は由紀を見るなり、スーツケースの横に腰を下ろした。

 「久しぶり! 東京はどう?」

 「相変わらず仕事ばっかり」

 由紀は苦笑する。

 「玲奈こそ、部活忙しそうじゃん」

 「まぁね。でも、楽しいよ!」

 玲奈は笑顔で答えるが、少しだけ目の下にクマができていた。
 疲れているのだろう。それでも明るく振る舞うのが、昔からの玲奈の性格だった。

 「お姉ちゃんも、ちょっとは休んだほうがいいよ。東京でずっと働き詰めだったんでしょ?」

 「……まぁ、そうかも」

 玲奈に指摘されると、改めて自分がいかに疲れていたかを実感する。
 たまにはこうして実家でのんびりするのも悪くないと思えた。

2. 妹が見た夢
 母がキッチンで夕飯の準備をしている間、由紀と玲奈はリビングのソファに座り、久しぶりの姉妹の会話を楽しんでいた。

 「……そういえばさ」

 玲奈がふと、声のトーンを落とす。

 「変なこと言ってもいい?」

 「何?」

 玲奈は少しだけ、言いにくそうに口を開いた。

 「……最近、ちょっと変な夢を見るんだよね」

 「変な夢?」

 玲奈は頷く。

 「すごくリアルな夢でさ……なんていうか、お父さんが出てくるんだよ」

 由紀の心臓が跳ねた。

 「お父さん?」

 「うん」

 玲奈は少し考えるように天井を見つめ、言葉を続けた。

 「でもね、お父さんのはずなのに、なんかちょっと違うの」

 「違うって……?」

 「見た目が、若いんだよ」

 ――若い?

 由紀は、思わず息をのんだ。

 「お父さんの若い頃の顔って、よく知らないけど……夢に出てくるお父さんは、たぶん20代くらいの顔をしてるんだよね」

 玲奈は、どこか不思議そうな表情で続ける。

 「夢の中で、私は駅のホームに立っててさ。お父さんがすぐ近くにいて、こっちを見てるの。でも、なぜか私に話しかけずに、ずっと遠くを見てるんだよね」

 「遠くを?」

 「うん。なんか、誰かを探してるみたいな感じで」

 誰かを探している若い頃の父。

 それを聞いた瞬間、由紀の脳裏に昨夜の出来事がフラッシュバックした。

 最終電車の中で、自分を助けてくれた青年。
 酔っ払いの男を牽制し、静かに寄り添ってくれた存在。

 玲奈の夢に現れた父の姿は、由紀が昨夜出会った青年と同じだったのではないか――?

 「玲奈……その夢、いつ見たの?」

 由紀は思わず訊ねた。

 「えっと……確か、一週間前ぐらいから…」

 「それで?」

 「でも、昨夜は見なかったな…」

 由紀の背筋がゾクリとした。

 (まさか……)

 偶然?
 それとも、何か意味があるのか?

3. ふたりの記憶
 「変な話でしょ?」

 玲奈は苦笑しながら言った。

 「お母さんには言ってないんだけど、なんか……目が覚めた時、すごく不思議な気持ちになったんだ」

 由紀は、震える手でコップの水を飲んだ。

 (私だけじゃなかった……)

 今まで、昨夜の出来事は自分の中だけの「奇跡」だと思っていた。
 けれど、妹もまた、同じ夜に**「若い頃の父」に会っていた。**

 「ねぇ、玲奈……お父さんは、その夢の中で何か言ってた?」

 玲奈は、少し考えた後、首を横に振った。

 「ううん、何も。ずっと遠くを見てるだけだったよ」

 「そっか……」

 もしかしたら、父は誰かを探していたのかもしれない。
 それが「由紀」だったのか、「玲奈」だったのかは分からない。

 だけど、昨夜のあの瞬間に、二人とも「父の存在」を感じていたことは確かだった。

4. 夢の意味
 「……お父さん、今でも見守ってくれてるのかな」

 玲奈がポツリと呟いた。

 「……そうかもね」

 由紀は、自分の手のひらをじっと見つめる。

 現実的に考えれば、「若い頃の父」が最終電車に現れることなんて、あり得ない。
 でも、昨夜の出来事がなければ、由紀は今ここにいなかったかもしれない。

 もしかしたら、何か大切なことを伝えようとしてくれているのかもしれない。

 (お父さん……何を言いたかったの?)

 けれど、その答えはまだ分からなかった。

5. 夜空に浮かぶ想い
 その夜、由紀は実家の庭に出て、空を見上げた。

 都会では見られない星が、静かに瞬いている。

 「……ありがとう」

 そっと呟く。

 昨夜の青年が本当に父だったのか、確信は持てない。
 けれど、心の中で「ありがとう」と伝えたくなった。

 すると、その瞬間――。

 夜空に、一筋の流れ星が消えていった。

 それが偶然なのか、必然なのかは分からない。

 だけど、由紀の心の中には、静かに温かいものが広がっていた。
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