最終電車

naomikoryo

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第九話:夢か現実か

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1. 過去と現在が交差する
 家の外で吹いた風が、カーテンをふわりと揺らした。

 白石由紀は、アルバムを開いたまま、ぼんやりとしたまま動けずにいた。

 (本当に……そんなことがあり得るの?)

 昨夜、自分を助けてくれた青年。
 彼の姿が、アルバムに写る若き日の父とそっくりだった。

 ――これは偶然? それとも、何かの奇跡?

 由紀は、今まで一度も「幽霊」や「不思議な現象」を信じたことはなかった。
 仕事に追われる日々の中で、そういった話は非現実的なものとして片付けていた。

 だけど――。

 昨夜、自分が出会ったあの青年は、間違いなく父の若い頃の姿だった。
 話し方も、仕草も、雰囲気も、そして性格までも。

 (……本当に、お父さんだったの?)

 あり得ない。
 あり得るはずがない。

 でも、どうしても無視できない事実が、目の前のアルバムの中にあった。

 「どうしたの? そんなにじっと見つめて」

 母の声に、はっと我に返る。

 「……ううん、なんでもない」

 ゆっくりとアルバムを閉じる。

 心の中は整理がつかないままだった。
 でも、今すぐ母に話すのは違う気がした。

2. 父の思い出
 由紀は、ふと母に聞いてみた。

 「ねぇ……お父さんって、亡くなる前に何か言ってた?」

 母は少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。

 「そうね……」

 母は、思い出すように目を細める。

 「あなたのことを、ずっと心配していたわ」

 「私のこと?」

 「ええ。由紀は頑張りすぎるところがあるから、いつか無理をして倒れてしまうんじゃないかって」

 それを聞いて、由紀の胸が少し締め付けられるような感覚に襲われた。

 (……そんなこと、考えたこともなかった)

 確かに、仕事では限界ギリギリまで頑張ってしまうタイプだ。
 誰かに頼ることが苦手で、全部自分で抱え込んでしまう。

 でも、父がそんなふうに心配してくれていたなんて、初めて知った。

 「もっと頼ってほしいって言ってたわ」

 母の言葉が、心にじんわりと沁み込んでいく。

 「頼る……か」

 仕事では、「頼る」ということができなかった。
 誰かに相談しても、「結局は自分でやるしかない」と思ってしまう。

 だけど、もし昨夜、あの青年――いや、父が助けに来てくれたのだとしたら……。

 (お父さんは、私に「頼れ」って言いたかったのかな)

 だとしたら、なぜ今なのだろう?

3. 奇跡の夜
 昨夜の出来事を、もう一度思い返してみる。

 最終電車の中で、酔っ払いに絡まれ、逃げ場がなかった。
 誰も助けてくれず、どうしようもなかったその瞬間――あの青年が現れた。

 彼はまるで、最初から自分を見守っていたかのように、自然に声をかけてきた。

 「よっ、久しぶり!」

 あの時、彼がいたからこそ、酔っ払いは引き下がった。
 もし彼が現れなかったら、何が起こっていたか分からない。

 (でも、それなら……どうして、今まで一度も現れなかったの?)

 由紀が仕事で辛かった時も、苦しい時も、彼の姿を感じることはなかった。
 なのに、なぜ昨夜だけ……?

 なぜ、あのタイミングだったのか?

 考えれば考えるほど、答えは見つからなかった。

 「……お父さん……」

 小さく呟く。

 その時、ふと、リビングの窓の外に目を向けた。

 空は、穏やかな青色だった。
 雲がゆっくりと流れ、どこか遠い場所へ消えていく。

 まるで、何かを伝えようとしているかのように――。

4. 何かを確かめるために
 「……ちょっと、散歩してくるね」

 そう言って、由紀は家を出た。

 田舎道をゆっくりと歩く。
 子供の頃に遊んだ公園や、小学校の前を通り過ぎる。

 風が頬を撫で、心を少しだけ落ち着かせる。

 (私、何を確かめたいんだろう……)

 きっと、心の中ではもう分かっているのかもしれない。
 「昨夜の青年が父だった」とは、簡単には信じられない。

 でも――。

 (もし本当に、お父さんだったとしたら……?)

 何を伝えたかったのかを知りたかった。

 ふと、携帯を取り出し、昨夜のニュースをもう一度検索する。

 (あの酔っ払いが捕まって、本当に良かった……)

 もし、自分が襲われていたら――。
 もし、父が助けてくれなかったら――。

 そう思うと、全身が冷たくなるような気がした。

 (……もう少し、休もう)

 東京に戻る前に、もう少しだけ、ここでゆっくり過ごそう。

 父が本当に自分を見守ってくれていたのかどうかは分からない。
 でも、あの青年――あの父の姿をした人が現れたことには、きっと意味がある。

 だからこそ、自分の中の答えを見つけるまで、焦らずに向き合おう。

 由紀はそう決めた。
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