先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

文字の大きさ
3 / 39

第3話「恋のライバル!?お弁当事件」

しおりを挟む
サッカー部に本格的に関わるようになって、三週間ほどが過ぎた。

 

最初は勝手がわからず戸惑ってばかりだったけれど、少しずつペースが掴めてきたように思う。
水分補給の時間やボトルの準備。
メンバーの特徴や癖もなんとなく覚えてきた。

 

「柚葉さんって、いつもきっちりしてますよね。」
「いやいや。マネージャーのおかげで助かってるよ、マジで。」

 

そう言ってもらえるだけで、疲れも吹き飛ぶ。
部活が終わる頃には、グラウンドの空気に自分も自然に溶け込めているような気がしていた。

 

ただ――問題は、やっぱり“あの人”だ。

 

「んー……海苔がしけってるのって、風味出てて良くないですか?」

 

「それ、誰かが落としたおにぎり食べてないですか!?」

 

「えっ!?落ちてたんですか?誰かが僕のために置いてくれたのかと……」

 

風間先輩。
三年生のキャプテンにして、サッカー部の混乱要素ナンバーワン。

 

しかも今日は、お弁当の話題だった。

 

始まりは、昼休み。
部室のテーブルに置かれていた、手作り弁当の包み。

そのラップに貼ってあった付箋には、小さく「いつもありがとう」と書かれていた。

 

「これ、誰の?」
「えー?私じゃないよ?」
「まさか……他のファンから!?」

 

女子部員たちがざわめく中、風間があっさりと言った。

 

「あ、僕が作りましたよ。」

 

――場が凍りついた。

 

「……え?」

 

「いや、ちょっと最近料理にハマってて。誰かに食べてほしいなと思って。」

 

「それって……つまり、風間先輩が、自分のために自分で手作りして、ありがとうって付箋まで貼ったってことですか?」

 

「そうなりますね!」

 

「意味がわかりません!!!」

 

柚葉は、思わず大声でツッコんでいた。

 

(なんでそんなことするの!?
 自己完結の極みすぎるでしょ!!)

 

だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
なぜか女子部員たちの間で、“風間先輩は料理男子”という情報が一瞬で広まってしまったのだ。

 

「え!?風間先輩って、料理できるんですか!?」
「えー!見えないけど、ギャップ萌え!」
「えっ、じゃあ今度クッキーとか作ってきてくれるのかな……」

 

完全に盛り上がっている。

 

(ち、ちがうって!違うのに!)

 

柚葉はその場にいながら、何も言えなかった。
本当は、あのお弁当は自分が作って持ってきたものだ。
昨日、練習が遅くまであったから、帰り際に「明日の補食にでも」と渡していた。

付箋の言葉も、自分で書いた。

でも、それを風間先輩が天然で“自作”と言ってしまい、勘違いのまま広まってしまった。

 

(なにあれ……全然悪気がないのが一番たち悪い……。)

 

なぜか胸の奥がざわついて、もやもやとした感情が広がっていく。

 



 

放課後の練習中。
グラウンドに出てくる風間を、女子たちが遠巻きに見つめていた。

 

「ねえ、風間先輩、誰が狙ってると思う?」
「いや、あの人マジで誰にでも優しいからわかんないんだよね。」

 

(……あんなに注目されてるなんて、知らなかった。)

 

柚葉は、配るボトルのフタを強めに閉めながら小さくため息をついた。

(なんで……こんな気持ちになるんだろ。)

 

もちろん、風間先輩が誰にモテようと、関係ない。
ただの部活仲間だし、キャプテンとマネージャーという関係なだけ。

それなのに。
“あのお弁当は自分が作った”と、一言だけでも訂正してくれたら……そう思ってしまう。

 

(ずるいよ、先輩。
 天然で、そんなつもりじゃないのに、人の気持ちごと振り回すの……。)

 

そんな気持ちを抱えたまま、練習が終わった夕方。
部室の前で、風間が柚葉を待っていた。

 

「今日もお疲れ様です。」

 

「……ありがとうございます。」

 

少しだけトゲのある声になってしまった自分に気づき、柚葉は慌てて目をそらした。

 

「なんか……怒ってます?」

 

唐突に聞かれて、ドキッとする。

 

「べ、別に怒ってないです。」

 

「そうですか?でも、朝からずっとなんか……距離ありますよね?」

 

「ないです!!」

 

「ありますよね!?
 ていうか、もしかしてお弁当のこと、何か変でした?」

 

心臓が跳ねた。
風間は、あの弁当の件に気づいている……?

 

「……あれ、本当は柚葉さんが作ったやつですか?」

 

「っ……!」

 

「ですよね。僕、ああいうの作れないし。
 包み紙、うちにないやつだったし。
 しかも、あの手書きの文字、なんか見覚えあるなって。」

 

「あのっ……じゃあ、なんで……」

 

「咄嗟に言っちゃったんですよ。
 変に騒がれたら柚葉さんが困るかなって思って。」

 

「……!」

 

「僕が“手作り男子”ってことになっても別にいいんです。
 でも、柚葉さんが変に噂されて嫌な思いするのはイヤだったから。」

 

静かな声で、けれど確かな思いを込めて語られるその言葉に、
柚葉の胸の奥に広がっていたモヤモヤが、ふっと消えた気がした。

 

(……もう、そういうとこだよ。)

(なんでいちいち、ちゃんとしてるの……。)

 

「……はい。私が作ったやつです。
 食べてくれて、ありがとうございました。」

 

「すごく美味しかったです。
 もう、プロって感じでした。」

 

「それは言いすぎです。」

 

ふっと笑いがこぼれる。
ずっと張っていた気持ちの糸が、ようやく緩んだ気がした。

 

「じゃあ今度、また作ってきてもいいですか?」

 

自分でも驚くほど、素直な声だった。
顔が赤くなっているのがわかる。

 

「はい。むしろ、毎日でも……って言ったら、怒られますか?」

 

「怒りませんけど……調子に乗らないでください。」

 

「はい……!」

 

満面の笑みで返されて、また胸がくすぐったくなった。

 

なんなんだろう、この人は。
本当に、わけがわからない。

だけど。

気づけば、もう目が離せなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。

雨宮羽那
恋愛
 侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。  (私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。  しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。  絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。  彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――? ◇◇◇◇ ※全5話 ※AI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@1/9新刊発売
恋愛
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...