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第3話「恋のライバル!?お弁当事件」
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サッカー部に本格的に関わるようになって、三週間ほどが過ぎた。
最初は勝手がわからず戸惑ってばかりだったけれど、少しずつペースが掴めてきたように思う。
水分補給の時間やボトルの準備。
メンバーの特徴や癖もなんとなく覚えてきた。
「柚葉さんって、いつもきっちりしてますよね。」
「いやいや。マネージャーのおかげで助かってるよ、マジで。」
そう言ってもらえるだけで、疲れも吹き飛ぶ。
部活が終わる頃には、グラウンドの空気に自分も自然に溶け込めているような気がしていた。
ただ――問題は、やっぱり“あの人”だ。
「んー……海苔がしけってるのって、風味出てて良くないですか?」
「それ、誰かが落としたおにぎり食べてないですか!?」
「えっ!?落ちてたんですか?誰かが僕のために置いてくれたのかと……」
風間先輩。
三年生のキャプテンにして、サッカー部の混乱要素ナンバーワン。
しかも今日は、お弁当の話題だった。
始まりは、昼休み。
部室のテーブルに置かれていた、手作り弁当の包み。
そのラップに貼ってあった付箋には、小さく「いつもありがとう」と書かれていた。
「これ、誰の?」
「えー?私じゃないよ?」
「まさか……他のファンから!?」
女子部員たちがざわめく中、風間があっさりと言った。
「あ、僕が作りましたよ。」
――場が凍りついた。
「……え?」
「いや、ちょっと最近料理にハマってて。誰かに食べてほしいなと思って。」
「それって……つまり、風間先輩が、自分のために自分で手作りして、ありがとうって付箋まで貼ったってことですか?」
「そうなりますね!」
「意味がわかりません!!!」
柚葉は、思わず大声でツッコんでいた。
(なんでそんなことするの!?
自己完結の極みすぎるでしょ!!)
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
なぜか女子部員たちの間で、“風間先輩は料理男子”という情報が一瞬で広まってしまったのだ。
「え!?風間先輩って、料理できるんですか!?」
「えー!見えないけど、ギャップ萌え!」
「えっ、じゃあ今度クッキーとか作ってきてくれるのかな……」
完全に盛り上がっている。
(ち、ちがうって!違うのに!)
柚葉はその場にいながら、何も言えなかった。
本当は、あのお弁当は自分が作って持ってきたものだ。
昨日、練習が遅くまであったから、帰り際に「明日の補食にでも」と渡していた。
付箋の言葉も、自分で書いた。
でも、それを風間先輩が天然で“自作”と言ってしまい、勘違いのまま広まってしまった。
(なにあれ……全然悪気がないのが一番たち悪い……。)
なぜか胸の奥がざわついて、もやもやとした感情が広がっていく。
*
放課後の練習中。
グラウンドに出てくる風間を、女子たちが遠巻きに見つめていた。
「ねえ、風間先輩、誰が狙ってると思う?」
「いや、あの人マジで誰にでも優しいからわかんないんだよね。」
(……あんなに注目されてるなんて、知らなかった。)
柚葉は、配るボトルのフタを強めに閉めながら小さくため息をついた。
(なんで……こんな気持ちになるんだろ。)
もちろん、風間先輩が誰にモテようと、関係ない。
ただの部活仲間だし、キャプテンとマネージャーという関係なだけ。
それなのに。
“あのお弁当は自分が作った”と、一言だけでも訂正してくれたら……そう思ってしまう。
(ずるいよ、先輩。
天然で、そんなつもりじゃないのに、人の気持ちごと振り回すの……。)
そんな気持ちを抱えたまま、練習が終わった夕方。
部室の前で、風間が柚葉を待っていた。
「今日もお疲れ様です。」
「……ありがとうございます。」
少しだけトゲのある声になってしまった自分に気づき、柚葉は慌てて目をそらした。
「なんか……怒ってます?」
唐突に聞かれて、ドキッとする。
「べ、別に怒ってないです。」
「そうですか?でも、朝からずっとなんか……距離ありますよね?」
「ないです!!」
「ありますよね!?
ていうか、もしかしてお弁当のこと、何か変でした?」
心臓が跳ねた。
風間は、あの弁当の件に気づいている……?
「……あれ、本当は柚葉さんが作ったやつですか?」
「っ……!」
「ですよね。僕、ああいうの作れないし。
包み紙、うちにないやつだったし。
しかも、あの手書きの文字、なんか見覚えあるなって。」
「あのっ……じゃあ、なんで……」
「咄嗟に言っちゃったんですよ。
変に騒がれたら柚葉さんが困るかなって思って。」
「……!」
「僕が“手作り男子”ってことになっても別にいいんです。
でも、柚葉さんが変に噂されて嫌な思いするのはイヤだったから。」
静かな声で、けれど確かな思いを込めて語られるその言葉に、
柚葉の胸の奥に広がっていたモヤモヤが、ふっと消えた気がした。
(……もう、そういうとこだよ。)
(なんでいちいち、ちゃんとしてるの……。)
「……はい。私が作ったやつです。
食べてくれて、ありがとうございました。」
「すごく美味しかったです。
もう、プロって感じでした。」
「それは言いすぎです。」
ふっと笑いがこぼれる。
ずっと張っていた気持ちの糸が、ようやく緩んだ気がした。
「じゃあ今度、また作ってきてもいいですか?」
自分でも驚くほど、素直な声だった。
顔が赤くなっているのがわかる。
「はい。むしろ、毎日でも……って言ったら、怒られますか?」
「怒りませんけど……調子に乗らないでください。」
「はい……!」
満面の笑みで返されて、また胸がくすぐったくなった。
なんなんだろう、この人は。
本当に、わけがわからない。
だけど。
気づけば、もう目が離せなくなっていた。
最初は勝手がわからず戸惑ってばかりだったけれど、少しずつペースが掴めてきたように思う。
水分補給の時間やボトルの準備。
メンバーの特徴や癖もなんとなく覚えてきた。
「柚葉さんって、いつもきっちりしてますよね。」
「いやいや。マネージャーのおかげで助かってるよ、マジで。」
そう言ってもらえるだけで、疲れも吹き飛ぶ。
部活が終わる頃には、グラウンドの空気に自分も自然に溶け込めているような気がしていた。
ただ――問題は、やっぱり“あの人”だ。
「んー……海苔がしけってるのって、風味出てて良くないですか?」
「それ、誰かが落としたおにぎり食べてないですか!?」
「えっ!?落ちてたんですか?誰かが僕のために置いてくれたのかと……」
風間先輩。
三年生のキャプテンにして、サッカー部の混乱要素ナンバーワン。
しかも今日は、お弁当の話題だった。
始まりは、昼休み。
部室のテーブルに置かれていた、手作り弁当の包み。
そのラップに貼ってあった付箋には、小さく「いつもありがとう」と書かれていた。
「これ、誰の?」
「えー?私じゃないよ?」
「まさか……他のファンから!?」
女子部員たちがざわめく中、風間があっさりと言った。
「あ、僕が作りましたよ。」
――場が凍りついた。
「……え?」
「いや、ちょっと最近料理にハマってて。誰かに食べてほしいなと思って。」
「それって……つまり、風間先輩が、自分のために自分で手作りして、ありがとうって付箋まで貼ったってことですか?」
「そうなりますね!」
「意味がわかりません!!!」
柚葉は、思わず大声でツッコんでいた。
(なんでそんなことするの!?
自己完結の極みすぎるでしょ!!)
だが、事態はそれだけでは終わらなかった。
なぜか女子部員たちの間で、“風間先輩は料理男子”という情報が一瞬で広まってしまったのだ。
「え!?風間先輩って、料理できるんですか!?」
「えー!見えないけど、ギャップ萌え!」
「えっ、じゃあ今度クッキーとか作ってきてくれるのかな……」
完全に盛り上がっている。
(ち、ちがうって!違うのに!)
柚葉はその場にいながら、何も言えなかった。
本当は、あのお弁当は自分が作って持ってきたものだ。
昨日、練習が遅くまであったから、帰り際に「明日の補食にでも」と渡していた。
付箋の言葉も、自分で書いた。
でも、それを風間先輩が天然で“自作”と言ってしまい、勘違いのまま広まってしまった。
(なにあれ……全然悪気がないのが一番たち悪い……。)
なぜか胸の奥がざわついて、もやもやとした感情が広がっていく。
*
放課後の練習中。
グラウンドに出てくる風間を、女子たちが遠巻きに見つめていた。
「ねえ、風間先輩、誰が狙ってると思う?」
「いや、あの人マジで誰にでも優しいからわかんないんだよね。」
(……あんなに注目されてるなんて、知らなかった。)
柚葉は、配るボトルのフタを強めに閉めながら小さくため息をついた。
(なんで……こんな気持ちになるんだろ。)
もちろん、風間先輩が誰にモテようと、関係ない。
ただの部活仲間だし、キャプテンとマネージャーという関係なだけ。
それなのに。
“あのお弁当は自分が作った”と、一言だけでも訂正してくれたら……そう思ってしまう。
(ずるいよ、先輩。
天然で、そんなつもりじゃないのに、人の気持ちごと振り回すの……。)
そんな気持ちを抱えたまま、練習が終わった夕方。
部室の前で、風間が柚葉を待っていた。
「今日もお疲れ様です。」
「……ありがとうございます。」
少しだけトゲのある声になってしまった自分に気づき、柚葉は慌てて目をそらした。
「なんか……怒ってます?」
唐突に聞かれて、ドキッとする。
「べ、別に怒ってないです。」
「そうですか?でも、朝からずっとなんか……距離ありますよね?」
「ないです!!」
「ありますよね!?
ていうか、もしかしてお弁当のこと、何か変でした?」
心臓が跳ねた。
風間は、あの弁当の件に気づいている……?
「……あれ、本当は柚葉さんが作ったやつですか?」
「っ……!」
「ですよね。僕、ああいうの作れないし。
包み紙、うちにないやつだったし。
しかも、あの手書きの文字、なんか見覚えあるなって。」
「あのっ……じゃあ、なんで……」
「咄嗟に言っちゃったんですよ。
変に騒がれたら柚葉さんが困るかなって思って。」
「……!」
「僕が“手作り男子”ってことになっても別にいいんです。
でも、柚葉さんが変に噂されて嫌な思いするのはイヤだったから。」
静かな声で、けれど確かな思いを込めて語られるその言葉に、
柚葉の胸の奥に広がっていたモヤモヤが、ふっと消えた気がした。
(……もう、そういうとこだよ。)
(なんでいちいち、ちゃんとしてるの……。)
「……はい。私が作ったやつです。
食べてくれて、ありがとうございました。」
「すごく美味しかったです。
もう、プロって感じでした。」
「それは言いすぎです。」
ふっと笑いがこぼれる。
ずっと張っていた気持ちの糸が、ようやく緩んだ気がした。
「じゃあ今度、また作ってきてもいいですか?」
自分でも驚くほど、素直な声だった。
顔が赤くなっているのがわかる。
「はい。むしろ、毎日でも……って言ったら、怒られますか?」
「怒りませんけど……調子に乗らないでください。」
「はい……!」
満面の笑みで返されて、また胸がくすぐったくなった。
なんなんだろう、この人は。
本当に、わけがわからない。
だけど。
気づけば、もう目が離せなくなっていた。
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