先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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第4話「初デート(未満)」

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日曜の朝。

空は高く澄んでいて、風も穏やか。
どこか、春の終わりと初夏の入り口が混じるような空気だった。

 

駅前のカフェの前で、柚葉はそわそわとスマホを見ていた。

画面の時計が9時48分を示している。

(……早く着きすぎた。
 10分前って、全然普通のはずなのに。
 なんでこんなに落ち着かないんだろ。)

 

理由は、言うまでもない。

今日は、部活の用具購入のために、風間先輩と二人でスポーツショップへ行くことになっている。

 

「備品の追加分、誰かと行ってきてくれ。」
顧問の先生にそう頼まれたのは、木曜の放課後だった。

「じゃあ俺行きますよ。」
そう即答した風間に、なぜか部員たちがざわざわし始めたのを覚えている。

「マネージャーも詳しいだろ?」と彼が言い出して、なぜか自然と“二人で行く”流れに。

 

(……べつに、デートじゃない。)

それは何度も自分に言い聞かせている。
けれど、制服でも体操服でもない、私服の自分と風間先輩が、二人きりで買い物に行く。
それはもう、日常ではなく、ちょっとだけ特別な時間のように思えた。

 

「おはようございます。」

 

聞き慣れた声がして顔を上げると、風間先輩が立っていた。

 

「うわっ、早いですね。
 僕、10時ぴったりに着くつもりだったんですけど。」

 

「い、いえ……私が早すぎただけなので……。」

 

心臓が少し跳ねる。
制服のときよりも少しラフな服装で、けれど清潔感のあるジャケットにスニーカー。

天然なのに、やたらと“好青年”が似合うのがずるいと思った。

 

「じゃあ、行きましょうか。」

 

「はい。」

 

その一言のあと。

ふと沈黙が流れる。

練習中なら、何かしら話題がある。
でも、今は違う。
部活でも学校でもない、完全な“私生活”の中の二人。

 

(なに話せばいいの……。
 どうしてこんなに緊張してるんだろ。)

 

それでも、先輩が何気なく話しかけてくれる。

 

「柚葉さんって、サッカー部以外の人とどんなふうに過ごしてるんですか?」

 

「え?普通に友達と、たまにカフェ行ったりとか……あと、図書室で勉強したり……」

 

「まじめですね。えらいです。」

 

「い、いやそんな……」

 

(あっ、褒められた……。
 でもこれ、深い意味ないやつ……。
 なんで嬉しくなってるの、私。)

 

「僕、オフの日は寝てばっかりなんですよね。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。
 目が覚めたら昼ってこと、しょっちゅうです。
 今日も、起きたとき『やば、集合時間過ぎてる!?』って焦りました。」

 

「でも、時間ぴったりでしたよね?」

 

「目覚ましを10個セットしてました。」

 

「10個!?」

 

「前に5個で寝過ごしたので、倍にしました。」

 

「……それはもう、数の問題じゃない気がします……。」

 

自然に笑いがこぼれる。
さっきまでの緊張が、少しずつほぐれていくのが自分でもわかった。

 

店に着き、必要なサポーターやボール、トレーニング用品をカゴに入れていく。
意外と買い物はスムーズだった。

 

「あっ、これも追加したほうがいいですね。」

 

「わかります?やっぱマネージャーさんすごいなあ。」

 

軽い調子で言われるたびに、なぜか顔が熱くなる。

部員全員に平等に接しているはずのキャプテン。
でも、こうやって自分だけに向けられる“素”の部分を見てしまうと、心の中がざわざわして仕方ない。

 

買い物を終え、帰り道。
時間はまだ昼前だった。

 

「ちょっと、寄り道していきませんか?」

 

「えっ?」

 

「近くに、ソフトクリーム屋があるんです。
 部員たちで来たときに美味しかったんで。」

 

それが自然なのか、誘いなのか、よくわからなかった。
でも、断る理由が見つからなくて、柚葉は頷いた。

 

小さなカウンターだけの店で、二人並んでソフトクリームを食べる。
向き合わずに、横並び。
それがかえって、妙にドキドキした。

 

「……甘いですね。」

 

「甘すぎですか?」

 

「いえ、美味しいです。
 ……なんか、こういうのって久しぶりで。」

 

「いいですよね。たまには、こういうの。」

 

彼が微笑むのを、隣でこっそり横目に見る。
視線が合わないからこそ、余計に意識してしまう。

 

「なんか……今日って、デートみたいですね。」

 

「っ!?」

 

突然の言葉に、柚葉は咳き込みそうになった。

 

「そ、そそそ、それはちょっと違うというか!?」

 

「違いますか?」

 

「え、いや、違うっていうか……部活の買い物ですし……」

 

「でも、一緒に出かけて、ソフトクリーム食べてるし。」

 

「……だからって、それを“デート”って言うのは……」

 

「じゃあ、“デート未満”ってことで。」

 

そう言って、ふふっと笑った。

 

(もう……ずるい。
 わかってて言ってるでしょ、絶対。)

 

本当に、天然なのか、狙っているのか、わからない。
でもそのどちらでも、私は今――完全に翻弄されている。

 

帰りの電車の中。
風間先輩は、車窓の外を見ながらぽつりと呟いた。

 

「なんか今日、楽しかったです。」

 

「……私も。」

 

その言葉を言えたことが、ちょっとだけ誇らしかった。

 

たとえそれが、デートじゃなくても。
たとえ、特別な何かが起こらなくても。

こうして隣にいられる時間が、
今はなにより、大切に思えた。
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