先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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第8話「告白できない2人」

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風間先輩が「たぶん、僕も好きだと思います」と言った翌日。
柚葉は朝から、胸の奥が落ち着かなかった。

 

気持ちを伝えた。
その返事ももらった。
それなのに、なぜか“まだ告白してない”ような、ふわふわとした宙ぶらりんな状態が続いている。

 

(たぶん……って、なんなの……。)

 

わかってる。
風間先輩は天然だし、正直な人だ。
「まだ気づいたばかりの気持ちだから、ちゃんと向き合ってみたい」って、昨日の帰り道も言っていた。

真っ直ぐで、誠実な言葉だった。

 

でも。

 

(でも私は、もう、ちゃんと“好き”って気持ちに向き合ってるのに。)

 

期待して、落ち着かなくなって。
嬉しくて、でも不安になって。

気持ちは爆発したのに、関係性はまだ“なにかの途中”のまま。

 

「はぁ……。」

 

自分の机に顔を伏せて、小さくため息をつく。
隣の席の真帆がすぐ気づいて、肘で小突いてきた。

 

「で?言ったんでしょ、先輩に。」

 

「……うん。」

 

「で、返事は?」

 

「“たぶん僕も好き”って……。」

 

「なにそれ!?曖昧!曖昧にもほどがある!!」

 

「……やっぱそう思うよね……。」

 

「思うよ!
 えっ、それで?そのあとどうしたの?」

 

「なんか……“これからちゃんと考えていきたい”って言われて……。」

 

「真面目か!いや、まあ、それはいいことなんだけどさ。
 でも、それってさ……付き合ってるの?付き合ってないの?」

 

「……たぶん、“付き合ってない”んだと思う。」

 

「“たぶん”ばっかじゃん。」

 

机に突っ伏す。

頭では理解している。
でも心が追いついていない。

 

(好きって言ってくれた。
 でも、“たぶん”。
 じゃあ私たちって、今なんなの?
 友達?
 それとも、“好きな人同士”っていう中途半端な関係?)

 

こういうときに限って、本人はまったく意識していない笑顔でやってくる。

 

昼休み。
サッカー部の連絡ノートを持ってきた風間が、いつもの調子で声をかけてきた。

 

「柚葉さん、はいこれ。顧問からの伝言です。」

 

「ありがとうございます……。」

 

「あと、明日の練習、午後からグラウンド使えるみたいですよ。
 一緒に準備、お願いしてもいいですか?」

 

「はい。もちろんです。」

 

会話の内容は、普段通りの部活のやりとり。
でも、それが普段通りすぎて。

 

(なんか……なんにも変わってないみたい……。)

 

風間は、昨日のことをまるで“なかったこと”のように、いつも通り接してくる。
それが優しさなのか、無意識なのかすら、わからなかった。

 



 

放課後。

グラウンド横の器具庫で、柚葉は黙々とマーカーコーンを数えていた。

隣では風間が、練習用ボールの空気圧をチェックしている。

二人きりの空間。
言葉がなくても、なんとなく落ち着く――はずだった。

だけど、今日は違う。

ずっと気まずいわけじゃない。
むしろ“平穏すぎて”、逆に居心地が悪い。

 

(なんで、昨日みたいにちゃんと向き合ってくれないの?)

 

思い切って口を開いたのは、自分だった。

 

「……先輩。」

 

「ん?」

 

「昨日の話、ですけど。」

 

風間の手が止まった。

空気が、少しだけ張りつめる。

 

「“好きだと思う”って言ってくれたの、嬉しかったです。
 でも、やっぱり……ちゃんと聞きたいです。」

 

「……ちゃんと?」

 

「たぶん、じゃなくて。
 思う、じゃなくて。
 今の、風間先輩の気持ちを……ちゃんと聞きたいです。」

 

風間はしばらく黙っていた。

ボールを持ったまま、静かに考えているようだった。

 

「……僕、正直に言いますね。」

 

「はい。」

 

「“好き”って言われて、嬉しかったです。
 びっくりしたし、自分がどう思ってるのか、ずっと考えてました。
 たぶん……じゃなくて。
 今、ちゃんと“好き”です。」

 

柚葉の胸が、ぎゅっと締め付けられた。

目の前の言葉が、あまりにも真っ直ぐで。

 

「だけど……まだ“付き合おう”って言えないんです。」

 

「……どうして?」

 

「僕、キャプテンで、部活が大詰めで。
 最後の大会に向けて、みんなのことを引っ張らなきゃいけなくて。
 そんなときに“彼女ができました”ってなったら、みんなの気が散るかもって……
 そういうの、すごく気にする人がいるの、知ってるから。」

 

「……。」

 

「ごめんなさい。
 弱いですよね、こんなの。
 言い訳にしかならないって、わかってるけど。」

 

柚葉は、静かにうなずいた。

そして、言った。

 

「……ずるい人ですね、先輩は。」

 

風間は、申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「でも、そこまで考えてる先輩だから……きっと好きになったんだと思います。」

 

「……ありがとう。」

 

そのあとは、もう言葉はなかった。

でも、風が吹いて。
体育館の屋根がきしんで。
その音が、二人の間の気持ちを静かに繋いでいた。

 

“好き”って言い合ってるのに。
付き合っていない。
触れることも、まだできない。

それでも。

今はそれで、よかったのかもしれない。

 

焦らなくていい。

この人となら、ちゃんと“本当に必要なタイミング”で、
ちゃんと、手を繋げる気がするから。
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