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第9話「最後の大会、最後のチャンス」
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練習が終わったグラウンドには、まだ熱のこもった空気が残っていた。
夕焼けがピッチをオレンジ色に染める中、風間は一人、ゴール前に立っていた。
濡れた前髪をかき上げる仕草は、どこか寂しげで、でも決意に満ちていた。
柚葉は、マネージャーバッグのファスナーを締めながら、その姿をそっと見つめていた。
(明日が、最後の公式戦……
三年生にとっての、引退試合。)
今まで何度も応援してきた。
ボールを拾い、ドリンクを運び、記録を取りながら、試合を見てきた。
けれど、明日の試合は“ただの公式戦”じゃない。
風間先輩にとって、高校最後の試合になるかもしれない。
(……勝ってほしい。
先輩が悔いのないように、終われるように。)
でも、そう願う気持ちの中には、もう一つの想いが混じっていた。
(勝って、ちゃんと終わらせて。
そして、ちゃんと私の方を見てほしい。)
好きだと伝えて、好きだと言われて。
だけど「今はまだ付き合えない」と言われてから、一週間。
二人の距離は、変わらないようで、少しずつ変わっていた。
視線が合うだけで嬉しくて、
名前を呼ばれるだけで胸が跳ねて。
でも、それ以上は踏み込めない。
風間は、背負っている。
部員たちのこと、チームのこと、自分の責任を。
そのことが、わかるからこそ。
「柚葉さん。」
彼がこちらに歩いてくるのが見えた。
夕焼けの逆光で、顔がよく見えない。
それでも、真っ直ぐこちらに向かってくるその歩みは、
どんな言葉よりも強い気持ちを感じさせた。
「……明日、絶対勝ちます。」
「……うん。」
「最後、笑って終わりたいです。」
「……絶対、そうなります。」
声が震えそうになるのを、必死に堪える。
泣きそうだった。
まだ何も終わっていないのに、もう胸がいっぱいだった。
「……今日、話せてよかったです。」
「私も……。」
一言一言、確認するように言葉を交わす。
気持ちは、伝わっているはずなのに。
この距離が、もどかしかった。
*
そして翌日。
スタンドには応援の生徒たちの声が響いていた。
試合会場のグラウンドは、広くて眩しいくらい整備されている。
柚葉は応援席の横に立って、ドリンクとタオルを準備しながら、試合の行方を見守っていた。
キックオフの笛が鳴る。
風間は、キャプテンマークを巻いてピッチを走っていた。
いつも通りのプレー。
でも、どこかそれ以上の集中力を感じる。
声を張って、味方に指示を飛ばし、攻守に走り続ける。
仲間たちも、懸命にそれに応える。
けれど、試合は厳しかった。
相手校は全国大会常連。
フィジカルでも戦術でも、一歩上を行く強さだった。
前半終了、0-1。
柚葉はハーフタイム中、走って戻ってきた風間にタオルを手渡した。
「どうですか……?」
「……まだいけます。
絶対、取り返します。」
汗をぬぐうその目は、揺るぎなかった。
見ているだけで、胸が熱くなる。
(やっぱりこの人……本当に強い。)
そして迎えた後半。
一瞬の隙を突いて、味方が同点ゴールを決めた。
スタンドから歓声が上がる。
柚葉も思わず拳を握って叫んだ。
「いける……!
あと1点……!!」
しかし、試合終盤。
相手のカウンター。
戻る途中、風間が接触プレーで転倒した。
スライディングでブロックしようとした直後だった。
「風間ー!!」
圭吾が駆け寄る。
柚葉も、スタッフと一緒にピッチ脇へ走る。
風間は膝を抱えながら、苦しそうに顔をしかめていた。
「大丈夫です……。
……まだ、動けます。」
「無理すんな、交代――」
「あと10分。
それだけ。
お願いします。」
主審が許可を出し、彼は再びピッチへ戻った。
動きは明らかに鈍っていた。
でも、気持ちだけは、プレーに乗っていた。
そして、試合終了のホイッスル。
1-1。
PK戦へ。
会場が緊張に包まれる中、風間は最初のキッカーとして立った。
痛む足を引きずりながら、ゴール前に立ち、深く息を吸う。
一歩、二歩。
助走をとって、右隅へ――。
ボールは、ネットを揺らした。
ゴール。
その瞬間、柚葉の視界が滲んだ。
(お願いします……
勝って……
先輩の努力が、報われますように……)
PK戦は接戦になったが、最後は味方のGKがスーパーセーブを決めた。
勝利。
会場が大きく沸いた。
ベンチが走り出し、部員たちが風間に駆け寄る。
抱き合い、泣きながら笑う。
その中心で、風間が立ち尽くしていた。
柚葉は気づけば、走っていた。
気がついたら、風間の目の前に立っていた。
目が合った瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
「おめでとうございます……
本当に……本当に、かっこよかった……」
風間は、少しだけ照れたように笑って。
「僕……
勝ったら言おうって、決めてました。」
「……え?」
「柚葉さんが、好きです。
ちゃんと、真っ直ぐに。」
「……先輩……」
「もう“たぶん”じゃないです。
ちゃんと付き合ってください。」
柚葉は、涙をこらえることなく笑った。
頷きながら、何度も、何度も。
「はい……。
よろしくお願いします。」
誰かが祝福の声を上げる。
「キャプテン彼女できたぞー!」と叫ぶ声も聞こえた。
でも今は、もう何も怖くなかった。
みんなの中心にいる彼と、ちゃんと隣に立てた。
そのことが、何よりも嬉しかった。
夕焼けがピッチをオレンジ色に染める中、風間は一人、ゴール前に立っていた。
濡れた前髪をかき上げる仕草は、どこか寂しげで、でも決意に満ちていた。
柚葉は、マネージャーバッグのファスナーを締めながら、その姿をそっと見つめていた。
(明日が、最後の公式戦……
三年生にとっての、引退試合。)
今まで何度も応援してきた。
ボールを拾い、ドリンクを運び、記録を取りながら、試合を見てきた。
けれど、明日の試合は“ただの公式戦”じゃない。
風間先輩にとって、高校最後の試合になるかもしれない。
(……勝ってほしい。
先輩が悔いのないように、終われるように。)
でも、そう願う気持ちの中には、もう一つの想いが混じっていた。
(勝って、ちゃんと終わらせて。
そして、ちゃんと私の方を見てほしい。)
好きだと伝えて、好きだと言われて。
だけど「今はまだ付き合えない」と言われてから、一週間。
二人の距離は、変わらないようで、少しずつ変わっていた。
視線が合うだけで嬉しくて、
名前を呼ばれるだけで胸が跳ねて。
でも、それ以上は踏み込めない。
風間は、背負っている。
部員たちのこと、チームのこと、自分の責任を。
そのことが、わかるからこそ。
「柚葉さん。」
彼がこちらに歩いてくるのが見えた。
夕焼けの逆光で、顔がよく見えない。
それでも、真っ直ぐこちらに向かってくるその歩みは、
どんな言葉よりも強い気持ちを感じさせた。
「……明日、絶対勝ちます。」
「……うん。」
「最後、笑って終わりたいです。」
「……絶対、そうなります。」
声が震えそうになるのを、必死に堪える。
泣きそうだった。
まだ何も終わっていないのに、もう胸がいっぱいだった。
「……今日、話せてよかったです。」
「私も……。」
一言一言、確認するように言葉を交わす。
気持ちは、伝わっているはずなのに。
この距離が、もどかしかった。
*
そして翌日。
スタンドには応援の生徒たちの声が響いていた。
試合会場のグラウンドは、広くて眩しいくらい整備されている。
柚葉は応援席の横に立って、ドリンクとタオルを準備しながら、試合の行方を見守っていた。
キックオフの笛が鳴る。
風間は、キャプテンマークを巻いてピッチを走っていた。
いつも通りのプレー。
でも、どこかそれ以上の集中力を感じる。
声を張って、味方に指示を飛ばし、攻守に走り続ける。
仲間たちも、懸命にそれに応える。
けれど、試合は厳しかった。
相手校は全国大会常連。
フィジカルでも戦術でも、一歩上を行く強さだった。
前半終了、0-1。
柚葉はハーフタイム中、走って戻ってきた風間にタオルを手渡した。
「どうですか……?」
「……まだいけます。
絶対、取り返します。」
汗をぬぐうその目は、揺るぎなかった。
見ているだけで、胸が熱くなる。
(やっぱりこの人……本当に強い。)
そして迎えた後半。
一瞬の隙を突いて、味方が同点ゴールを決めた。
スタンドから歓声が上がる。
柚葉も思わず拳を握って叫んだ。
「いける……!
あと1点……!!」
しかし、試合終盤。
相手のカウンター。
戻る途中、風間が接触プレーで転倒した。
スライディングでブロックしようとした直後だった。
「風間ー!!」
圭吾が駆け寄る。
柚葉も、スタッフと一緒にピッチ脇へ走る。
風間は膝を抱えながら、苦しそうに顔をしかめていた。
「大丈夫です……。
……まだ、動けます。」
「無理すんな、交代――」
「あと10分。
それだけ。
お願いします。」
主審が許可を出し、彼は再びピッチへ戻った。
動きは明らかに鈍っていた。
でも、気持ちだけは、プレーに乗っていた。
そして、試合終了のホイッスル。
1-1。
PK戦へ。
会場が緊張に包まれる中、風間は最初のキッカーとして立った。
痛む足を引きずりながら、ゴール前に立ち、深く息を吸う。
一歩、二歩。
助走をとって、右隅へ――。
ボールは、ネットを揺らした。
ゴール。
その瞬間、柚葉の視界が滲んだ。
(お願いします……
勝って……
先輩の努力が、報われますように……)
PK戦は接戦になったが、最後は味方のGKがスーパーセーブを決めた。
勝利。
会場が大きく沸いた。
ベンチが走り出し、部員たちが風間に駆け寄る。
抱き合い、泣きながら笑う。
その中心で、風間が立ち尽くしていた。
柚葉は気づけば、走っていた。
気がついたら、風間の目の前に立っていた。
目が合った瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
「おめでとうございます……
本当に……本当に、かっこよかった……」
風間は、少しだけ照れたように笑って。
「僕……
勝ったら言おうって、決めてました。」
「……え?」
「柚葉さんが、好きです。
ちゃんと、真っ直ぐに。」
「……先輩……」
「もう“たぶん”じゃないです。
ちゃんと付き合ってください。」
柚葉は、涙をこらえることなく笑った。
頷きながら、何度も、何度も。
「はい……。
よろしくお願いします。」
誰かが祝福の声を上げる。
「キャプテン彼女できたぞー!」と叫ぶ声も聞こえた。
でも今は、もう何も怖くなかった。
みんなの中心にいる彼と、ちゃんと隣に立てた。
そのことが、何よりも嬉しかった。
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