先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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第10話「そして、恋は続いていく」

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風間先輩が、試合後のグラウンドで「ちゃんと好きです」と告げたあの日から。
一週間が経った。

 

高校最後の大会は、準々決勝で惜しくも敗れた。
けれど、あの日のPK戦の勝利は、部の空気を変えた。
引退まで、キャプテンとしての役目を全うした先輩の背中は、やっぱり誰よりも眩しかった。

 

そして、いま。

風間晴翔は、卒業を目前にした高校三年生。
高梨柚葉は、まだ高校二年生のサッカー部マネージャー。
正式に「先輩の彼女」になってから、初めて迎える放課後だった。

 

「柚葉さん、ちょっとだけ遠回りして帰りませんか?」

 

その誘いに頷いて、学校の裏門を抜けて、住宅街の静かな通りを並んで歩く。
この道は、彼がいつも自転車で帰っていた通学路だという。
ゆっくり歩くのは初めてだった。

 

「……ここ、春になると桜が咲くんですよ。」

 

「へぇ。知らなかった……。
 じゃあ、春も一緒に歩きたいですね。」

 

その言葉に、風間が少しだけ照れくさそうに笑った。

 

「それまで、嫌われないように頑張ります。」

 

「嫌いになんて、なるわけないです。」

 

「今のところ、僕の天然ボケは減ってませんけど……。」

 

「むしろ、どんどんパワーアップしてる気がします。」

 

顔を見合わせて、ふたりして笑った。
そんな何気ないやりとりが、心の底から幸せだった。

 

けれど。
心のどこかに、ひとつだけ拭えない不安があった。

 

──卒業。

 

春が来れば、風間はこの学校からいなくなる。
部活動も終わって、制服も着なくなって、進路のために別々の時間を過ごすようになる。

物理的な距離が生まれる。

 

(私は、それにちゃんと耐えられるんだろうか。)

 

「柚葉さん、顔が少し暗いです。」

 

不意に声をかけられて、はっとする。

 

「……ばれてますか。」

 

「はい。いつもよりまばたきの回数が多いです。」

 

「観察されてる……。」

 

「観察してますから。」

 

いたずらっぽい笑顔。
けれど、その目にはちゃんと優しさが宿っている。

 

「不安ですか?卒業のこと。」

 

「……はい。
 正直、すごく。」

 

嘘はつけなかった。

心の底にしまっていた言葉を、ふと打ち明けたくなった。

 

「だって、先輩が学校にいなくなるの、想像つかないんです。
 グラウンドにも、部室にも。
 あの場所に先輩がいないって思うと……空っぽになっちゃう気がして。」

 

風間は、少しだけ立ち止まって、柚葉の方へ向き直る。

そして、優しく、でもはっきりと口を開いた。

 

「……僕も、同じ気持ちです。
 このグラウンドにも、仲間にも、そして……柚葉さんにも。
 すごく未練があって、寂しいです。」

 

「……。」

 

「でも、僕がこの先どんな場所にいても、柚葉さんがここにいるってわかってたら、頑張れると思うんです。
 柚葉さんが、ちゃんとマネージャーを続けて、笑っててくれたら。」

 

風に乗って、遠くから吹奏楽部の音が聴こえてきた。
その音に包まれるようにして、彼の言葉が染み込んでいく。

 

「だから……柚葉さんも、僕がどこにいても、ちゃんと好きでいてください。」

 

「……はい。」

 

「そして、僕も、ずっと好きでいます。」

 

(ああ、やっぱりこの人は……ずるいくらい、真っ直ぐだ。)

 

うまく言葉にできなかった感情が、胸いっぱいに広がっていく。

彼がこうして言葉にしてくれるたびに、
私は自分の弱さよりも、“信じたい気持ち”の方が強くなっていく。

 

「卒業式、泣いてくれますか?」

 

「え……?」

 

「柚葉さんが泣いてくれたら、僕、めっちゃ嬉しいです。」

 

「な、なに言ってるんですか!?」

 

「ほら、感動の涙ってやつ。憧れてたんです。
 『先輩、今までありがとうございました……』って泣かれたい。」

 

「うわ……めっちゃ欲張り……。」

 

「どうです?泣いてくれます?」

 

「……考えときます。」

 

にやけ顔で聞いてくる彼に、呆れたように言いながらも、
本当はそのとき、もう泣きそうだった。

 

(ずっと好きでいるって、言ってくれた。)
(私も、ずっと好きでいよう。)

 

たとえ季節が変わっても。
制服を着なくなっても。

先輩が、遠くに行っても。

私の“好き”は、ここにちゃんとある。

 

そしてそれは、
あの雨の日。
あのボケ発言。
あの、焼きそばとスポドリと笑い声から続いている、私だけの物語だ。

 

「……先輩って、ほんとに天然爆弾ですよね。」

 

「え?爆発しました?」

 

「とっくに爆発してます。」

 

笑いながら、少しだけ距離を詰めて歩く。
彼の肩と、自分の肩がふれるかふれないかのその間に、これからの季節がひっそりと差し込んでいた。

 

恋は、終わらない。

まだまだ、これから続いていく。
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