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番外編①「部屋掃除は愛情の証です!?」
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日曜、午前十時。
大学のサッカー部寮の3階、一番奥の角部屋の前で、柚葉はため息をひとつついた。
(よし、今日も覚悟を決めよう。)
この扉の向こうには、彼女の彼氏にして、相変わらずの天然王子・風間晴翔がいる。
今では、全国レベルの大学サッカー部に所属する特待生。
寮生活で一人暮らしデビューを果たしたわけだが……
「……掃除能力ゼロ。洗濯スキル皆無。」
そう、彼の生活能力は、あの高校時代からほとんど成長していなかった。
というわけで、柚葉は毎週日曜、彼の部屋に定期的な“愛の点検”に来ているのだった。
ピンポーン。
チャイムを押すと、しばらくして扉が開いた。
「おー!柚葉さん、ちょうど起きました。」
「ちょうど……?何時だと思ってるんですか。」
「……日曜は時間の概念が曖昧になりますよね。」
「なりません。」
晴翔は、パジャマとも私服とも判断がつかないTシャツ姿でにこにこしている。
髪は見事に寝ぐせ。
靴下は……片方ない。
「とりあえず部屋、見ますね。」
「どうぞー。昨日ちょっとだけ片付けましたよ。」
そう言って部屋に通された柚葉の目に、まず飛び込んできたのは――
「洗濯物の山……。」
「服って、空気に触れてると自浄作用ありますよね?」
「ありません。」
「そうかー……。」
「ていうか、このシャツ、2週間前に持ってきたやつじゃ……」
「着ようと思ったけど、タイミング逃して……。」
「脱ぎっぱなしで2週間放置は“逃した”じゃなくて“見捨てた”です。」
「じゃあ、今日こそ救出で。」
「いやもう、今から洗濯機に強制送還です。」
柚葉は慣れた手つきで洗濯物を仕分けし、洗濯機へ。
その間、晴翔はというと、床に落ちていたプリントの束を眺めていた。
「……これ、先週の授業のやつですよね?」
「あー、それ、講義中に配られて“提出は任意”って言われたんですけど、悩んでたら締切過ぎてました。」
「なんで悩んだんですか?」
「“任意”って、“提出してもいいし、しなくてもいいし”ってことで……僕、そういうのすごく困るんですよね。」
「……提出してください。」
「はい。」
一通り洗濯を終えて、掃除機をかける。
その間、晴翔はベッドに寝転んで、なにやらスマホをいじっていた。
「先輩、サボらないでください。」
「今、今、めっちゃ大事なこと調べてるんですって。」
「何調べてるんですか?」
「“カビ 自然に消える方法”」
「掃除して!!」
「人類が培ってきた自然の力を信じたかった……。」
「その前に、自分の手を信じてください。」
ようやく掃除が終わる頃には、部屋はだいぶ“人の住まい”らしくなっていた。
窓を開けて空気を入れ替え、布団をたたみ、机の上も整理。
カーテン越しに差し込む光で、晴翔の表情が柔らかく見える。
「なんか……すごく助かってます。」
「そりゃそうでしょう。」
「でも、これって……彼女というより、もはや家政婦……」
「言いかけたその先、絶対言っちゃダメですよ。」
「……愛の執行人?」
「それも違います。」
「じゃあ……運命の掃除天使。」
「もっと違います。」
二人で笑い合っていると、廊下の方から軽快な足音が聞こえてきた。
そして――コンコン。
ドアをノックする音と共に、聞き慣れた声。
「お掃除デート、今日も順調かい?」
寮母の松下さんが、にやにやしながら顔を覗かせた。
白髪まじりのショートカットにエプロン姿。
いつも明るくて、なぜかふたりの空気を完璧に読んでくるプロの“からかい職人”。
「柚葉ちゃん、あんた本当に偉いねぇ。
こんな片付け下手を毎週相手にして……」
「もう慣れました。」
「晴翔、ほんと、いい彼女捕まえたねぇ。
この子いなかったら、あんたの部屋は今ごろ……人が住める環境じゃないよ。」
「ほんとに……感謝してます。」
「……もうちょっと真面目な顔で言いな。」
松下さんはそう言ってくすくす笑いながら、手をひらひらと振って去っていった。
柚葉は、掃除済みのテーブルに腰を下ろして、ふぅ、と息をついた。
「……さて、次は冷蔵庫チェックですね。」
「おお、なんか頼もしい。」
「もういっそ、私に生活委託してくれません?」
「いや、それは……」
「?」
「柚葉さんが、ここに毎週来てくれる理由がなくなっちゃうじゃないですか。」
少し照れたように笑いながら、風間晴翔は言った。
その顔を見て、柚葉は言葉を失った。
胸の奥が、ふわっとあたたかくなった。
(……ほんと、ずるいなこの人は。)
でも、そんなふうに思える今が、悪くなかった。
たとえそれが、掃除と洗濯にまみれた日曜日でも。
「じゃあ、私は“通い彼女兼マネージャー”で、しばらくやっていきますか。」
「お願いします。僕、命にかかわるので。」
「大げさです。」
「でも本気です。」
彼の真顔に、思わず吹き出す。
その笑い声が、今日もこの部屋の空気をやさしく撫でていた。
大学のサッカー部寮の3階、一番奥の角部屋の前で、柚葉はため息をひとつついた。
(よし、今日も覚悟を決めよう。)
この扉の向こうには、彼女の彼氏にして、相変わらずの天然王子・風間晴翔がいる。
今では、全国レベルの大学サッカー部に所属する特待生。
寮生活で一人暮らしデビューを果たしたわけだが……
「……掃除能力ゼロ。洗濯スキル皆無。」
そう、彼の生活能力は、あの高校時代からほとんど成長していなかった。
というわけで、柚葉は毎週日曜、彼の部屋に定期的な“愛の点検”に来ているのだった。
ピンポーン。
チャイムを押すと、しばらくして扉が開いた。
「おー!柚葉さん、ちょうど起きました。」
「ちょうど……?何時だと思ってるんですか。」
「……日曜は時間の概念が曖昧になりますよね。」
「なりません。」
晴翔は、パジャマとも私服とも判断がつかないTシャツ姿でにこにこしている。
髪は見事に寝ぐせ。
靴下は……片方ない。
「とりあえず部屋、見ますね。」
「どうぞー。昨日ちょっとだけ片付けましたよ。」
そう言って部屋に通された柚葉の目に、まず飛び込んできたのは――
「洗濯物の山……。」
「服って、空気に触れてると自浄作用ありますよね?」
「ありません。」
「そうかー……。」
「ていうか、このシャツ、2週間前に持ってきたやつじゃ……」
「着ようと思ったけど、タイミング逃して……。」
「脱ぎっぱなしで2週間放置は“逃した”じゃなくて“見捨てた”です。」
「じゃあ、今日こそ救出で。」
「いやもう、今から洗濯機に強制送還です。」
柚葉は慣れた手つきで洗濯物を仕分けし、洗濯機へ。
その間、晴翔はというと、床に落ちていたプリントの束を眺めていた。
「……これ、先週の授業のやつですよね?」
「あー、それ、講義中に配られて“提出は任意”って言われたんですけど、悩んでたら締切過ぎてました。」
「なんで悩んだんですか?」
「“任意”って、“提出してもいいし、しなくてもいいし”ってことで……僕、そういうのすごく困るんですよね。」
「……提出してください。」
「はい。」
一通り洗濯を終えて、掃除機をかける。
その間、晴翔はベッドに寝転んで、なにやらスマホをいじっていた。
「先輩、サボらないでください。」
「今、今、めっちゃ大事なこと調べてるんですって。」
「何調べてるんですか?」
「“カビ 自然に消える方法”」
「掃除して!!」
「人類が培ってきた自然の力を信じたかった……。」
「その前に、自分の手を信じてください。」
ようやく掃除が終わる頃には、部屋はだいぶ“人の住まい”らしくなっていた。
窓を開けて空気を入れ替え、布団をたたみ、机の上も整理。
カーテン越しに差し込む光で、晴翔の表情が柔らかく見える。
「なんか……すごく助かってます。」
「そりゃそうでしょう。」
「でも、これって……彼女というより、もはや家政婦……」
「言いかけたその先、絶対言っちゃダメですよ。」
「……愛の執行人?」
「それも違います。」
「じゃあ……運命の掃除天使。」
「もっと違います。」
二人で笑い合っていると、廊下の方から軽快な足音が聞こえてきた。
そして――コンコン。
ドアをノックする音と共に、聞き慣れた声。
「お掃除デート、今日も順調かい?」
寮母の松下さんが、にやにやしながら顔を覗かせた。
白髪まじりのショートカットにエプロン姿。
いつも明るくて、なぜかふたりの空気を完璧に読んでくるプロの“からかい職人”。
「柚葉ちゃん、あんた本当に偉いねぇ。
こんな片付け下手を毎週相手にして……」
「もう慣れました。」
「晴翔、ほんと、いい彼女捕まえたねぇ。
この子いなかったら、あんたの部屋は今ごろ……人が住める環境じゃないよ。」
「ほんとに……感謝してます。」
「……もうちょっと真面目な顔で言いな。」
松下さんはそう言ってくすくす笑いながら、手をひらひらと振って去っていった。
柚葉は、掃除済みのテーブルに腰を下ろして、ふぅ、と息をついた。
「……さて、次は冷蔵庫チェックですね。」
「おお、なんか頼もしい。」
「もういっそ、私に生活委託してくれません?」
「いや、それは……」
「?」
「柚葉さんが、ここに毎週来てくれる理由がなくなっちゃうじゃないですか。」
少し照れたように笑いながら、風間晴翔は言った。
その顔を見て、柚葉は言葉を失った。
胸の奥が、ふわっとあたたかくなった。
(……ほんと、ずるいなこの人は。)
でも、そんなふうに思える今が、悪くなかった。
たとえそれが、掃除と洗濯にまみれた日曜日でも。
「じゃあ、私は“通い彼女兼マネージャー”で、しばらくやっていきますか。」
「お願いします。僕、命にかかわるので。」
「大げさです。」
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彼の真顔に、思わず吹き出す。
その笑い声が、今日もこの部屋の空気をやさしく撫でていた。
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