先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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番外編②「おしゃれは戦いだ・前編」

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日曜、午前八時三十分。

大学の男子寮・3階の一番奥の部屋で、柚葉は今日も無言で仁王立ちしていた。

 

「……ダサい。」

 

「えっ、なにがですか?」

 

「全体。」

 

「全体!?」

 

風間晴翔。
大学でも相変わらず天然で、生活スキルゼロで、サッカーだけ異常に出来る高身長イケメン。
その彼が、今、黒のチェックシャツ(微妙にヨレてる)に、
えんじ色のトレーナー(文字が割と主張強め)を重ね着し、
ボトムスはというと、謎の柄が入ったグレーのチノパンを履いている。

 

「これ、服の選び方としては“奇跡のミスマッチ”ですよ。」

 

「え、なんか……洗濯済んでたやつの中から組み合わせただけなんですけど……。」

 

「……はい、もう一回、脱いでください。」

 

「えっ?」

 

「服、変えます。」

 

柚葉は遠慮のない手つきでクローゼットを開き、彼の私服をチェック。
……地味に絶望する。

 

(どれも、クセが強い……)

 

サッカーの大会でもらった公式Tシャツ。
旅行のお土産と思われる謎の英語入りパーカー。
微妙に色落ちしたジーンズ。
そしてなぜか、3着もあるチェックシャツ(すべて派手)。

 

「どうしてこう……インパクト重視なんですか。」

 

「服って、なんとなくで選んでました。」

 

「よくそれで今まで外歩いてましたね。」

 

「歩いてたっていうか……
 基本、寮とグラウンドと食堂で完結してたので……。」

 

「デート舐めてます?」

 

「……すみません。」

 

「いいですか、晴翔先輩。
 今日の待ち合わせは“私が先に待っていて、彼氏を迎える”形式です。
 そこに“ちょっとヨレたチェックシャツの人”が来たら、私はその場で帰ります。」

 

「ちょ、ちゃんとします、はい。」

 

結局、柚葉が選んだのは、比較的まともな無地の白Tシャツに、ネイビーのカーディガン。
ボトムスはダークグレーのスラックス風パンツ。
そして靴下は白。

「靴下からやり直せ」と言われて履き替えた。

 

「おお……なんか、自分じゃないみたい……」

 

「安心してください、それが正しい“人間の街着”です。」

 

「というか、柚葉さんって服のセンス、すごいですね。」

 

「私が苦労してるからです。」

 

「いつも、ありがとうございます……」

 

「でもまぁ、着こなすのは得意ですもんね。
 顔とスタイルはいいので。」

 

「照れます。」

 

「事実です。」

 

髪に軽くワックスをつけ、寝ぐせを抑え、顔も洗わせ、歯も磨かせる。
ここまでやってようやく、
「じゃあ、現地でまた会いましょう」と柚葉は先に寮を出るのだった。

 



 

待ち合わせ場所は、駅前の広場。
今日の目的地は、大学近くのショッピングモールとカフェ。

大それた計画はないけど、
“大学生カップルっぽい休日”というだけで、なんだか特別な気がする。

 

「……今日こそ、ちゃんと“彼女としての誇り”を保ちたい。」

 

そう。
どれだけ天然でズボラでも、あの人は彼氏である。
しかも、本人に悪気がない分、たちが悪い。

 

でも今日は違う。
今日の彼は、
白Tシャツとネイビーカーディガンで、寝ぐせもなく、靴下も白く、なんならちょっといい香りまでして。
……つまり、“私がプロデュースした男”である。

 

そう思って待っていると、向こうから見覚えのある高身長が現れた。

颯爽と歩いてくる晴翔は、柚葉を見つけると、手を小さく振る。

 

「柚葉さん~!
 あれっ、先に着いてたんですね!」

 

「……当然です。
 今日は“私が先に着いてる”っていう設定なんですから。」

 

「設定……!?」

 

「だってその方が彼女っぽくないですか?」

 

「そういうもんですか……?」

 

「あと、“人ごみで私を探している彼氏を眺める”のが好きなんです。」

 

「えっ、なんか照れる……」

 

「つまり、今日のあなたは、完全に私の好みに仕上がってるわけです。」

 

「えっ……なんか、そう言われると恥ずかしいというか、
 僕、何もしてないのに……」

 

「うん、だからこそ私が頑張ったんですよ。」

 

晴翔は首をかしげて、少しだけ申し訳なさそうに笑った。

そして、ボソリとつぶやく。

 

「……じゃあ、今日って……
 僕は着せ替え人形みたいな……?」

 

「今気づきました?」

 

「ちょっと複雑……でも嬉しいです。」

 

「なんですかその感想。
 まぁ、似合ってるので許します。」

 

ふたりは、そのまま並んで歩き出す。

おしゃれなカフェも、賑やかなショップも、今日の晴翔にはちょっと似合っていた。
それがなにより、柚葉にとっては嬉しかった。

 



 

そんなふたりを、少し離れたベンチから見つめるひとりの女性。

買い物帰りの寮母・松下さんだった。

大きな袋を抱えていたが、にやにやが止まらない。

 

「……あの子、今日ちゃんと靴下揃ってるわ。奇跡……」

 

そして、そっとつぶやく。

 

「……あの彼女、やっぱり最強だわ。」

 

笑いながら、松下さんも歩き出す。
なんでもない大学生カップルの、
ちょっとだけ“努力のしみ込んだ”日常が、今日も静かに続いていく。
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