23 / 39
番外編⑬社会人編・第10話「新しい命を、あなたに伝えたくて」
しおりを挟む
「……ちょっと、頭痛いかも。」
ソファに座ったまま、おでこを押さえる私に、
ダッシュで氷枕を取りに行く足音が、1秒後に聞こえた。
「柚葉さん!? どこ!?冷たい系どこ!?
あ、これ凍ってる!ていうかこれ冷凍うどんだ!」
「落ち着いて。うどんは被らない。」
晴翔は相変わらずの、全力の慌てっぷりだった。
今朝から、ちょっと頭が重くて、ぼーっとしてて、
ご飯の匂いでちょっとだけ気分が悪くなって。
でも風邪ではなさそう。熱もない。
ただ……何か、違和感があった。
(……まさか、とは思うけど。)
数日後、こっそり病院に行って、
診察を受けた結果――
「おめでとうございます、妊娠されていますね。」
――静かに、先生が言ったその瞬間、
私は心の中で“時間”が一度止まった気がした。
***
病院の帰り道。
スマホを握る手が、少し震えていた。
(どうしよう……なんて伝えよう。)
“あの天然に、大事なことをどうやって伝えるか”問題。
それはかつて“結婚しよう”と決めた時と、全く同じだった。
まずは、実家に。
母は開口一番、
「えっ、ほんと!? わぁ~~、絶対可愛い!
柚葉にも似て、でもちょっと変なとこ晴翔くんに似るとこあるでしょ?
でも結果それが愛されキャラなのよ~~~!」
と、妄想が10年先まで爆走していた。
父は、しばらく黙っていたあと、ぽつりと、
「……おまえが母親になるって聞くと、
なんか、時が経ったなぁって思うな。」
とだけ言って、照れくさそうに背中を向けた。
(……泣きそうなの、隠したね。ありがとう、お父さん。)
そして、風間家へ。
母・美鈴「あああああやっぱうちの家系は“受精率高め”なんよ~~~!」
父・治五郎「胎教には書道が効く。“胎児の魂に文字を刻む”んや。」
兄・蒼空「もう、名前は“羽ばたく風”とかにしようよ。」
心愛「ちょっとみんな黙って!
柚葉さん、今“妊娠中でいちばん静けさがほしい”時期だから。」
(やっぱり心愛ちゃんが最後の砦……)
***
そして、帰宅後――
私はまだ何も知らない晴翔に、
ちゃんと、伝える瞬間が来た。
彼はリビングで、なぜか洗濯機のフィルターを見ながら、
「これが命の循環かぁ……」と呟いていた。(※違います)
「晴翔。」
「うん?」
私は、膝の上に両手を乗せて、まっすぐ彼を見つめた。
「……私、赤ちゃんできたみたい。」
数秒間、彼はまばたきすら止めた。
「……えっ、赤ちゃん?
って、あの、命の、あの、ちっちゃいやつ?」
「そう、ちっちゃいやつ。」
「俺たちの……?」
「うん、俺たちの。」
……そして次の瞬間、
「うおおおおおおお!!!!!」
立ち上がって、ソファを飛び越え、
そのままジャンプして天井にタッチしそうな勢いで叫び、
「やったぁぁあああ!!!!
わぁぁあああ!!!
うちにベビーゾーン誕生!!!!」
「やめて、ゾーン呼びやめて。」
「うれしすぎて洗濯機に報告してくる!!」
「それ以上“命の循環”こじらせると危険だから戻ってきて!!」
私は呆れながらも、
思わず笑ってしまった。
これが、私の夫。
どこまでも想定外で、いつも全力で、
そして、誰よりも真っすぐ。
彼は、私の前に戻ってきて、
そっとお腹に手を当てて、言った。
「……よろしくな、ちっちゃいやつ。」
そして――私の目を見て、
「柚葉、ありがとう。
俺、ちゃんと父親になるから。
“天然の中に責任感を詰め込む男”って呼ばれるくらい、がんばるから。」
「誰が呼ぶの、それ。」
「全国が呼ぶよ。」
「そんなトレンド、いらないよ。」
でも、私は心から思った。
(この人と家族になってよかった。)
(そして、新しい家族を迎えられることが、嬉しい。)
今日からまた、私たちの毎日がちょっとずつ変わっていく。
洗濯物も、3人分。
靴下も、3人分。
きっと、笑いも、3倍に。
お腹の中の命はまだ、小さな“気配”だけれど。
私たちの心の中には、もうちゃんと――
家族の未来が、しっかりと息づいていた。
ソファに座ったまま、おでこを押さえる私に、
ダッシュで氷枕を取りに行く足音が、1秒後に聞こえた。
「柚葉さん!? どこ!?冷たい系どこ!?
あ、これ凍ってる!ていうかこれ冷凍うどんだ!」
「落ち着いて。うどんは被らない。」
晴翔は相変わらずの、全力の慌てっぷりだった。
今朝から、ちょっと頭が重くて、ぼーっとしてて、
ご飯の匂いでちょっとだけ気分が悪くなって。
でも風邪ではなさそう。熱もない。
ただ……何か、違和感があった。
(……まさか、とは思うけど。)
数日後、こっそり病院に行って、
診察を受けた結果――
「おめでとうございます、妊娠されていますね。」
――静かに、先生が言ったその瞬間、
私は心の中で“時間”が一度止まった気がした。
***
病院の帰り道。
スマホを握る手が、少し震えていた。
(どうしよう……なんて伝えよう。)
“あの天然に、大事なことをどうやって伝えるか”問題。
それはかつて“結婚しよう”と決めた時と、全く同じだった。
まずは、実家に。
母は開口一番、
「えっ、ほんと!? わぁ~~、絶対可愛い!
柚葉にも似て、でもちょっと変なとこ晴翔くんに似るとこあるでしょ?
でも結果それが愛されキャラなのよ~~~!」
と、妄想が10年先まで爆走していた。
父は、しばらく黙っていたあと、ぽつりと、
「……おまえが母親になるって聞くと、
なんか、時が経ったなぁって思うな。」
とだけ言って、照れくさそうに背中を向けた。
(……泣きそうなの、隠したね。ありがとう、お父さん。)
そして、風間家へ。
母・美鈴「あああああやっぱうちの家系は“受精率高め”なんよ~~~!」
父・治五郎「胎教には書道が効く。“胎児の魂に文字を刻む”んや。」
兄・蒼空「もう、名前は“羽ばたく風”とかにしようよ。」
心愛「ちょっとみんな黙って!
柚葉さん、今“妊娠中でいちばん静けさがほしい”時期だから。」
(やっぱり心愛ちゃんが最後の砦……)
***
そして、帰宅後――
私はまだ何も知らない晴翔に、
ちゃんと、伝える瞬間が来た。
彼はリビングで、なぜか洗濯機のフィルターを見ながら、
「これが命の循環かぁ……」と呟いていた。(※違います)
「晴翔。」
「うん?」
私は、膝の上に両手を乗せて、まっすぐ彼を見つめた。
「……私、赤ちゃんできたみたい。」
数秒間、彼はまばたきすら止めた。
「……えっ、赤ちゃん?
って、あの、命の、あの、ちっちゃいやつ?」
「そう、ちっちゃいやつ。」
「俺たちの……?」
「うん、俺たちの。」
……そして次の瞬間、
「うおおおおおおお!!!!!」
立ち上がって、ソファを飛び越え、
そのままジャンプして天井にタッチしそうな勢いで叫び、
「やったぁぁあああ!!!!
わぁぁあああ!!!
うちにベビーゾーン誕生!!!!」
「やめて、ゾーン呼びやめて。」
「うれしすぎて洗濯機に報告してくる!!」
「それ以上“命の循環”こじらせると危険だから戻ってきて!!」
私は呆れながらも、
思わず笑ってしまった。
これが、私の夫。
どこまでも想定外で、いつも全力で、
そして、誰よりも真っすぐ。
彼は、私の前に戻ってきて、
そっとお腹に手を当てて、言った。
「……よろしくな、ちっちゃいやつ。」
そして――私の目を見て、
「柚葉、ありがとう。
俺、ちゃんと父親になるから。
“天然の中に責任感を詰め込む男”って呼ばれるくらい、がんばるから。」
「誰が呼ぶの、それ。」
「全国が呼ぶよ。」
「そんなトレンド、いらないよ。」
でも、私は心から思った。
(この人と家族になってよかった。)
(そして、新しい家族を迎えられることが、嬉しい。)
今日からまた、私たちの毎日がちょっとずつ変わっていく。
洗濯物も、3人分。
靴下も、3人分。
きっと、笑いも、3倍に。
お腹の中の命はまだ、小さな“気配”だけれど。
私たちの心の中には、もうちゃんと――
家族の未来が、しっかりと息づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
強面系悪役令嬢はお見合いに全敗しました……
紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
申し訳ございません! 私のような者は貴女の伴侶として相応しくありませんのでこの度の婚約のお話はなかった事にさせていただきたく存じます」
父親譲りの強面でお見合いに全敗したフェリシテの運命の旦那様はいずこに?
魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~
村雨 妖
恋愛
森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。
ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。
半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる