先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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番外編⑬社会人編・第10話「新しい命を、あなたに伝えたくて」

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「……ちょっと、頭痛いかも。」

 

ソファに座ったまま、おでこを押さえる私に、
ダッシュで氷枕を取りに行く足音が、1秒後に聞こえた。

 

「柚葉さん!? どこ!?冷たい系どこ!?
 あ、これ凍ってる!ていうかこれ冷凍うどんだ!」

 

「落ち着いて。うどんは被らない。」

 

晴翔は相変わらずの、全力の慌てっぷりだった。
今朝から、ちょっと頭が重くて、ぼーっとしてて、
ご飯の匂いでちょっとだけ気分が悪くなって。
でも風邪ではなさそう。熱もない。

 

ただ……何か、違和感があった。

 

(……まさか、とは思うけど。)

 

数日後、こっそり病院に行って、
診察を受けた結果――

 

「おめでとうございます、妊娠されていますね。」

 

――静かに、先生が言ったその瞬間、
私は心の中で“時間”が一度止まった気がした。

 

 

***

 

病院の帰り道。
スマホを握る手が、少し震えていた。

 

(どうしよう……なんて伝えよう。)

 

“あの天然に、大事なことをどうやって伝えるか”問題。
それはかつて“結婚しよう”と決めた時と、全く同じだった。

 

まずは、実家に。
母は開口一番、

「えっ、ほんと!? わぁ~~、絶対可愛い!
 柚葉にも似て、でもちょっと変なとこ晴翔くんに似るとこあるでしょ?
 でも結果それが愛されキャラなのよ~~~!」

と、妄想が10年先まで爆走していた。

 

父は、しばらく黙っていたあと、ぽつりと、

「……おまえが母親になるって聞くと、
 なんか、時が経ったなぁって思うな。」

とだけ言って、照れくさそうに背中を向けた。

 

(……泣きそうなの、隠したね。ありがとう、お父さん。)

 

 

そして、風間家へ。

 

母・美鈴「あああああやっぱうちの家系は“受精率高め”なんよ~~~!」

父・治五郎「胎教には書道が効く。“胎児の魂に文字を刻む”んや。」

兄・蒼空「もう、名前は“羽ばたく風”とかにしようよ。」

心愛「ちょっとみんな黙って!
   柚葉さん、今“妊娠中でいちばん静けさがほしい”時期だから。」

 

(やっぱり心愛ちゃんが最後の砦……)

 

 

***

 

そして、帰宅後――
私はまだ何も知らない晴翔に、
ちゃんと、伝える瞬間が来た。

 

彼はリビングで、なぜか洗濯機のフィルターを見ながら、
「これが命の循環かぁ……」と呟いていた。(※違います)

 

「晴翔。」

 

「うん?」

 

私は、膝の上に両手を乗せて、まっすぐ彼を見つめた。

 

「……私、赤ちゃんできたみたい。」

 

 

数秒間、彼はまばたきすら止めた。

 

「……えっ、赤ちゃん?
 って、あの、命の、あの、ちっちゃいやつ?」

 

「そう、ちっちゃいやつ。」

 

「俺たちの……?」

 

「うん、俺たちの。」

 

 

……そして次の瞬間、

 

「うおおおおおおお!!!!!」

 

立ち上がって、ソファを飛び越え、
そのままジャンプして天井にタッチしそうな勢いで叫び、

 

「やったぁぁあああ!!!!
 わぁぁあああ!!!
 うちにベビーゾーン誕生!!!!」

 

「やめて、ゾーン呼びやめて。」

 

「うれしすぎて洗濯機に報告してくる!!」

 

「それ以上“命の循環”こじらせると危険だから戻ってきて!!」

 

私は呆れながらも、
思わず笑ってしまった。

 

これが、私の夫。
どこまでも想定外で、いつも全力で、
そして、誰よりも真っすぐ。

 

 

彼は、私の前に戻ってきて、
そっとお腹に手を当てて、言った。

 

「……よろしくな、ちっちゃいやつ。」

 

そして――私の目を見て、

 

「柚葉、ありがとう。
 俺、ちゃんと父親になるから。
 “天然の中に責任感を詰め込む男”って呼ばれるくらい、がんばるから。」

 

「誰が呼ぶの、それ。」

 

「全国が呼ぶよ。」

 

「そんなトレンド、いらないよ。」

 

でも、私は心から思った。

 

(この人と家族になってよかった。)
(そして、新しい家族を迎えられることが、嬉しい。)

 

今日からまた、私たちの毎日がちょっとずつ変わっていく。
洗濯物も、3人分。
靴下も、3人分。
きっと、笑いも、3倍に。

 

お腹の中の命はまだ、小さな“気配”だけれど。
私たちの心の中には、もうちゃんと――

家族の未来が、しっかりと息づいていた。
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