先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

文字の大きさ
26 / 39

番外編⑯社会人編・第13話「風間家に赤ちゃん誕生!晴翔、立ち会い出産で“感動しすぎて失神”事件」

しおりを挟む
春。
空はあたたかく、風は少しずつ夏の匂いを運び始めていた。

 

その日、私は朝から少しお腹が張っていた。
でも、よくある前駆陣痛かなと様子を見ていたところ――

 

「い゛っっ……!!」

 

思わずソファからずり落ちるほどの痛みが襲った。
冷や汗、強い収縮。
これはもう、間違いなく本番だ。

 

「晴翔ーーーー!!!!!」

 

寝室からダッシュしてきたのは、
パジャマ姿で目に冷えピタを貼ったままの夫だった。

 

「なにっ!?敵襲!?それとも……あ、もしかして……!!」

 

「産まれる!!!」

 

「うわああああああああ!!!!!」

 

叫びながら飛び跳ねて、まずドアを開けて飛び出しかけてから、慌てて戻ってきてカバンを取りに行く。
そして、お腹を抱える私のもとへ駆け寄り、手を差し出す。

 

「……いける!?
 君は一人じゃない!俺がいる!!!」

 

「うるさい、落ち着け。私が落ち着かなくなる。」

 

***

 

病院へ到着した時、私はすでに“この世で一番口が悪くなるタイミング”に突入していた。
陣痛のたびに、ベッドの手すりを握りながら晴翔に毒を吐く。

 

「これ……ぜんぶ……アンタの……せい……」

 

「えぇっ!?俺!?いや、たぶん半分くらい俺!?でもちゃんと責任取りますぅ!!」

 

「次の痛みきたら靴下全部燃やすからな……」

 

「やめてぇぇええ!!!干す時ゾーンに置くから許してぇぇぇ!!」

 

しかしその度、彼は必死に手を握り返し、
腰をさすり、声をかけ続けた。

 

「柚葉……がんばれ……!
 俺も……隣で……なんか、がんばる……!!」

 

がんばってるのは明らかにこっちなんだけど、
でも彼が隣にいるだけで、なぜか心強く感じてしまう。
やっぱり、不思議な人だ。

 

***

 

そして――その時がきた。

 

助産師さんの合図で、私は全身の力を込めていく。
隣で、晴翔は祈るように手を握ってくれている。

 

「ふんっ……!」

 

「柚葉!ファイト!がんばれ!そのままシュートだ!!!」

 

「出産にサッカーの例えやめてえぇぇええ!!」

 

そして――

 

「……産まれましたよ!!」

 

病室に、小さな産声が響く。
それは、これまで聞いたどんな音より、
力強くて、あたたかくて、希望に満ちた音だった。

 

私の胸に、小さな命が抱かれる。
涙が自然にこぼれた。

 

「……ようこそ、赤ちゃん。」

 

晴翔は、その瞬間――

 

「……あっ……ま、まじで泣ける……なんか……あああ……」

 

目を潤ませたまま、そのままストンと後ろに倒れた。

 

「ちょっ、ちょっと!?晴翔!?」

 

助産師「失神ですね~!珍しくないですよ!」

 

「珍しくないけど倒れるの早すぎない!?」

 

看護師さんたちに引きずられるようにして運ばれる晴翔を、
私は泣き笑いしながら見送った。

 

***

 

数時間後、彼は病室のソファで目を覚ました。

 

「……あれ、夢?いや、夢じゃない……?」

 

「夢じゃないよ。産まれたよ。」

 

私の腕の中で眠る、小さな命。
彼の子で、私の子。
私たちの家族。

 

晴翔は、しばらく黙ってそれを見つめたあと――

 

「……すっごい……ほんとに、産まれたんだなぁ……」

 

「うん。」

 

「俺、ちゃんとパパになるよ。
 おむつも、ミルクも、抱っこも、夜泣きも、
 ちゃんと、“シュート外さない男”になるから。」

 

「大丈夫。すでに人生のいろんなとこで外してるから、気楽にいこう。」

 

2人で笑った。
そして、3人になった。

これから大変なこともいっぱいあるだろうけど、
この人とだったら、きっと、笑って乗り越えられる。

 

それにしても――

 

「立ち会い出産で気絶する人、初めて見たわ。」

 

「……俺、感情が強いタイプだから……」

 

「次の授乳でミルク足りないとか言ったら、また倒れそう。」

 

「その時は冷凍うどんで復活します!!」

 

(頼むから、息子の前ではちゃんとして。)

 

こうして風間家に、新しい“笑いと天然と愛情のかたまり”が加わった。

 

家族の物語は、まだまだ続く――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。

雨宮羽那
恋愛
 侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。  (私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。  しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。  絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。  彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――? ◇◇◇◇ ※全5話 ※AI不使用です。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@1/9新刊発売
恋愛
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

処理中です...