ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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05)お客様対応、最大の試練

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1
「――じゃあ、次はお客様対応をやってもらうわね」

 バイト2日目。

 飯塚昭人(いいづか あきと)は、昨日のトイレ掃除で疲れ果てた体を引きずりながら、カウンターの前に立っていた。

「接客……ですか?」

「そうよ。猫カフェはお客さんがいて成り立つの。猫の世話だけじゃなく、ちゃんと接客もできないとね」

「……まぁ、そりゃそうですよね」

 とはいえ、昭人はこれまでまともな接客経験がない。

 家庭教師のバイトをしていた頃は、話す相手は生徒か、その親くらいだったし、基本はマンツーマンだった。

「大丈夫? 新人くん、人と喋るの得意?」

 真緒がニヤニヤしながら聞いてくる。

「別に、苦手ってわけじゃないですけど……」

「じゃあ、お手本を見せてあげるね」

 琴葉がカウンターの前に立ち、にこやかな笑顔を作る。

「いらっしゃいませ! 猫カフェ『ねこまど』へようこそ♪ ご利用は初めてですか?」

「……おお、なんかそれっぽい」

「でしょ? ほら、新人くんもやってみて」

「……え?」

 突然振られて、昭人は戸惑った。

「ほら、あそこにお客さんが来たわよ」

 峰子が顎で示した先には、カップルらしき二人組が入口で立ち止まっていた。

(……マジか)

 昭人は深呼吸し、カウンターの前に立つ。

「い、いらっしゃいませ……」

2
 昭人は、ぎこちない声でお客さんを迎えた。

 接客なんてしたことがないし、なんだか気恥ずかしい。

「ご利用は……初めてですか?」

 それっぽいセリフを口にしながら、カウンターのレジを操作しようとした。

 ――が、その瞬間。

「にゃあ♡(お膝!)」

「……え?」

 次の瞬間、ミルク(白猫・♀) が 昭人の膝にダイブした。

「うおっ!? ちょっ……!」

 バランスを崩しそうになる昭人。

 お客さんはポカンとした表情でその光景を見ていた。

「あの……?」

「す、すみません! えーっと、ご注文は……」

 何とか態勢を立て直し、メニュー表を渡そうとする。

 しかし――

「にゃ~(私も乗る)」

「おい!?」

 もなか(三毛猫・♀) が、膝の上に飛び乗った。

「お、重い……!」

 お客さんの前で 猫を二匹も抱えながらの接客 という、意味不明な状況になった昭人。

 真緒と琴葉はカウンターの奥で肩を震わせて笑っている。

「なにこれ、めっちゃ面白い!」

「猫カフェの接客で、ここまで猫まみれになる人初めて見たよ!」

「……助けてくれません?」

「頑張ってね、新人くん♪」

「いや、無理だから!!」

3
「えーっと……こちらのメニューから、お好きなドリンクを……」

 何とか冷静を装いながらメニュー表を差し出す。

「えっと……アイスコーヒーをお願いします」

「はい、アイスコーヒーですね。お席は――」

「にゃあ!(撫でろ!)」

「いや、今それどころじゃ……!!」

 膝の上でミルクが頭をぐりぐりと押し付けてくる。

 お客さんは困惑しつつも、クスクスと笑っていた。

「すごいですね……猫にモテモテで」

「いや、なんで俺だけこんな……!」

「猫に好かれる体質なんですね、きっと」

「そんな体質いらないんですけど!?」

「ふふ、でも可愛いですね」

「俺じゃなくて猫が、ですよね?」

「はい」

「……ですよね」

 昭人は心の中で涙を流しながら、ミルクをそっと床に降ろそうとした。

 ――が、その瞬間。

「にゃぁぁぁ~~~ん!!(置いていかないで!!)」

「鳴き方が必死すぎるだろ!!」

 まるで捨てられるかのような声で鳴くミルク。

 お客さんが 「えっ、なにこれ可愛い!」 と興奮し始める。

「すごい……まるでドラマみたいな展開……!」

「いやいや、俺にとってはただの試練なんですけど!?」

4
 そんなこんなで、何とか注文を取り終えた昭人。

 カウンターに戻り、峰子に報告する。

「……店長、俺、接客向いてないかもしれません」

「うーん、まぁ普通の接客ではないわね」

「ですよね!? 猫が邪魔してくるんですもん!」

「でも、お客さん楽しそうだったじゃない?」

「いや、それはそうかもしれませんけど……」

 確かに、猫たちに囲まれながらの接客は、普通のカフェにはない魅力かもしれない。

 しかし、それを担う 「猫にモテモテの新人」 というポジションが昭人の肩に重くのしかかる。

「まぁ、あなたには“猫に懐かれる”という強みがあるんだから、それを活かせばいいんじゃない?」

「活かすって……どうやって?」

「お客さんが猫と触れ合いやすいように、あなたがクッション役になればいいのよ」

「……つまり、俺は“猫の橋渡し役”になれと?」

「そうそう♪」

「そんなバイト聞いたことないんですけど!?」

 昭人は この仕事の方向性が普通の猫カフェ店員と違う ことを改めて実感した。

 ――そして、この先のバイト生活が、決して楽ではないことも。

「まぁ、推し活のためだし、やるしかねぇか……」

 こうして、昭人の 「猫まみれの接客修行」 が始まったのだった。
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