ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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28)気になる人

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1
 夜、藤井峰子(ふじい みねこ)は、部屋着のままリビングのソファに座り、スマホを耳に当てていた。

 通話の相手は、実家の母親。

 そして、会話の流れは――

「……だから、お母さん、そんなにしつこく聞かないでってば」

『何言ってるの、もう30歳になるんだから、そろそろ真剣に考えなさいよ』

(……また始まった)

 毎回このパターンだ。

 実家に帰るたび、電話がかかってくるたび、母親は決まって 「恋愛・結婚」 の話をしてくる。

『ねぇ、今付き合ってる人いないの?』

「いないってば」

『えぇ~? 本当に?』

「本当に」

『じゃあ、結婚する気はあるの?』

「……まぁ、いつかは」

『だったら、こっちでお見合いでもしたら? いい人いくらでもいるわよ』

「いや、それはいい」

 さすがに、お見合いは勘弁してほしい。

2
『でもねぇ、仕事ばっかりじゃダメよ?』

「……別に、仕事が楽しいからいいの」

『でも、家族は作らないの?』

「……」

 正直、そこまで考えたことはなかった。

 「結婚しなくてもいい」と思っているわけではないけれど、特に焦っているわけでもない。

 今は「ねこまど」の仕事が楽しくて、それで満たされている部分が大きい。

(でも……このままずっと一人なのかな)

 そんなことを考えていると――

『あ、もしかして、気になってる人がいるとか?』

「えっ?」

『そうでしょ? だってそんなにハッキリお見合いを拒否するなんて、普通は好きな人がいる証拠よ!』

「いや、そんなこと――」

『ねぇねぇ、いるの? 気になる人!』

「……」

 ――あまりにもしつこい。

 そして、面倒くさくなった。

「……いるから大丈夫」

『えっ! 本当に!?』

(……言っちゃった)

 思わず 適当に流すつもりで言った言葉 だった。

 でも、母親は 驚きと期待に満ちた声 で食いついてきた。

『どんな人なの!?』

「えっ」

『ねぇねぇ、どんな人? 仕事は? 年齢は?』

「え、えっと……」

(どうしよう、全然考えてなかった)

 適当に答えようとしたのに、予想以上に食いつかれてしまった。

(適当に答えればいいだけ……なのに)

 なぜか、口をついて出たのは――

「……年下で、ちょっと生意気なところもあるけど、なんだかんだ気がつく人、かな」

 自分で言って、ハッとする。

(……あれ?)

 今、自分は 誰を思い浮かべた?

『へぇ~! 年下なのね!』

「……」

『仕事は何してる人?』

「……えっと、カフェで働いてる」

(……待って待って、なんで私、普通に答えてるの!?)

 その時、自分が無意識に誰のことを話しているのかに気づいてしまった。

(やばい、これ、完全に昭人のことじゃん!!)

3
『へぇ~! それで、それで? 優しい人?』

「……まぁ、たぶん」

『身長は?』

「高め」

『顔は?』

「……まぁ、悪くはないんじゃない?」

『わぁ~! なんか楽しみねぇ! いつか紹介してよ!』

「……無理!」

 勢いよく言ってしまい、母親が 「え~、なんでよ~」 と笑う。

『仕事もいいけど、ちゃんと恋愛も頑張りなさいよ?』

「……はいはい」

 そして、母親のテンションが高いまま、電話は切れた。

「……」

 静かな部屋。

 スマホの画面を見つめながら、峰子は そっとため息をつく。

(……何やってるのよ、私)

 どうして、適当に流せなかったのか。

 なんで、「年下で生意気だけど、気がつく人」 なんて具体的な特徴を言ってしまったのか。

(なんで、昭人のことを思い浮かべたの?)

4
 リビングのソファに沈み込む。

 そして、ゆっくりと目を閉じた瞬間――

 昭人の顔が浮かんだ。

「……っ!」

(いやいやいや、何考えてるのよ!?)

 慌てて頭を振る。

 こんなの、おかしい。

 彼は ただのバイトくん で、年下で、学生で……

(そう、若い学生相手に何考えてるのよ、私)

 そう自分に言い聞かせる。

 だけど――

 なぜか 胸がざわつく。

「……」

 もう一度、深くため息をついた。
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