ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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30)頼れる男

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1
 ――荷物、多すぎじゃない?

 猫カフェ「ねこまど」の店前には、見たこともない量の段ボール が山積みにされていた。

「……え?」

 藤井峰子(ふじい みねこ)は、驚きのあまり固まった。

「ちょっ、真緒。これ、なに?」

「えっと……キャットフードです……」

 横にいた橘真緒(たちばな まお)が、 ものすごく気まずそうな顔 をしながら答える。

「ちょっと待って、こんなに注文した覚えないんだけど?」

「……あの、その……発注数、一桁間違えました」

「……は?」

「だから、100袋のつもりが、1,000袋 届いちゃいました!」

「……」

 沈黙。

 無情にも、業者のスタッフは「ここにサインお願いします」と言い、峰子は 頭を抱えながら 署名した。

(返品はできるけど、一旦受け取らないと処理できないのよね……)

 となると、この大量のキャットフードをいったん倉庫にしまうしかない。

2
「店長、無理っす!! これ、無理!!」

 真緒は 必死に峰子を説得するが、峰子は諦める気配がない。

「大丈夫、なんとかなるわ」

「いや、ならないっすよ!? だって、あの段ボール、めっちゃデカいし!」

「……まぁ、確かに」

 峰子は 改めて箱を見て、軽く絶望した。

 キャットフードは ドライタイプで1袋がそこそこ重い。

 そして、それが詰まった箱は 女性二人で運ぶにはかなりキツいサイズ。

 1箱どころか、何十箱もあるのだ。

(さすがに、これはキツいわね……)

 それでも、峰子は 「なんとかするしかない」と思っていた。

「とりあえず、ひと箱ずつ運びましょ」

「えぇぇ~~!? 絶対無理ですって!!」

「やるしかないのよ」

「もう~~!!」

 真緒は 仕方なく作業を始めるフリをしながら、こっそりスマホを取り出し、ある人物にメールを送った。

3
 それから20分後。

「おっ、なんか大変そうですね」

「えっ?」

 突然の声に、峰子と真緒が バッと顔を上げる。

 そこには、バイトは休みのはずの 飯塚昭人(いいづか あきと)の姿があった。

「しょ、昭人くん!?」

 峰子は驚き、真緒は ほっとしたような笑顔 を見せる。

「真緒が『ヤバいから助けて』ってメールくれたんで」

 昭人は 倉庫の大きな台車を手にしながら、軽く肩を回す。

「おいおい、こんなの俺がいないと無理じゃないっすか」

「いや、でも今日は休みでしょ?」

「だから?」

「だから、別に来なくても――」

「いやいや、こんな時のための男手でしょ?」

 昭人は ドンっと胸を叩きながら、自信満々に言い放った。

(……あ)

 その一言を聞いた瞬間、峰子の胸がキュンとした。

(……何、この感じ)

4
 そこからの作業は、まさに 圧倒的だった。

「……ちょっと、何このスピード」

 峰子と真緒が 数十分かけて1箱を運んでいたのに、昭人はあっという間に片付けていく。

 台車に2箱ずつ乗せて、倉庫に運び、次の荷物を取りに戻る。

「え、ちょっと待って……めっちゃ頼もしくない?」

「ええ……これが“戦力の違い”ってやつですか?」

 二人は、ただただ 昭人の作業を見守るしかなかった。

 そして、すべての箱を倉庫に収めたあと、昭人は 満足そうに腕を組んだ。

「ふぅ~、こんなもんでしょ」

「……」

「どうっすか、店長? 頼れるバイトくんでしょ?」

「……」

 峰子は、昭人を見つめたまま 言葉が出なかった。

(いや、なにこの感じ……)

 ただの力仕事なのに、なぜか すごく頼もしく見える。

(もしかして、これ……キュンってやつ?)

 意識した瞬間、心臓が ドクン と鳴った。

「……っ」

 顔が熱くなった気がして、思わず視線をそらす。

5
 ――そして、その 峰子の“キュン”を確実に聞き逃さなかった人物がいた。

 真緒は、鋭い目で峰子を見つめる。

(あ……これ、完全に落ちたな)

 昭人が無自覚に 「男らしい」ところを見せつけた ことで、峰子は 間違いなく心を揺らされた。

(いや~~、いいねぇ……これは面白くなってきた)

 真緒は、にやりと笑いながら、峰子の わずかに赤くなった頬をじっと見つめた。
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