ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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31)キュンの自覚

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1
「じゃ、俺帰りますね~」

 大量のキャットフードを倉庫に収めた後、昭人(あきと)は いつも通りの軽いノリ で店を後にした。

「今日はありがとうございました」

 峰子(みねこ)は、できるだけ普通に声をかけたつもりだったが――

(……)

 昭人がドアを閉めた瞬間。

「――で?」

 隣から にやにや顔の真緒(まお) が現れた。

「で?」

「え?」

「いやいやいや、店長、今 めっちゃ“キュン”ってしてましたよね!?」

「ちょ、何言ってんのよ!」

「いや、見ましたって! あの、昭人くんがドヤ顔で『こんな時のための男手でしょ?』って言った瞬間の、店長のあの顔!!」

「な、なによ、それ!」

「顔が熱くなってましたよね? 心臓ドクンってしましたよね? ねぇねぇ、しましたよね!?」

「し、してない!!」

「嘘だ~~!!!」

 峰子は 全力で否定するが、声が裏返っている時点でアウトだった。

2
「ちょっと、さっきの店長、めっちゃ乙女の顔してましたよ!?」

「してないってば!」

「いやいや、私、バッチリ見てましたから! なんか 『まさか、昭人くんってこんなに頼れる人だったの!?』 みたいな顔してましたよね?」

「……っ!!」

(ち、違う……違うわよね!?)

 でも、否定しようとすると、逆に意識してしまう。

(……いや、でも、たしかに)

 力仕事をサクサクこなして、最後に 「頼れるバイトくんでしょ?」 と得意げに言った昭人。

(いや、それだけなのに……なんでこんなに頭に残ってるのよ!!)

 真緒の追及が続く。

「そもそも、店長、最近めっちゃ昭人くんのこと気にしてますよね?」

「そんなこと……ない!」

「ある~~!!!」

「ない!!」

「いや、あるって! だって、前から見てましたけど、最近の店長って 昭人くんが誰と話してるかとか、何してるかめっちゃ見てるんですよ!」

「……え?」

「気づいてませんでした? 店長、めっちゃ昭人くんのこと目で追ってますよ。」

「……」

 まさか、自分がそんなことをしていたなんて。

(私、そんなに……?)

3
「でもねぇ、店長」

 真緒は 猫たちを見渡しながら ふっと笑った。

「猫たちも、店長の気持ち、応援してるみたいですよ?」

「……え?」

 峰子が店内を見回すと――

◆ ボス(茶トラ♂)が、ジッと峰子を見ている。
◆ ミルク(白猫♀)が、峰子の足元にスリスリしてくる。
◆ もなか(三毛猫♀)が、ふわっと尻尾を揺らして近づいてくる。

(え……なんで、みんな寄ってくるの?)

 普段はこんなに近寄ってこないのに、まるで 「頑張れ」 と言っているみたいだった。

「ね? みんな気づいてるんですよ」

 真緒が ニヤニヤしながら 言う。

「店長、昭人くんのこと、好きになっちゃってるんじゃないですか?」

「……っ!!」

(す、好き……?)

 頭の中が ぐるぐると混乱する。

 でも、そんなことを考えていると――

 さっきの昭人の笑顔が浮かんだ。

 力仕事を終えて 「こんな時のための男手でしょ?」 とドヤ顔をしていた姿。

 なんだかんだ、頼れるバイトくん でいる昭人のこと。

(……)

(……私、本当に、好きになってるの?)

4
「でも、もし本当に好きなら……」

 峰子は 少しだけ、躊躇いがちに口を開く。

「昭人くん、年下なのよ?」

「だから?」

「学生よ?」

「だから?」

「バイトくんよ?」

「だから?」

「……」

 まったく動じない真緒に、峰子は なぜか言い返せなかった。

 ――それに、たしかに昭人は年下で学生でバイトだけど、でも。

(でも……ちゃんと頼れるし、気が利くし……)

 そもそも、昭人がバイトを始めた頃から、なぜか猫たちに異様に好かれていた。

 それだけじゃなく、人の気持ちも猫の気持ちもわかる不思議な子。

(……そんな人、なかなかいないわよね)

 そう思った瞬間、自分がどんどんその気になっていること に気づいてしまった。

「……」

「店長?」

「……なによ」

「今、ちょっとその気になってますよね?」

「……っ!」

「ねぇねぇ、認めちゃいましょうよ!」

「……」

 胸の奥が、ドキドキする。

 でも、それを認めるのは、なんだか悔しい気がして――

「……もう、片付けるわよ!」

 峰子は 無理やり話を終わらせた。

 だけど、真緒の笑みは 確信に満ちていた。
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