ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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45)年齢の壁?

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1
「それはそうと…いい? 昭人くん」

 峰子(みねこ)の母親は、まっすぐ昭人(あきと)を見つめながら言った。

「ちょっと、目をつぶってみてくれる?」

「……え?」

「いいから。ほら、目を閉じて」

 昭人は 戸惑いながらも、言われるがままに目をつぶる。

「想像してみて」

「……想像?」

「あなたが31歳。社会に出て、男として脂が乗ってくる頃」

「……」

「その時、峰子は40歳」

「……っ」

「あなたが定年を迎えて61歳になって、『さぁ、ちょっと二人で長旅でも』と言う頃」

「……」

「峰子はもう70歳」

 静寂が落ちる。

「……どう?」

 母親の低い声が、空気に響いた。

2
 昭人は 無意識に、眉を寄せた。

(40歳……70歳……?)

(俺が31の時、店長は40……?)

(俺が定年する頃には、店長は……)

 今まで、年齢差を「そこまで気にすることか?」と思っていた。

 だけど、こうして 具体的な未来のビジョンを突きつけられると――

(……考えたこと、なかった)

 心のどこかが、ざわついた。

3
 その瞬間――

「……なんでそんな年齢設定で聞くのよ!!!」

 突然、峰子の 怒声が響いた。

 昭人は ハッとして目を開ける。

「そんなこと言ったら、どんなカップルだって歳は取るじゃない!!!」

「……ミネコ」

「私だって、ずっと20代のままじゃないし!! それに、年下の子と付き合ったら、みんなそんな計算してから付き合うわけ!?」

「……」

 怒りと、どこか焦りを滲ませた表情。

 そして、その目が 一瞬だけ、不安そうに揺れた。

(……店長)

 昭人は、ようやく 自分が一瞬でも考え込んでしまったことを自覚した。

(俺、店長に……不安にさせるような顔、してたか……?)

4
「もう、いいわ」

 峰子は、すっと息を吸い込むと、きっぱりと言い切った。

「別にこの年になって、親の許しなんて必要ないんだから!」

 その言葉に、母親の眉がわずかに動いた。

「……そう」

「ええ、そうよ!」

「じゃあ、私はもう口を出さないわ」

「それでいいのよ!!!」

 母親は ふっと微笑むと、肩をすくめた。

「あなたが本当にそう思うなら、私はもう何も言わないわ」

 そう言って、静かに立ち上がる。

「……」

 昭人は、ただその様子を見守ることしかできなかった。

5
 母親が去った後、店内は静まり返っていた。

「……」

「……」

(なんか、すごいことになったな……)

 昭人は 気まずくなって、店の奥にいる猫たちに視線を向ける。

◆ ボス(茶トラ♂):「にゃ。(すごいものを見た)」
◆ ミルク(白猫♀):「にゃん!(店長、かっこいい!)」
◆ もなか(三毛猫♀):「にゃぁ~(昭人、ちゃんとしろよ)」

「……はぁぁぁぁぁ!!!!!」

 突然、峰子が 大きくため息をついた。

「な、なんすか、急に……」

「もう、疲れた!!! こんな親子バトル、したくなかったわよ!!!」

「……そりゃそうっすね」

「ほんと、何よもう……年齢年齢って……」

「……」

「……昭人くん」

「……はい?」

「さっき、ちょっと考え込んでたでしょ?」

「……」

 昭人は、ギクリとする。

「……まぁ、正直、考えました」

 隠すことはできなかった。

「でも、それは別に店長がどうとかじゃなくて……俺、ちゃんと未来のこと考えたことなかったんすよ」

「……未来?」

「“今楽しいから”じゃなくて、10年後、20年後のことを」

「……」

「だから、考えちゃいました」

「……」

 峰子は、静かに昭人を見つめた。

 そして、ふっと力を抜いて 微笑む。

「……そう」

「すみません」

「別に謝ることじゃないわよ」

 そう言いながら、彼女は 小さく笑った。

「……じゃあ、考えといて」

「考える?」

「私と、10年後、20年後も一緒にいたいかどうか」

「……!」

 昭人は、一瞬 言葉を失う。

 そして――

「……考えなくても、答えは決まってると思うっすけどね」

「えっ?」

「俺、店長が好きなんで」

 自然と出た言葉だった。

「……っっ!!」

 峰子の 顔が一気に赤くなる。

「な、な、なに、いきなり!!!」

「いや、言っとこうと思って」

「もう~~~!!! ほんと、そういうところ!!!」

 バシッと肩を叩かれた。

 でも、それが なんだか心地よかった。
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