ねこまど~猫と人がつなぐ、奇跡のカフェ~

naomikoryo

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47)ねこまど、存続の危機

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1
 昼過ぎの猫カフェ「ねこまど」。

 お客さんが入れ替わるタイミングで、一瞬だけ店内が静かになった。

「ふぅ……」

 藤井峰子(ふじい みねこ)は、カウンターで一息ついた。

 さっきまでの忙しさが嘘みたいに、穏やかな空気が流れる。

 ソファの上では、ボス(茶トラ♂)が どっしりとくつろいでいる。

 ミルク(白猫♀)は窓辺で日向ぼっこ。

 もなか(三毛猫♀)は、お気に入りの棚の上で毛づくろい。

 いつもの、平和な光景だった。

 しかし――

 次の瞬間、カウンターに置いていたスマートフォンが震えた。

 画面を見ると、そこに表示されていたのは 「オーナー」 の名前。

「……?」

 オーナーからの電話は珍しい。

 何かあったのだろうか。

「はい、もしもし?」

 電話を取ると、ゆっくりとした、少しかすれた声が聞こえた。

『……あぁ、ミネコさん? お忙しいところ、ごめんなさいねぇ』

 年老いた女性の声。

 オーナーである 川島静(かわしま しず) は、今年で78歳になる。

 体調が良くない時も多く、ほとんど店には顔を出さない。

 昔、猫を保護する活動をしていて、その流れで「ねこまど」を立ち上げた。

 峰子が店長として働き始めた頃は、まだ時々様子を見に来ていたが、ここ数年は電話でやり取りする程度だった。

「お久しぶりですね、オーナー。どうかしましたか?」

『……えぇ、そのね……ミネコさん……』

 静の声が、どこか 沈んでいる。

 胸騒ぎがした。

『……店を、閉めようと思ってるのよ』

「………………え?」

2
「ちょ、ちょっと待ってください!」

 峰子は 慌てて声を上げた。

「閉めるって、どういうことですか!? だって、売り上げも回復してきたじゃないですか!」

『……そうねぇ……ミネコさんのおかげで、一時は良くなったわねぇ……』

「だったら、なんで……?」

『……運営資金の問題よ』

「資金の問題?」

 静は、何かを考え込むように 小さく息を吐いた。

『……正直に言うとねぇ、これ以上、お店を続けるのが難しくなったのよ』

「でも……! 以前、おっしゃってたじゃないですか!『売り上げが安定すれば大丈夫』って!」

『えぇ……言ったわねぇ……』

 どこか、歯切れが悪い。

(何かを隠してる……?)

『とにかく、決めたのよ』

 静の声は、いつもより 弱々しく、それでいて決定事項を告げるような響きだった。

「そんな……!」

3
「オーナー、本当にそれしか方法はないんですか?」

『……そうねぇ……』

 微妙な間。

 その沈黙に、峰子の胸はさらにざわついた。

『……もし、どうしてもお店を続けたいなら……』

「……え?」

『……ミネコさんが、買い取るっていう手もあるけどねぇ』

 買い取る。

 その言葉が、峰子の耳にずしりと響いた。

「……買い取るって、そんな……私にそんなお金は……」

『まぁ……提示する金額次第だけどねぇ……』

「……」

『……ミネコさんには、考える時間をあげるわ』

 静の声は 優しく、そして少し寂しげだった。

『……でもね、ミネコさん』

「……はい」

『私はもう……猫たちの世話を続けるのが難しくなったの』

「……!」

『だからね、このお店のこと、どうするかは、あなたに任せるわ』

 そう言い残し、電話は静かに切れた。

4
「……」

 峰子は ゆっくりと携帯を下ろした。

 頭の中が 真っ白になる。

(店を閉める……?)

(そんなの、ありえない……)

(だって、この店がなくなったら……)

 カウンター越しに、猫たちが 穏やかにくつろいでいるのが見えた。

 あの子たちが 路頭に迷うことになるなんて……そんなの、絶対に嫌だ……!

「……くそっ……!!」

 思わず、拳を握りしめる。

(何とかしなきゃ……!!)

(でも……どうすれば……!?)

 すると――

「にゃ……(やばくないか、これ?)」

 カフェの片隅で、猫たちが密談を始めていた。

◆ ボス(茶トラ♂):「にゃ。(これはまずい)」
◆ ミルク(白猫♀):「にゃん!(俺たち、どうなるの!?)」
◆ もなか(三毛猫♀):「にゃぁ~(なんとかしないと!)」

「にゃ!(もし店がなくなったら、俺たちどうすんの!?)」

「にゃん!(他の店に行ける保証もないし!)」

「にゃぁ~!(いや、もうホームレス猫になるしか……!?)」

「にゃ~~!(それだけは嫌~~!!)」

 猫たちは、真剣な顔で 「どうにかする方法はないか?」 と話し合い始めた。

5
「……」

 峰子は ゆっくりと深呼吸する。

(まだ、決まったわけじゃない……)

(閉店を回避する方法だって、きっとあるはず……)

 そして――

「……少し、待ってください」

 再び携帯を握りしめる。

 もう一度、オーナーに連絡するために。

 「ねこまど」を、守るために。
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