らくご奇譚帖

naomikoryo

文字の大きさ
5 / 19

05:【便利屋喜八】

しおりを挟む
◆◆◆(まくら)

えー、いまどきの若ぇもんは「夜中におでん買って、ついでに税金も払って、スマホでなんか送って」ってな具合でね、全部コンビニで済んじゃうそうで。

いやぁ、便利になったもんですなぁ。

でもねぇ、便利すぎるのも考えもんで、「つまようじがないから動けない」なんて人も出てくる始末。

さて、そんな便利な世の中、もし江戸の時代に“コンビニ”みたいなもんがあったら……そりゃあ江戸っ子たちはどう反応するんでしょうな。

◆◆◆(本編・序)

時は文政のころ。場所は浅草のはずれ。

朝も早よから、奇妙な店が一軒ぽつんと建った。

屋号は「べんり屋 喜八(きはち)」。

店主は名の通り「喜八」という男、これがまた、どこで生まれたのかも分からん、不思議な人物で。

「ほらほら! 朝五つ(午前八時)から夜九つ(午後九時)まで開けとるよ! 年中無休、盆暮れ正月も営業中!」

「なぬ!? 正月もやるのかい!?」

「おうとも! 今日は冷やし甘酒とあったかおでんがあるよぉ!」

「……あったか? 夏だぞ今……」

「それが“味噌おでんアイス”よ! 未来の味!」

まるで見たことも聞いたこともない食いもん、物珍しさに町の子どもたちや町人がどっと集まり始めた。

◆◆◆(本編・破)

その店には何でもあった。

筆と墨はもちろん、灯油、傘、紙風船から、なぜか「温冷タオル」なるものまで。

「え? 紙風船が破けた? 買い直すより“補修用糊”が便利!」

「え? 女将と喧嘩した? “謝罪状テンプレート”をどーぞ!」

しまいには、

「風邪引いた? “声だけ使い”の手代が代わりに詫びに行きますよ!」

喜八のサービス精神、恐るべし。

極めつけは――

「夜中でも明かりがついてるってのは安心ですなぁ」

「そりゃそうよ、油が自動で注がれる“灯明オート”ってのを設置したんだと!」

ますます繁盛。もはや浅草で知らぬ者はなし。

◆◆◆(本編・急)

ところが便利すぎるのも困ったもので。

「ねぇお前さん、また喜八のとこで夕飯買ってきたの?」

「だって“弁当五種盛り”が手軽でうまくて……」

「たまには自分で握り飯くらい作りな!」

町の大工「熊さん」もこうだ。

「おう、喜八! 釘三本とカナヅチ、あと設計図もコピーしてくれ!」

「へい! “青焼き複写”で即納で!」

挙句の果てに――

「そこの若旦那、店番どうしたの?」

「へっへっへ、全部“自動番頭”に任せてますんで」

町全体が怠け者になり始める。

ついに町役人が動き出す。

「喜八どの、このままでは町の活気が死にますぞ!」

「えぇ!? 便利って、悪いことなのかい?」

「善し悪しの“加減”というものがあるのだよ!」

◆◆◆(オチ)

悩んだ喜八、店を閉めることに。

「……あんた、ほんとに閉めちまうのかい?」

「代わりに“ふべん屋”を始めるのさ。場所は変わらず、ただし――」

【営業時間:不定 定休日:月の半分 売ってる物:不明 買えるかどうか:気分次第】

「こ、こりゃあ不便だ……!」

「へっへっへ、それでこそ人生。たまには探して、工夫して、間違えるのも悪くないだろ?」

それから町はちょっとだけ活気を取り戻した――が。

結局「ふべん屋」にも行列ができる始末。

なんだかんだで、喜八の知恵は江戸っ子にとって、ちょいとくせになる味だったようで。



お後がよろしいようで!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...