らくご奇譚帖

naomikoryo

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06:【時をかける丁稚】

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◆◆◆(まくら)

え~、時代の流れというものは早いもので、ひとつ前の流行りも、あっという間に「古い」と言われる。

スマホが出たと思ったら、もう「持ってるだけじゃ遅れてる」。
でもね、落語の世界じゃ、いまだに丁稚が草履で走ってるってぇんですから、これは“時間が止まってる”のか、よっぽどのロングランか。

今日はそんな、“時間”にまつわる不思議な噺でございます。

◆◆◆(本編・序)

舞台は江戸、浅草の米屋「三河屋(みかわや)」。

店先で「いらっしゃいまし~」と声を張ってるのが、丁稚の清太(せいた)。

年のころは十六、元気だけが取り柄で、口は達者だが、仕事はからっきし。

「清太! また米俵の数、間違えやがって!」

「へへっ、大丈夫ですだ、三つと三つで七つです!」

「バカ! 足し算からやり直せ!」

ある日、主(あるじ)にこう言いつけられる。

「蔵の掃除をしてこい! 古道具が散らかっとる!」

仕方なく蔵へ向かうと、埃まみれの中に、やけに立派な柱時計が。

「なんだこりゃ、えれぇでけぇ鐘だなぁ……針が三つもあるし……」

その文字盤の中央には、“押すな”と書かれたボタン。

「押すなってぇのは……押せってことだな!」

ぽち。

――ぼんっ!

突如、煙が立ちこめ、目の前がぐるんと回ったかと思うと、気づけば見知らぬ町の真ん中。

◆◆◆(本編・破)

「……こ、ここはどこだぁ? なんでみんな、紙みたいな四角を手に持って歩いてる? べらべらしゃべってるし、ひとりで!」

「ぴぃ~……」

「今の音なに!? 誰が鳴いた!?」

飛び込んできたのは、電車の音。

「うわっ! 馬も車輪もねぇのに、走ってる!? でけぇムカデみてぇな乗り物だ!」

しばらく混乱していたが、意外と順応が早い清太。

「……ははぁ、ここは“未来”ってやつだな! こうなりゃ、遊んでみっか!」

とにかく腹が減って、ふらっと入ったのがコンビニ。

自動ドアが開いた瞬間――

「おぉぉおぉっ!! なんだ今の! 忍法・扉開きぃ~!?」

店員「いらっしゃいませ~」

「い、今しゃべった!? あ、いや、人か! 生きてるか!」

「ご注文どうぞ?」

「こ、米を二合と、たくあんと、あと湯豆腐……」

「(ニコッ)レジ横のおでんはいかがですか?」

なんとなく話が通じて、清太、コンビニでバイトを始めることに。

「……なんだかんだで、ここ楽しいな。お客さんもいっぱいいるし、銭も入るし。お米、袋に詰めるのも楽だしな」

だが、心のどこかで、こう思っていた。

「……でも、やっぱりあの店先の『いらっしゃい~!』って声が、恋しいなぁ……」

◆◆◆(本編・急)

ある日、ひとりの老人客がこう言った。

「若いの、妙な訛りだねぇ。どこ出身だい?」

「江戸の浅草っす!」

「……ほぉ? おまえ、もしかして……時を越えたのかい?」

「えっ……? おっちゃん、なんでそれを……?」

「わしもな、昔、押しちゃったんだ、“あのボタン”」

なんと老人も、同じ時計で時空を越えた元・丁稚だった。

「元に戻る方法はただひとつ、“時の刻みを思い出すこと”だ」

「時の刻み……?」

「つまり、あの店の声、あの米の匂い、あの時間を、ちゃんと思い出すんだ」

そして老人は消えるように姿を消した。

◆◆◆(オチ)

清太、急いで再び古時計の前へ戻り、目を閉じてつぶやいた。

「いらっしゃいまし~……あっしは三河屋の清太、毎朝、五つに起きて……」

――ぼんっ!

煙が立ちこめ、気づけば――

「清太! なにぼーっとしてるんだ!」

「うおっ……! 主ィ! あたし、生き返った! いや、戻ってきた!」

「何言ってんだバカ! いいから俵運べ!」

清太、元の江戸に戻っていた。

しばらくは未来のことを思い出してニヤニヤしていたが、
ある日、町の片隅にふと目をやると――

「……なんだありゃ?」

【便利屋 喜八】
看板がひとつ、かかっていた。

「おぉっ!? あの爺さんの名前だったな……」

未来の誰かが、江戸にも戻ってきたのかもしれない。

「……やっぱり、時代ってのは不思議で、面白い!」

そんな清太の心にも、また“時”が流れ始めたのでございます。



お後がよろしいようで!
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