らくご奇譚帖

naomikoryo

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07:【偽坊主(にせぼうず)】

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◆◆◆(まくら)

えー、何ごとも「見た目が九割」なんてことを言いますけれども。
あれ、ほんとかねぇ。

だってよ、剃ってさえいれば坊主に見えるし、眼鏡をかけりゃインテリに見えるし、スーツ着てれば仕事できそうに見える。

でもね、「見える」と「できる」は違うんです。

今日はそんな、“それっぽい”だけの男が、地獄を見る――いや、極楽を見る? そんなお話でございます。

◆◆◆(本編・序)

旅人・八五郎、金も仕事も行き先もない。
木陰で腹を鳴らしながら、うなっておりました。

「……ああ、腹が減った……人の情けにすがるしかねぇなぁ……」

そこに通りかかったのが、僧の一団。

「あれぇ……坊主って、ただで飯がもらえるんじゃねぇか?」

思いついた八五郎、次の町で髪をそり、適当に袈裟っぽい布をまとい、「にせ坊主」に早変わり。

「え~、このたびは、諸国を行脚する仏門の者でございます。どなたか、宿と飯をお授けくだされば、南無阿弥陀仏の功徳により……」

「まぁまぁ、お坊さま! 遠いところからようこそ! どうぞこちらへ!」

町人、仏様に弱い。

出された精進料理に涙を流す八五郎。

「うめぇ……この味は……極楽……!」

◆◆◆(本編・破)

宿代もただ、食事もただ。
こりゃいいやと調子に乗った八五郎。

適当に説法もでっちあげる。

「よろしいか皆さん、世の中には三つの道がございます。ひとつ、欲を捨てる道。ふたつ、怒りを捨てる道。みっつ……みっつは……とりあえず今日も生きてる道でございます」

「ははぁ~!」「ありがてぇお言葉だ!」

なぜか大ウケ。

「ちょっと滑舌が悪いけど、心に響くよね」

「きっと深い意味があるんだよ、今の『とりあえず』にも……」

しまいには講釈を本にしてくれと言われる始末。

八五郎も乗ってくる。

「まぁ、仏も黙ってればバレねぇ……じゃなかった、ありがたさは語らねば伝わらねぇってな」

◆◆◆(本編・急)

そんなある晩。

ひとりの老婆がやってくる。

「お坊さま、どうか、うちの亡くなった息子の供養を……今夜だけでよいのです……」

「へ、へいっ、承りました!」

夜、墓場の脇に小さな祠。

蝋燭の明かりが、風でゆらゆら。

「えー……なんまいだぶなんまいだぶ、こーごーあいごー……」

ぼそぼそ唱えていると――

背後から、すーっと冷たい風が。

「……坊主、ありがとな……」

振り向くと、白装束の若い男。

顔が、ない。

「ひぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

八五郎、叫びながら墓場を全力で脱出。

翌朝、老婆の家へ。

「す、すみません! あっし、坊主じゃねぇんです! ただの流れ者です! 供養もできやしません! 騙すつもりじゃ……いや、ちょっとは騙してました!」

◆◆◆(オチ)

老婆、にっこり笑って言う。

「……あの子もね、生前は悪さばかりしてた。坊主なんてバカにしてた。でも、あんたのような坊主に出会えて、ちょっと改心したのかもしれないねぇ」

「え……あんな適当な拙僧でも?」

「“心があれば、格好はいらぬ”って言うだろ? 本物の坊さんより、よっぽど成仏できたと思うよ」

それを聞いた八五郎、なぜか涙がぽろぽろと。

「……こんなあたしでも、人の役に立ったってのか……」

以来、八五郎――
本当に坊主になる決心をいたしまして、
今じゃ小さなお寺を構えております。

読経はいまだに「なんまいだぶ、こーごーあいごー」ですが……

町の者は言います。

「この坊主の話は、なんかホッとするんだよ」



――偽りから始まった信仰が、本物になることもある。

お後がよろしいようで!
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