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19:【うそつき照明】
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◆◆◆(まくら)
え~、皆さんご存じのとおり、人間ってぇのは、まぁよう喋る生き物でして。
「腹減った」だの、「最近痩せた気がする」だの、「この酒は一合しか飲んでない」とか……
それ、たいてい“嘘”でございます。
だけど嘘ってのは不思議なもんでね、上手に使えば人を救うこともあるし、下手すりゃ人生ごと吹き飛ぶ。
今日は、そんな“嘘”が光ってバレるという、まことにありがたくない、でもちょっと笑える噺でございます。
◆◆◆(本編・序)
ある日、浅草裏の細道に、新しもの好きで知られた細工師の**徳兵衛(とくべえ)**が帰ってくるなり、長屋の連中を集めてこう言った。
「おい皆の衆、見てみろ。新しいもんを作ったぞ!」
「またかよ、前は“飛ぶ提灯”で井戸に落ちてたじゃねぇか」
「へへっ、今度のは違う。今度のは、**“うそつき照明”**だ!」
「なんだそりゃ?」
徳兵衛が見せたのは、一本の小さな提灯。
火を灯すと、中の芯が赤く光る。
「この灯籠はな、人が嘘をつくと、赤くなるんだ!」
「な、なにぃ!?」
「つまり、話してる内容に“真偽”を判定して、光り方が変わるのさ。正直なら白、嘘つきなら赤。ちょっと嘘ならピンク。怒ってるとオレンジ。無理して笑ってると紫!」
「……細かすぎねぇか?」
「ええい、いいから試してみろ!」
最初に試したのは与太郎。
「おら、女にモテる!」
──ぽぅっ!
赤!!
「うっひゃあああああ! 嘘認定ぃぃぃ!!」
町内、大盛り上がり。
◆◆◆(本編・破)
それからというもの、徳兵衛の「うそつき照明」は長屋中で引っ張りだこ。
「よーし、これで商売の誠実さを証明できるぞ!」
八百屋の親父が試してみる。
「この大根、今日採れたて!」
──赤。
「昨日のかぁぁぁ!」
「この味噌、味は保証します!」
──ピンク。
「不安なんだな!? お前自身が不安なんだな!?」
女たちの間でも使われ始める。
「おまえさん、今日は寄り道してないわよね?」
「し、してないさ」
──オレンジ。
「怒ってる!? 怒ってる!? 何に!? 誰に!?」
ついには恋の告白にも使われる始末。
「……ずっと、前から好きでした」
──紫。
「無理してるぅぅぅぅ!! やっぱ無理してるぅぅぅ!!」
嘘が一つ、また一つ、照明の灯に暴かれていく。
最初は面白がっていた町の衆も、次第に疑心暗鬼に。
◆◆◆(本編・急)
やがて、この「うそつき照明」を正式な町内検証機として導入しようという話が出てくる。
「夫婦喧嘩の調停」
「貸し借りの証明」
「奉行所への証言」
なにかあれば灯籠に聞け、と。
しかし――
問題が起きたのは、町の名主・清兵衛の葬儀の場だった。
「名主さまは、正直者で、民を慈しみ――」
──赤。
「……え?」
読経を続ける僧侶の額に汗がにじむ。
「彼は常に、嘘を嫌い、誠実で――」
──真っ赤。
「ちょ、ちょっと! 火が強いんじゃない!? 誰か風をぉ!」
「いや……うそつき照明です」
参列者がざわつく。
「まさか……名主、二重帳簿だったとか……?」
「裏で米をごまかしてたって話、マジだったのか!?」
追悼の場が疑惑の大炎上。
照明は静かに燃え続けていた。
◆◆◆(オチ)
そして数日後。
徳兵衛のところに、長屋の女たちが押しかける。
「この照明、もうやめて!」
「子どもが『お母ちゃんはお父ちゃんに内緒で団子食べてる』ってバラしたのよ!」
「亭主が“お前の味噌汁、ほんとはしょっぱい”って赤く光ったのよ!」
「……うん、わかった。これは作っちゃいけないもんだった……」
そう言って徳兵衛は、照明をひとつずつ消していった。
「……灯りってのはよ、心を照らすもんで、暴くもんじゃねぇやな」
最後の照明がふっと消えると、町にようやく静けさが戻った。
その夜、与太郎がポツリと一言。
「……でもよ、あれがあると安心する場面もあったぜ」
「どんなときだい?」
「借金返すって言ったとき、白く光ったら……俺も信じるって言ってもらえた」
「……ふーん」
その言葉には、灯りはいらなかった。
――うそつき照明が消えても、ほんとのことは、ちゃんと残る。
お後がよろしいようで!
え~、皆さんご存じのとおり、人間ってぇのは、まぁよう喋る生き物でして。
「腹減った」だの、「最近痩せた気がする」だの、「この酒は一合しか飲んでない」とか……
それ、たいてい“嘘”でございます。
だけど嘘ってのは不思議なもんでね、上手に使えば人を救うこともあるし、下手すりゃ人生ごと吹き飛ぶ。
今日は、そんな“嘘”が光ってバレるという、まことにありがたくない、でもちょっと笑える噺でございます。
◆◆◆(本編・序)
ある日、浅草裏の細道に、新しもの好きで知られた細工師の**徳兵衛(とくべえ)**が帰ってくるなり、長屋の連中を集めてこう言った。
「おい皆の衆、見てみろ。新しいもんを作ったぞ!」
「またかよ、前は“飛ぶ提灯”で井戸に落ちてたじゃねぇか」
「へへっ、今度のは違う。今度のは、**“うそつき照明”**だ!」
「なんだそりゃ?」
徳兵衛が見せたのは、一本の小さな提灯。
火を灯すと、中の芯が赤く光る。
「この灯籠はな、人が嘘をつくと、赤くなるんだ!」
「な、なにぃ!?」
「つまり、話してる内容に“真偽”を判定して、光り方が変わるのさ。正直なら白、嘘つきなら赤。ちょっと嘘ならピンク。怒ってるとオレンジ。無理して笑ってると紫!」
「……細かすぎねぇか?」
「ええい、いいから試してみろ!」
最初に試したのは与太郎。
「おら、女にモテる!」
──ぽぅっ!
赤!!
「うっひゃあああああ! 嘘認定ぃぃぃ!!」
町内、大盛り上がり。
◆◆◆(本編・破)
それからというもの、徳兵衛の「うそつき照明」は長屋中で引っ張りだこ。
「よーし、これで商売の誠実さを証明できるぞ!」
八百屋の親父が試してみる。
「この大根、今日採れたて!」
──赤。
「昨日のかぁぁぁ!」
「この味噌、味は保証します!」
──ピンク。
「不安なんだな!? お前自身が不安なんだな!?」
女たちの間でも使われ始める。
「おまえさん、今日は寄り道してないわよね?」
「し、してないさ」
──オレンジ。
「怒ってる!? 怒ってる!? 何に!? 誰に!?」
ついには恋の告白にも使われる始末。
「……ずっと、前から好きでした」
──紫。
「無理してるぅぅぅぅ!! やっぱ無理してるぅぅぅ!!」
嘘が一つ、また一つ、照明の灯に暴かれていく。
最初は面白がっていた町の衆も、次第に疑心暗鬼に。
◆◆◆(本編・急)
やがて、この「うそつき照明」を正式な町内検証機として導入しようという話が出てくる。
「夫婦喧嘩の調停」
「貸し借りの証明」
「奉行所への証言」
なにかあれば灯籠に聞け、と。
しかし――
問題が起きたのは、町の名主・清兵衛の葬儀の場だった。
「名主さまは、正直者で、民を慈しみ――」
──赤。
「……え?」
読経を続ける僧侶の額に汗がにじむ。
「彼は常に、嘘を嫌い、誠実で――」
──真っ赤。
「ちょ、ちょっと! 火が強いんじゃない!? 誰か風をぉ!」
「いや……うそつき照明です」
参列者がざわつく。
「まさか……名主、二重帳簿だったとか……?」
「裏で米をごまかしてたって話、マジだったのか!?」
追悼の場が疑惑の大炎上。
照明は静かに燃え続けていた。
◆◆◆(オチ)
そして数日後。
徳兵衛のところに、長屋の女たちが押しかける。
「この照明、もうやめて!」
「子どもが『お母ちゃんはお父ちゃんに内緒で団子食べてる』ってバラしたのよ!」
「亭主が“お前の味噌汁、ほんとはしょっぱい”って赤く光ったのよ!」
「……うん、わかった。これは作っちゃいけないもんだった……」
そう言って徳兵衛は、照明をひとつずつ消していった。
「……灯りってのはよ、心を照らすもんで、暴くもんじゃねぇやな」
最後の照明がふっと消えると、町にようやく静けさが戻った。
その夜、与太郎がポツリと一言。
「……でもよ、あれがあると安心する場面もあったぜ」
「どんなときだい?」
「借金返すって言ったとき、白く光ったら……俺も信じるって言ってもらえた」
「……ふーん」
その言葉には、灯りはいらなかった。
――うそつき照明が消えても、ほんとのことは、ちゃんと残る。
お後がよろしいようで!
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