12 / 24
第12話「翔太の過去、ちら見え」
しおりを挟む
「ねえ、長谷川さんってさ――理想の結婚生活って、どんな感じ?」
2回目のデート。
夜のファミレス、隅の席でハンバーグをつつきながら、私はふとそんなことを口にしていた。
誠さんは、少し驚いた顔でスプーンを止める。
「……あ、意外とストレートっすね」
「うん、婚活だからさ。ちょっと現実的な話もしとこうかなって」
「うーん……そうだなあ」
誠さんはしばらく考えて、少し照れたように言った。
「たとえば、朝は一緒にコーヒー飲んで、休日は近所のスーパーに買い物行って、夜は録画したバラエティ見てゲラゲラ笑う……そんな感じ?」
「うわ、めっちゃ穏やか」
「でしょ?理想は“波風立たない日常”。平和第一主義です、俺」
笑っている誠さんを見ながら、私は思った。
――ちゃんとしてるし、優しいし、楽しいし。
“婚活相手”としては、ほんと申し分ない。
……でも、なんでだろう。
なんか、“物足りなさ”がある。
彼の描く“理想の生活”に、私は**“自分が入ってる”感覚がなかった**。
まるで、“彼の暮らし”に“私という役”を割り当ててもらってるみたい。
それが悪いわけじゃない。たぶん、それが“普通の婚活”なんだ。
でも。
私の中で、ほんの小さなひっかかりが、音を立てていた。
その翌日。
私は川原のいるオフィスへ顔を出した。
顔を見た瞬間、川原がすっとコーヒーを差し出してくる。
「疲れた顔してんな。地雷?」
「ちげーわ。長谷川さんと、2回目デートだったの」
「お、で?どうだった?」
「うーん……穏やかだった。すごくちゃんとしてる人。……けど」
「けど?」
「一緒にいる未来が“想像できない”って感じがした」
川原は珍しく黙って聞いていた。
「たぶんさ、向こうが悪いんじゃないんだよね。こっちが、“収まるだけ”の関係に慣れてないのかも」
そう口にして、自分で「あー」となる。
“収まるだけ”の恋愛じゃ、きっと、私には足りないんだ。
しばらく沈黙が流れたあと、川原がぽつりと言った。
「……前、話したっけ? 俺が結婚直前で破談になった理由」
「ううん。聞いてない」
「……俺、当時の彼女に“感情がない”って言われたんだよ」
「は?」
「なんか、いつも冷静で、反応が薄くて、喜怒哀楽がないって。“一緒にいてもドキドキしない”って言われた」
「え、それだけで?」
「いや、もっといろいろあったよ。俺も理屈っぽいし、すぐ“効率”とか“合理性”で物事語っちゃうし」
川原は、少し笑ってから続けた。
「でも、言われてショックだった。“本気で向き合ってたつもり”だったからさ」
「……うん」
「結局さ、恋愛って“理屈”じゃなくて、“気持ちを揺らせるかどうか”なんだよな」
その言葉が、まっすぐ胸に突き刺さった。
気持ちを、揺らせるかどうか。
私は、誠さんといて、揺れてない。
でも、川原といるとき――
いつも、なんか、心がザワザワしてる。
「……あんたさ」
「ん?」
「ひとつ聞いていい?」
「どした?」
「“本気で向き合ってたつもり”って言ったけど、相手と未来、ちゃんと“想像”してた?」
川原は、一瞬だけ動きを止めた。
「……してなかったかもな。条件とか、タイミングばっか見てた」
「……それ、あたし今、やってるわ」
ふたりで、ふっと笑い合った。
その笑いの中に、少しだけ似たもの同士のにおいがした。
帰宅して、私はノートを開いた。
1ページ目に、こう書かれていた。
「誰かと一緒にいる未来が、自然に思い浮かぶ。
それが、“好き”の正体なのかもしれない。」
誠さんは、きっといい人だ。結婚しても穏やかな毎日が続くだろう。
でも――
「私、たぶん、揺れたいんだ。」
怒ったり、笑ったり、ぶつかったり、泣いたりして、
それでも“あんたじゃなきゃ無理”って言えるような関係を、望んでるのかもしれない。
2回目のデート。
夜のファミレス、隅の席でハンバーグをつつきながら、私はふとそんなことを口にしていた。
誠さんは、少し驚いた顔でスプーンを止める。
「……あ、意外とストレートっすね」
「うん、婚活だからさ。ちょっと現実的な話もしとこうかなって」
「うーん……そうだなあ」
誠さんはしばらく考えて、少し照れたように言った。
「たとえば、朝は一緒にコーヒー飲んで、休日は近所のスーパーに買い物行って、夜は録画したバラエティ見てゲラゲラ笑う……そんな感じ?」
「うわ、めっちゃ穏やか」
「でしょ?理想は“波風立たない日常”。平和第一主義です、俺」
笑っている誠さんを見ながら、私は思った。
――ちゃんとしてるし、優しいし、楽しいし。
“婚活相手”としては、ほんと申し分ない。
……でも、なんでだろう。
なんか、“物足りなさ”がある。
彼の描く“理想の生活”に、私は**“自分が入ってる”感覚がなかった**。
まるで、“彼の暮らし”に“私という役”を割り当ててもらってるみたい。
それが悪いわけじゃない。たぶん、それが“普通の婚活”なんだ。
でも。
私の中で、ほんの小さなひっかかりが、音を立てていた。
その翌日。
私は川原のいるオフィスへ顔を出した。
顔を見た瞬間、川原がすっとコーヒーを差し出してくる。
「疲れた顔してんな。地雷?」
「ちげーわ。長谷川さんと、2回目デートだったの」
「お、で?どうだった?」
「うーん……穏やかだった。すごくちゃんとしてる人。……けど」
「けど?」
「一緒にいる未来が“想像できない”って感じがした」
川原は珍しく黙って聞いていた。
「たぶんさ、向こうが悪いんじゃないんだよね。こっちが、“収まるだけ”の関係に慣れてないのかも」
そう口にして、自分で「あー」となる。
“収まるだけ”の恋愛じゃ、きっと、私には足りないんだ。
しばらく沈黙が流れたあと、川原がぽつりと言った。
「……前、話したっけ? 俺が結婚直前で破談になった理由」
「ううん。聞いてない」
「……俺、当時の彼女に“感情がない”って言われたんだよ」
「は?」
「なんか、いつも冷静で、反応が薄くて、喜怒哀楽がないって。“一緒にいてもドキドキしない”って言われた」
「え、それだけで?」
「いや、もっといろいろあったよ。俺も理屈っぽいし、すぐ“効率”とか“合理性”で物事語っちゃうし」
川原は、少し笑ってから続けた。
「でも、言われてショックだった。“本気で向き合ってたつもり”だったからさ」
「……うん」
「結局さ、恋愛って“理屈”じゃなくて、“気持ちを揺らせるかどうか”なんだよな」
その言葉が、まっすぐ胸に突き刺さった。
気持ちを、揺らせるかどうか。
私は、誠さんといて、揺れてない。
でも、川原といるとき――
いつも、なんか、心がザワザワしてる。
「……あんたさ」
「ん?」
「ひとつ聞いていい?」
「どした?」
「“本気で向き合ってたつもり”って言ったけど、相手と未来、ちゃんと“想像”してた?」
川原は、一瞬だけ動きを止めた。
「……してなかったかもな。条件とか、タイミングばっか見てた」
「……それ、あたし今、やってるわ」
ふたりで、ふっと笑い合った。
その笑いの中に、少しだけ似たもの同士のにおいがした。
帰宅して、私はノートを開いた。
1ページ目に、こう書かれていた。
「誰かと一緒にいる未来が、自然に思い浮かぶ。
それが、“好き”の正体なのかもしれない。」
誠さんは、きっといい人だ。結婚しても穏やかな毎日が続くだろう。
でも――
「私、たぶん、揺れたいんだ。」
怒ったり、笑ったり、ぶつかったり、泣いたりして、
それでも“あんたじゃなきゃ無理”って言えるような関係を、望んでるのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる