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番外編①「ご挨拶、行ってきます。地獄へ。」
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「吐きそう」
「早くも!?まだ車降りてないよ!?」
川原は、ひかりの実家前に車を停めたまま、運転席でハンドルに額を押し付けていた。
「マジで俺、今すぐ逃げ出したい。許してもらえなかったらどうしよう」
「大丈夫大丈夫。うちの親、基本的にはまともだから」
「その“基本的には”が信用ならんのよ!!」
それもそのはず。
大庭家の父――**大庭剛(おおば・つよし)**は、地元で有名な元・高校教頭。
スーツ姿、角刈り、眼鏡の奥の鋭い目。
道端で出会ったら3回謝りたくなるオーラを常に放っている。
さらに彼は、ひかりの元ヤン時代をリアルタイムで食らってきた当事者。
しかも、娘から「うるせぇ!説教なら警察にでもしてろ!」と真顔で一喝されたトラウマ持ち。
結果――今は娘にビビっている。
そして、娘の結婚相手=その娘に怒られずに生活してる強者、という認識。
ハードル、謎に高め。
午後1時、チャイムを鳴らす。
「よ、ようこそ~~!翔太くんね!?よく来てくれたわね~!」
出迎えたのは、ひかりの母・大庭しずえ。
小柄でふわふわした髪型、スウェットに猫エプロンというゆるゆるスタイル。
「川口くん?川原くん?あれ、どっちだったかしら~」
「か、川原です」
「あらやだ~。でもイケメン!ひかりったら、いつの間に……え、これってもう入籍してんの?」
「まだしてねぇよ」
「うっそ~!もうしてんのかと思った~!ほら、あたしら授かり婚だったし!」
「余計なこと言わなくていいから、母さん」
天然母、初手からフルスロットル。
リビングに通され、川原は硬直していた。
そこにいたのは、まさに“昭和の教頭”そのもの――父・剛。
眉間にシワ。腕組み。口元は一文字。
ひかりはソファにドカッと座り、
「父さん、ちゃんと話聞けよ」と一声。
すると剛が、ピクリと震えた。
「き、聞くとも。ああ。話を、ね。うん」
ビビってる。明らかに。
そして目の前にいる男・川原は、
“そのひかりにビビらず意見を言える強者”として、剛の中で異常警戒対象に設定されていた。
「は、はじめまして。川原翔太と申します。本日はご挨拶にうかがわせていただき――」
「で、君、普段ひかりにどう接してるんだ?」
唐突な質問。睨みつける剛。
川原、冷や汗。
「えっと……ふつう、です。ええと、まぁ、冗談を言い合ったり、あと、彼女がしんどそうなときは……背中、さすったり……?」
「さすった!?なにを!?背中!?娘の!?」
「剛さん、落ち着いて~~!翔太くん、変な意味で言ったんじゃないのよ~!」
「そうです!ちょっと疲れてたときに、肩を……」
「肩!?肩を!?密着!?」
「父さん黙って」
「……はい」
完全に親子の力関係が逆転していた。
「それで……その……ご結婚を……」
「許さん!!」
「えっっっっ!!!??」
「……とは言わない。けど、覚悟はあるのか?あいつ、口も悪いし、機嫌も変わりやすいぞ。あと、飲み過ぎると暴言がすごい」
「父さん、悪口多すぎ」
「事実を述べてるだけだ。お前なんて昔、正月に酔って“お雑煮に感謝しろバカ!”って皿投げてきたんだぞ」
「それは父さんが雑煮の大根だけ全部食ったからだろ」
「……あ、あれは美味しかったからつい……」
川原、笑いをこらえるのに必死。
「俺は、ひかりさんの全部を理解してるとはまだ言えません。でも、ちゃんと向き合う覚悟はあります。」
そう言った川原に、剛はじっと視線を注いだ。
その目は鋭いままだったけど、
わずかに、口元が緩んだ。
「なら……許す。ただし」
「ただし?」
「怒らせたときは俺にも連絡しろ。一緒に土下座してやる」
「お父さん!?」
その日の夜。
帰り道、川原は助手席で放心していた。
「……今までで一番疲れたかもしれん」
「おつかれ」
「でも、なんか……楽しかった」
「マジで?」
「うん。家族って感じ、ちゃんとあったな。にぎやかで、めんどくさくて、あったかい」
ひかりは、少し笑って、言った。
「そういうの、大事にできる人と、結婚したかったんだよ」
川原は照れながら、髪をかいた。
「じゃあ、俺でよかった?」
「まぁ……合格」
それは、“家族”になるための
最初の、大きな一歩だった。
「早くも!?まだ車降りてないよ!?」
川原は、ひかりの実家前に車を停めたまま、運転席でハンドルに額を押し付けていた。
「マジで俺、今すぐ逃げ出したい。許してもらえなかったらどうしよう」
「大丈夫大丈夫。うちの親、基本的にはまともだから」
「その“基本的には”が信用ならんのよ!!」
それもそのはず。
大庭家の父――**大庭剛(おおば・つよし)**は、地元で有名な元・高校教頭。
スーツ姿、角刈り、眼鏡の奥の鋭い目。
道端で出会ったら3回謝りたくなるオーラを常に放っている。
さらに彼は、ひかりの元ヤン時代をリアルタイムで食らってきた当事者。
しかも、娘から「うるせぇ!説教なら警察にでもしてろ!」と真顔で一喝されたトラウマ持ち。
結果――今は娘にビビっている。
そして、娘の結婚相手=その娘に怒られずに生活してる強者、という認識。
ハードル、謎に高め。
午後1時、チャイムを鳴らす。
「よ、ようこそ~~!翔太くんね!?よく来てくれたわね~!」
出迎えたのは、ひかりの母・大庭しずえ。
小柄でふわふわした髪型、スウェットに猫エプロンというゆるゆるスタイル。
「川口くん?川原くん?あれ、どっちだったかしら~」
「か、川原です」
「あらやだ~。でもイケメン!ひかりったら、いつの間に……え、これってもう入籍してんの?」
「まだしてねぇよ」
「うっそ~!もうしてんのかと思った~!ほら、あたしら授かり婚だったし!」
「余計なこと言わなくていいから、母さん」
天然母、初手からフルスロットル。
リビングに通され、川原は硬直していた。
そこにいたのは、まさに“昭和の教頭”そのもの――父・剛。
眉間にシワ。腕組み。口元は一文字。
ひかりはソファにドカッと座り、
「父さん、ちゃんと話聞けよ」と一声。
すると剛が、ピクリと震えた。
「き、聞くとも。ああ。話を、ね。うん」
ビビってる。明らかに。
そして目の前にいる男・川原は、
“そのひかりにビビらず意見を言える強者”として、剛の中で異常警戒対象に設定されていた。
「は、はじめまして。川原翔太と申します。本日はご挨拶にうかがわせていただき――」
「で、君、普段ひかりにどう接してるんだ?」
唐突な質問。睨みつける剛。
川原、冷や汗。
「えっと……ふつう、です。ええと、まぁ、冗談を言い合ったり、あと、彼女がしんどそうなときは……背中、さすったり……?」
「さすった!?なにを!?背中!?娘の!?」
「剛さん、落ち着いて~~!翔太くん、変な意味で言ったんじゃないのよ~!」
「そうです!ちょっと疲れてたときに、肩を……」
「肩!?肩を!?密着!?」
「父さん黙って」
「……はい」
完全に親子の力関係が逆転していた。
「それで……その……ご結婚を……」
「許さん!!」
「えっっっっ!!!??」
「……とは言わない。けど、覚悟はあるのか?あいつ、口も悪いし、機嫌も変わりやすいぞ。あと、飲み過ぎると暴言がすごい」
「父さん、悪口多すぎ」
「事実を述べてるだけだ。お前なんて昔、正月に酔って“お雑煮に感謝しろバカ!”って皿投げてきたんだぞ」
「それは父さんが雑煮の大根だけ全部食ったからだろ」
「……あ、あれは美味しかったからつい……」
川原、笑いをこらえるのに必死。
「俺は、ひかりさんの全部を理解してるとはまだ言えません。でも、ちゃんと向き合う覚悟はあります。」
そう言った川原に、剛はじっと視線を注いだ。
その目は鋭いままだったけど、
わずかに、口元が緩んだ。
「なら……許す。ただし」
「ただし?」
「怒らせたときは俺にも連絡しろ。一緒に土下座してやる」
「お父さん!?」
その日の夜。
帰り道、川原は助手席で放心していた。
「……今までで一番疲れたかもしれん」
「おつかれ」
「でも、なんか……楽しかった」
「マジで?」
「うん。家族って感じ、ちゃんとあったな。にぎやかで、めんどくさくて、あったかい」
ひかりは、少し笑って、言った。
「そういうの、大事にできる人と、結婚したかったんだよ」
川原は照れながら、髪をかいた。
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「まぁ……合格」
それは、“家族”になるための
最初の、大きな一歩だった。
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