元ヤン女子、婚活はじめました ~結婚って魂のぶつけ合いだよね!

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番外編③「温泉旅行と露天風呂と震える元ヤン」

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「あー!テンション上がるわぁ!旅館ってだけでテンション上がるわぁ!!」

宿に着いて10分。
私、大庭ひかり(元ヤン・現在婚約者)、テンションMAX。

チェックインしてすぐ、部屋にある露天風呂を見てからというもの、興奮が止まらない。

「見ろよ翔太!この檜!この湯気!この解放感!!すごくね!?マジすごくね!?」

「いやあの……それ昨日から10回くらい聞いてる」

「いいからほら!とっとと風呂入ろうぜ!せっかくだし!部屋風呂だし!」

川原翔太、彼氏(婚約者)はというと、
その私のテンションに若干押され気味だった。

「え、ちょ、いきなり一緒に?」

「は?何いってんの、部屋風呂ってそういうもんでしょ。カップルだぜ、カ・ッ・プ・ル」

「いや、もちろん俺は全然いいんだけど……てか、ひかりのほうがさ」

「え、なに。びびってんの?男子たるもの“露天風呂で彼女と混浴”とか夢見ないんすか?」

「うわ~急に強キャラ感出してきたな~~……」

私のテンションが高すぎるせいで、翔太はむしろ引き気味。
でも、私は今日という日に燃えていた。

理由?――この人と、ちゃんと“恋人”になりたいって思ってるから。

「じゃあ、準備するわ。タオル取ってくる!」

そう言って脱衣所へ駆け込んだ私は、
扉を閉めた瞬間、ひとりで震えていた。

「……しぬ……まじでしぬ……あたし、どうするん……」

実は私――

未経験なのである。

そう、元ヤンだの婚活女子だの言われてきたが、
いろいろあってタイミングを逃し、
いまに至るまで、恋愛的に“本番”を踏んだことがない。

なのに今、自分から風呂に誘った。混浴である。しかも檜。完全に高級旅館ムード。
冷静に考えて、どう考えても初手でラスボス戦突入である。

「いやでも、言っちゃったし……今さら“やっぱ無理”とか無理じゃん……!でも怖いじゃん……ってか緊張で胃がヤバい……」

鏡の前でひとり葛藤していたら、
ドアの向こうから翔太の声。

「おーい、ひかり?準備できてる?……もしかして本気で寝た?」

「ねてねーよ!」

どうにかバスローブを羽織り、風呂場に向かう。
湯気の中、翔太はすでに肩まで浸かっていて、軽く手を振ってきた。

「よっ」

「よっじゃねぇよ……なんでそんな余裕あんの……」

「なんでって、風呂だから……」

私は、そろ~りと縁に腰を下ろす。

(いける……いけるいけるいける……これは文化的入浴行為……健康のため……交際関係の発展のため……!)

「……ひかり?」

「なに……」

「いや、さっきからガタガタ震えてるけど、寒いの?」

「ちがうわ!!」

「じゃあなに」

「……あたし、さ……」

もごもご言いながら、ついに口にした。

「……未経験、なの……」

翔太が目を丸くした。

「……マジ?」

「うん……だからって、なんかその……ひくとかは、なしで……!」

「……ちょ、待って、俺めっちゃ感動してんだけど今」

「は?」

翔太はお湯から出てきて、バスタオルを肩にかけながらこっちに寄ってきた。

「いや、俺さ。
ひかりが今までどう生きてきたかとか、
元ヤンだったとか、婚活で地雷引きまくってきたとか、
そういうの、全部わかった上で付き合ってるじゃん?」

「うん」

「でも今日さ、“ちゃんと好きでいてくれてる”って、やっと実感したんだよ」

「……なにそれ」

「こんなに緊張してて、怖くて、それでも俺の前で震えてくれるって、
信じてくれてるってことじゃん?」

私は思わず、目をそらした。

「うるさいな……」

翔太は、バスタオルを私の肩にかけてくれた。

「じゃあ今日はさ、風呂入るだけにしよ。
……ふたりで、ただ湯気の中で喋ってたい」

「……はぁ?それ、超キザじゃん」

「おまえが最初に誘ったんだろが!」

ふたりで笑ったあと、
私はそっと翔太の隣に並んで湯船に足を入れた。

熱めの湯に足を沈めながら、肩を預ける。

「……でも、ありがと」

「何が?」

「待ってくれて。
笑わないでくれて。
そういうとこ、ずるいくらい、あんたのこと好きになるわ」

翔太は、湯気の向こうで、
少しだけ顔を赤くして、言った。

「……俺も、そういうとこが好きなんだよ」

部屋に戻ったあと。

私は布団にくるまりながら、ぽつりと言った。

「……でも、次はちゃんと覚悟しとけよな」

「……マジで?いつ?」

「気分と月によるわ」

「え、月!?月の満ち欠けとか?」

「違ぇよバカ!」

また笑った。

きっと、こうして
ひとつずつ、大人になっていくんだな。
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