54 / 136
第53話『二度目の襲撃』【陰謀と策謀の王都編④】
しおりを挟む
夜の帳が学園都市を包み込むと、昼の喧噪が嘘のように静まり返る。
石畳の路地は街灯に照らされて薄い影を伸ばし、家々の窓からはちらほらと灯が漏れている。
遠くの市場の方からは、まだ店じまいを急ぐ声や、酒場からの笑い声が届いてきた。
カイは寮への帰り道を歩いていた。
手には紙袋。
中身は生徒から貰った果物や、領民から届いた干し肉の差し入れだ。
「ありがたいこっちゃな。せやけど、晩飯に食べるにはちょっと重いなぁ。」
ぼやきつつも、どこか顔は緩んでいる。
教師として、誰かに感謝されるというのは、何よりの報酬だった。
しかし、路地の角を曲がった瞬間、空気が変わった。
街灯の光がひとつ、ふっと消えた。
そして足音。
規則正しく三つ。
「……やっぱりまた来よったか。」
カイは立ち止まり、紙袋をそっと地面に置いた。
石畳の向こう、黒い外套をまとった三人の影が現れる。
仮面で顔を隠し、手には光の揺らぎを宿していた。
「“カイ・クロス”。」
「異邦人。身の程を知れ。」
「お前の存在は、この国にとって害悪だ。」
冷たい声が路地に反響する。
カイは肩を回し、わざとらしくため息をついた。
「毎回思うんやけどな。自己紹介なしでいきなり人を罵るんは、礼儀としてどうなんやろな。」
「黙れ!」
一人が詠唱を始める。
空気がざわつき、魔力の粒が火花のように弾けた。
次の瞬間、三人同時に魔法陣を展開し、炎と雷と風の矢を放つ。
カイは黒板に向かう時と同じように、冷静に頭の中で数式を並べていた。
(入力三。出力ばらばら。波形を合わせて……位相をずらす。)
右手を軽く振る。
虚空に白い線が描かれ、炎と雷と風の矢は互いに干渉し合って軌道を崩す。
三本の矢は絡まり合い、弧を描いて放った本人たちの足元に落ちた。
ドンッ――!
爆ぜる音と共に、石畳が黒く焦げ、三人の外套の裾が焼け焦げる。
「なっ……!」
「馬鹿な、こちらの魔法が……」
「数式をずらしただけや。この前もやったろ?勉強不足やで。」
カイは軽く笑ってみせた。
だが、仮面の男の一人がすぐに短剣を抜いた。
刃には魔力の膜が纏われ、青白く光っている。
「異邦人、死ね!」
一直線に斬りかかってくる。
速い。
剣筋は迷いがなく、狙いは喉元。
カイは半歩だけ後ろに引き、右手を斜めに立てた。
空気の板が形成され、刃を受け止める。
その瞬間に角度を十五度回すと、力の流れが逸れて短剣は石畳に突き刺さった。
「直線は分かりやすいんや。」
だが背後からもう一人が迫っていた。
気配に気づいた瞬間、背筋が粟立つ。
振り返る間もなく――澄んだ金属音が響いた。
キィンッ!
背後からの刃を、別の剣が弾き飛ばしていた。
「カイから離れなさい!」
蒼い瞳に炎を宿したルーティアが立っていた。
細身の剣を握り、流れるような動作で二撃目を阻む。
火花が散り、仮面の男がよろめく。
「旦那様に指一本触れさせませんわ!」
「旦那様言うなー! ワイはまだ独身や!」
ツッコミは夜空に吸い込まれた。
路地の入り口に、さらに二つの影が現れた。
「そこで何をしている!」
黒い制服の裾を翻し、レオンが現れる。
その隣にはフィリア。
手には光の紋を刻んだ魔法陣を展開している。
「またもや学園の教師に刃を向けるとは……いい度胸だな。」
レオンの声は低く、しかし揺るがない。
◆◇◆
仮面の男たちは舌打ちを一つ。
足元に煙を放ち、身を翻した。
次の瞬間には、三人の影は路地から掻き消えていた。
残されたのは、焦げ跡と、熱の余韻。
カイは胸を押さえ、大きく息を吐いた。
「……あかん。心臓が三拍子になっとる。」
「カイ、大丈夫?」
ルーティアが駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫や。生徒の小テストの採点に比べたら楽なもんや。」
「それ、先生の感覚が狂ってると思うわ。」
フィリアが苦笑する。
レオンは石畳の焦げ跡を睨みつけた。
「完全に影が動いてるな……。王都の闇の一部が、ついに牙を剥いた。」
その言葉に、カイは背筋を伸ばし、改めて決意する。
(授業だけやってたいんやけどな……。ほな、これも授業の応用問題ってことで乗り切るか。)
石畳の路地は街灯に照らされて薄い影を伸ばし、家々の窓からはちらほらと灯が漏れている。
遠くの市場の方からは、まだ店じまいを急ぐ声や、酒場からの笑い声が届いてきた。
カイは寮への帰り道を歩いていた。
手には紙袋。
中身は生徒から貰った果物や、領民から届いた干し肉の差し入れだ。
「ありがたいこっちゃな。せやけど、晩飯に食べるにはちょっと重いなぁ。」
ぼやきつつも、どこか顔は緩んでいる。
教師として、誰かに感謝されるというのは、何よりの報酬だった。
しかし、路地の角を曲がった瞬間、空気が変わった。
街灯の光がひとつ、ふっと消えた。
そして足音。
規則正しく三つ。
「……やっぱりまた来よったか。」
カイは立ち止まり、紙袋をそっと地面に置いた。
石畳の向こう、黒い外套をまとった三人の影が現れる。
仮面で顔を隠し、手には光の揺らぎを宿していた。
「“カイ・クロス”。」
「異邦人。身の程を知れ。」
「お前の存在は、この国にとって害悪だ。」
冷たい声が路地に反響する。
カイは肩を回し、わざとらしくため息をついた。
「毎回思うんやけどな。自己紹介なしでいきなり人を罵るんは、礼儀としてどうなんやろな。」
「黙れ!」
一人が詠唱を始める。
空気がざわつき、魔力の粒が火花のように弾けた。
次の瞬間、三人同時に魔法陣を展開し、炎と雷と風の矢を放つ。
カイは黒板に向かう時と同じように、冷静に頭の中で数式を並べていた。
(入力三。出力ばらばら。波形を合わせて……位相をずらす。)
右手を軽く振る。
虚空に白い線が描かれ、炎と雷と風の矢は互いに干渉し合って軌道を崩す。
三本の矢は絡まり合い、弧を描いて放った本人たちの足元に落ちた。
ドンッ――!
爆ぜる音と共に、石畳が黒く焦げ、三人の外套の裾が焼け焦げる。
「なっ……!」
「馬鹿な、こちらの魔法が……」
「数式をずらしただけや。この前もやったろ?勉強不足やで。」
カイは軽く笑ってみせた。
だが、仮面の男の一人がすぐに短剣を抜いた。
刃には魔力の膜が纏われ、青白く光っている。
「異邦人、死ね!」
一直線に斬りかかってくる。
速い。
剣筋は迷いがなく、狙いは喉元。
カイは半歩だけ後ろに引き、右手を斜めに立てた。
空気の板が形成され、刃を受け止める。
その瞬間に角度を十五度回すと、力の流れが逸れて短剣は石畳に突き刺さった。
「直線は分かりやすいんや。」
だが背後からもう一人が迫っていた。
気配に気づいた瞬間、背筋が粟立つ。
振り返る間もなく――澄んだ金属音が響いた。
キィンッ!
背後からの刃を、別の剣が弾き飛ばしていた。
「カイから離れなさい!」
蒼い瞳に炎を宿したルーティアが立っていた。
細身の剣を握り、流れるような動作で二撃目を阻む。
火花が散り、仮面の男がよろめく。
「旦那様に指一本触れさせませんわ!」
「旦那様言うなー! ワイはまだ独身や!」
ツッコミは夜空に吸い込まれた。
路地の入り口に、さらに二つの影が現れた。
「そこで何をしている!」
黒い制服の裾を翻し、レオンが現れる。
その隣にはフィリア。
手には光の紋を刻んだ魔法陣を展開している。
「またもや学園の教師に刃を向けるとは……いい度胸だな。」
レオンの声は低く、しかし揺るがない。
◆◇◆
仮面の男たちは舌打ちを一つ。
足元に煙を放ち、身を翻した。
次の瞬間には、三人の影は路地から掻き消えていた。
残されたのは、焦げ跡と、熱の余韻。
カイは胸を押さえ、大きく息を吐いた。
「……あかん。心臓が三拍子になっとる。」
「カイ、大丈夫?」
ルーティアが駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫や。生徒の小テストの採点に比べたら楽なもんや。」
「それ、先生の感覚が狂ってると思うわ。」
フィリアが苦笑する。
レオンは石畳の焦げ跡を睨みつけた。
「完全に影が動いてるな……。王都の闇の一部が、ついに牙を剥いた。」
その言葉に、カイは背筋を伸ばし、改めて決意する。
(授業だけやってたいんやけどな……。ほな、これも授業の応用問題ってことで乗り切るか。)
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる