57 / 136
第56話『誘拐計画』【陰謀と策謀の王都編⑦】
しおりを挟む
夏の熱気もようやく和らいだ夕暮れ。
学園の石畳を染める光は朱に近く、寮へ戻る生徒たちの影を長く引き延ばしていた。
その裏手。
古い倉庫の陰に、仮面をつけた男たちが集まっていた。
先日の襲撃で失敗した一味。
今度は人数を倍に増やし、十人近くが集っている。
「“異邦人”を討てなかったのは痛手だが……」
「公爵令嬢を攫えば、交渉材料になる。」
「ルーティア=ロゼリア。彼女を囚えれば、カイ・クロスは動けまい。」
低い囁きは、夜の冷気に混じって漂った。
◆◇◆
その頃。
ルーティアは学園の中庭を歩いていた。
放課後の光に蒼い瞳を細め、ふと足を止める。
「……匂うわね。」
次の瞬間、木々の間から十人の仮面の男たちが飛び出した。
短剣と魔法を構え、取り囲む。
「ルーティア=ロゼリア! 静かに来てもらおう!」
「動けば傷を負うぞ!」
だがルーティアの表情は、まるで退屈そうだった。
「ふふ……随分な人数を連れてきたものね。け・れ・ど」
彼女は細剣を抜いた。
光が刃に反射し、夕焼けと混じって赤い輝きを放つ。
「あなたたちごときでは、私を止められませんわ!」
次の瞬間。
ルーティアの剣が閃き、二人の仮面の男が吹き飛んだ。
地面に転がる剣と、焦げた外套。
「なっ……速すぎる!」
「これが公爵令嬢の力……!」
さらに三人が同時に魔法を放つ。
炎と雷と氷の矢が、嵐のように襲いかかる。
「邪魔。」
ルーティアが片手を翳すと、炎が炎を呑み込み、雷は空に散り、氷は溶けて水滴になった。
彼女の瞳は冷酷に光っていた。
「あなたたちが剣を向けてきたのです。ならば、自分の仲間の返り血を浴びる覚悟はできているのでしょう?」
仮面の男たちが後ずさる。
しかしルーティアの足は止まらない。
剣先が彼らの喉元を次々に突き、寸前で止まる。
止めを刺すこともできた。
だが彼女は容赦なくさらに魔力を練り上げていた。
「それもあなたたちが撒いた種だから、仕方ないわね。」
蒼い炎が彼女の周囲を渦巻き始める。
それは“究極炎魔法《インフェルノ・ノヴァ》”。
触れたものすべてを灰に変える、禁忌に近い炎。
仮面の男たちは蒼白になり、逃げることもできずに立ち尽くした。
――その瞬間。
「待て!」
声と同時に、ルーティアの周囲に透明な光の壁が広がった。
まるで見えない球体の中に全員が閉じ込められたかのように、炎の奔流が押し止められる。
ルーティアの背後に立つのは、カイだった。
片手を掲げ、淡々と数式を紡ぐ。
「絶対防御《アブソリュート・シールド》。……ワイの生徒や領民でもない奴らやけど、焼き尽くすんはちょっとな。」
「カイ……!」
ルーティアが振り返る。
その瞳に怒りと戸惑いが入り混じっていた。
「こいつらはあなたを狙ったのよ! 容赦する必要なんて――」
「ある。容赦するんは、ワイが教師やからや。」
カイの声は静かだった。
炎は見えない防御壁に吸い込まれ、やがて霧のように消えていく。
仮面の男たちは膝をつき、震えながらも生き残ったことに安堵していた。
そして、互いに視線を交わす。
「俺たちは……今、助けられたのか?」
「敵であるはずの“カイ・クロス”に……」
「我らの命令は……本当に正しいのか……?」
疑念が芽生え、炎よりも強く彼らの胸を灼いた。
「行け。」
カイが短く言った。
「今度は宿題忘れんなよ。次は答え合わせをさせてもらうで。」
仮面の男たちは混乱しつつも、煙幕を放って姿を消した。
残されたのは焦げ跡と、熱の残滓だけだった。
ルーティアは剣を握り締めたまま、肩で息をしていた。
瞳にはまだ怒りの炎が残っている。
「……なぜ止めたの。あの人たちは、確かに私を狙ったのよ。」
「せやな。」
カイは微笑を浮かべた。
「けどな。ワイは人を育てる仕事してんねん。敵やろうが、学びの余地がある奴は、まだ燃やしたらあかん。」
ルーティアはしばし黙り込み、やがて小さく息を吐いた。
「……本当に、あなたはずるいわね。」
そして、彼の腕にぴたりと絡みついた。
「でも、そんなあなたが――やっぱり好き。」
夕焼けの空に、二人の影が長く重なった。
学園の石畳を染める光は朱に近く、寮へ戻る生徒たちの影を長く引き延ばしていた。
その裏手。
古い倉庫の陰に、仮面をつけた男たちが集まっていた。
先日の襲撃で失敗した一味。
今度は人数を倍に増やし、十人近くが集っている。
「“異邦人”を討てなかったのは痛手だが……」
「公爵令嬢を攫えば、交渉材料になる。」
「ルーティア=ロゼリア。彼女を囚えれば、カイ・クロスは動けまい。」
低い囁きは、夜の冷気に混じって漂った。
◆◇◆
その頃。
ルーティアは学園の中庭を歩いていた。
放課後の光に蒼い瞳を細め、ふと足を止める。
「……匂うわね。」
次の瞬間、木々の間から十人の仮面の男たちが飛び出した。
短剣と魔法を構え、取り囲む。
「ルーティア=ロゼリア! 静かに来てもらおう!」
「動けば傷を負うぞ!」
だがルーティアの表情は、まるで退屈そうだった。
「ふふ……随分な人数を連れてきたものね。け・れ・ど」
彼女は細剣を抜いた。
光が刃に反射し、夕焼けと混じって赤い輝きを放つ。
「あなたたちごときでは、私を止められませんわ!」
次の瞬間。
ルーティアの剣が閃き、二人の仮面の男が吹き飛んだ。
地面に転がる剣と、焦げた外套。
「なっ……速すぎる!」
「これが公爵令嬢の力……!」
さらに三人が同時に魔法を放つ。
炎と雷と氷の矢が、嵐のように襲いかかる。
「邪魔。」
ルーティアが片手を翳すと、炎が炎を呑み込み、雷は空に散り、氷は溶けて水滴になった。
彼女の瞳は冷酷に光っていた。
「あなたたちが剣を向けてきたのです。ならば、自分の仲間の返り血を浴びる覚悟はできているのでしょう?」
仮面の男たちが後ずさる。
しかしルーティアの足は止まらない。
剣先が彼らの喉元を次々に突き、寸前で止まる。
止めを刺すこともできた。
だが彼女は容赦なくさらに魔力を練り上げていた。
「それもあなたたちが撒いた種だから、仕方ないわね。」
蒼い炎が彼女の周囲を渦巻き始める。
それは“究極炎魔法《インフェルノ・ノヴァ》”。
触れたものすべてを灰に変える、禁忌に近い炎。
仮面の男たちは蒼白になり、逃げることもできずに立ち尽くした。
――その瞬間。
「待て!」
声と同時に、ルーティアの周囲に透明な光の壁が広がった。
まるで見えない球体の中に全員が閉じ込められたかのように、炎の奔流が押し止められる。
ルーティアの背後に立つのは、カイだった。
片手を掲げ、淡々と数式を紡ぐ。
「絶対防御《アブソリュート・シールド》。……ワイの生徒や領民でもない奴らやけど、焼き尽くすんはちょっとな。」
「カイ……!」
ルーティアが振り返る。
その瞳に怒りと戸惑いが入り混じっていた。
「こいつらはあなたを狙ったのよ! 容赦する必要なんて――」
「ある。容赦するんは、ワイが教師やからや。」
カイの声は静かだった。
炎は見えない防御壁に吸い込まれ、やがて霧のように消えていく。
仮面の男たちは膝をつき、震えながらも生き残ったことに安堵していた。
そして、互いに視線を交わす。
「俺たちは……今、助けられたのか?」
「敵であるはずの“カイ・クロス”に……」
「我らの命令は……本当に正しいのか……?」
疑念が芽生え、炎よりも強く彼らの胸を灼いた。
「行け。」
カイが短く言った。
「今度は宿題忘れんなよ。次は答え合わせをさせてもらうで。」
仮面の男たちは混乱しつつも、煙幕を放って姿を消した。
残されたのは焦げ跡と、熱の残滓だけだった。
ルーティアは剣を握り締めたまま、肩で息をしていた。
瞳にはまだ怒りの炎が残っている。
「……なぜ止めたの。あの人たちは、確かに私を狙ったのよ。」
「せやな。」
カイは微笑を浮かべた。
「けどな。ワイは人を育てる仕事してんねん。敵やろうが、学びの余地がある奴は、まだ燃やしたらあかん。」
ルーティアはしばし黙り込み、やがて小さく息を吐いた。
「……本当に、あなたはずるいわね。」
そして、彼の腕にぴたりと絡みついた。
「でも、そんなあなたが――やっぱり好き。」
夕焼けの空に、二人の影が長く重なった。
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる