三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

5 試験のあと 才能の片鱗

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 喜び去って行くシフィルの後ろ姿を見ながら、ファルス長老は見抜いていた。シフィルの恐ろしいほどの才能を。

 火の原石の赤い光に包まれて火の一族の能力を覚醒させるのは、父親の役目である。

 これは代々引き継がれていくことであるが、父親が子供の成長具合を見定め、その資格があるというときに覚醒させる。

 覚醒は12歳の誕生日から、1年かけてそれを導いていき、その集大成として、13歳の誕生日にファルス長老の試験を受けるのが真の姿である。

 父親のいないシフィルがこの試験を合格することはあり得なかった。

 父親がいない場合は、ファルス長老がその代わりを務めることになっているが、数年覚醒を遅らすのが習わしである。

 だから、今回、そのきっかけを与えることは、ファルス長老のシナリオ通りではあった。

 ここから、1年かけて、徐々に覚醒させていくつもりだった。

 理解が困難なのは、シフィルは、普通の者であれば段階的に覚えるはずの火の原石から赤い光を発し、炎を生み出し、それを操るということを自然に、そして即座に行い、且つその火力も操作力も長い経験、修行をつまなければたどり着けないレベルのものであったことである。

 もし、割れる前の火の原石を使いこなしたとしたら、シフィルはこの部屋の結界を崩壊させてしまうほどのちからがあるのではないか。
 ファルス長老の握り締めた手にはじわっと汗が流れていた。

 そして、シフィルが去っていくその後ろ姿を見て、大きな疑問が生まれていた。

 炎と赤い光がシフィルに吸い込まれていき、この部屋が暗闇に覆われたこと。

 火の原石は炎を発することがあっても、それを体内に吸収するというのはあり得ない。ファルス長老自身も初めての経験である。

 これは覚醒とは別な現象。

 この試験は、シフィルにとって大きな成長であったとともに、ファルス長老にとっても疑問と謎を残すものだったのである。

 扉に寄りかかり、ウトウトと眠りかけていたもんちきは、急に開いた扉にからだをびくっと震わせ、素早く逃げるように前に進み出た。

 部屋を出て、うれしそうに両方の拳にちからを込めてはしゃぐシフィルを見て、もんちきにも、合格したと直ぐにわかった。

 ぴょーんとジャンプしてシフィルに摑まると、いつもの定位置に戻る。

「シフィル合格したか?」

 肩でうれしそうに話しかけるもんちきが長いシッポをくるくると動かして、シフィルの頬を撫でる。

「ああ。当然。」

 人差し指で、もんちきのしっぽをつんつんとつついて、首元を撫でると、もんちきは声を上げて喜んだ。
 いつのまにか太陽が真上に到達している。

 シフィルが試験を受けているあいだに、雨が降ったのか周囲が濡れている。

 木々に付着した雨露が太陽の光を浴びてきらきらと眩しく輝き、シフィルの合格を祝福しているようだ。

 両手を広げて、大きく全身を伸ばすと、改めて太陽が明るく感じられた。

 暗い部屋からのあまりの明暗の違いに目を思いっきりつぶり、目を開いて再度周りを見渡すと、いつもの風景が、いつもとは違って見えた。

 試験を合格したら大人として扱われる。
 一人前と扱われる。
 村の外へ行くのも自由である。
 世界が広くなったような気がした。

「その表情は無事受かったみたいだな。やっとか。」

 試験の帰り、シフィルの友人であり、同い年のルタが待ち伏せていた。

 ルタ:男性 黒に近い赤髪。シフィルと同じ年で昔からの友達。力強いたくましい体型、賢いし運動神経もいい。

 ルタは堅い皮の服を身に纏い、腰には鋼鉄でできた短剣を下げて、戦闘にでも出るような身なりをしている。

 ルタは13歳で試験を過去最高に近い得点で一回でパスしており、将来を有望視されている。
 村の中では、儀式的な試験を合格できないシフィルを出来損ないと見る人も正直少なくはない。
 場合によっては、付き合いを拒む人もいることも事実であった。

 年下にも試験合格を抜かれて、陰で馬鹿にされていたのはシフィル本人も認識をしていた。
 それでも試験に落ち続けたシフィルと何も変わらずに仲良くしてくれていたのがルタだった。

「ああ、余裕だったよ。」

 シフィルが笑う。それにあわせてもんちきも照れる仕草をすると、シフィルの頬をペチペチと叩いた。

「だろうな!」

 ルタがシフィルの背中をバンっと強く叩くとお互い笑い声を上げた。

「もう一つの大人の儀式だ!今日は狩りがある。ついてこい。」

 自給自足の村である。田畑での栽培や川での漁とともに、定期的な狩りは大人の男の重要な仕事であり、2~3日に一回の割合で実施される。
 シフィルは今まで当然ながら、狩りには参加したことが無く、村の外にすら出たことが無い。
当然怖さもあったが、それよりも興味が勝っていた。

「準備してくる。村の入り口に集合だったよな!」

 ルタがうなずくのを確認すると、シフィルがニコっと大きく笑って手を挙げて別れを告げ、一目散に自宅へと走り出した。

 肩ではもんちきが振り落とされないように必死につかまっている。
 その喜びながら走るシフィルの様子は、試験を合格したと村中に伝えるには十分であった。




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