三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ

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第一章 セイシュの民が翔ける黎明の空

73 ライラ村のライラ

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 リヴィエラはライラの村に入るとすぐに馬を下りて、ぐったりするサチを砂漠馬の上に固定したまま手綱を引き、迷うことなくドンドンと進み、ライラの中心にある村長の家の門を叩いた。

 ライラの建屋はすべて木造であるが、その中でも他とは比較できないほど大きく立派なお屋敷である。
 古い木々の柱は黒ずんでいるが、とても太く頑丈な造りであり、扉が解放されて屋内が確認できる。

 リヴィエラが近づくと、その付近で警備をしていた兵士2名が、すーっと走り近づいてきた。

「治療は予約制である。今日の分は既に打ち切っている。明日来るがよい。」

「ライラ殿に用がある。レグランドフィアのリヴィエラが参ったと伝えて欲しい。」

 警備兵が馬上のサチに気付くと、うなずいて屋敷の中に入ろうとした時、入れ替わるように中から背の高い色白の若い男が現れた。

 白い布を纏った線の細い男は、リヴィエラに気付くと深く礼をして、ゆっくりと進み出る。

「リヴィエラ殿、急にどうされた?用が有ればこちらから参りますのに。」

「ライラ殿、お力をお借りしたい。」

 護衛兵が急いで門を開けると、同時に馬からサチを下ろし、事情を説明した。

 直ぐにサチの手首を手に取り眺めると、曇った顔をする。

「急ぎましょう。」

 屋敷の中にサチを運び込むと、ライラが周囲の者達に指示をして医療機器や薬を準備させる。

 サチの意識は既に無く、顔は蒼白で唇も青くなっていた。ぴくりとも動かない。

「リザを連れてきてくれ。急いで。」

 ライラは隣にいた子供に指示をすると、その横にいた老人がすりつぶした薬草で作った解毒剤をサチの傷口に厚く塗りたくった。

 そして鋭いナイフで細かく擦るように丁寧に左手首の毒を取り除く。

「状況はどうだ?」

 心配そうにサチの顔を覗き込むもんちきの問いかけに、ライラは一瞬びっくりした表情を作ったが、直ぐに落ち着いて答えた。

「我々の医学では無理です。助かりません。」

 ぶっきらぼうに答えるライラ。息を飲んで心配そうに見つめるもんちき。リヴィエラもジッとサチを見つめている。

「リザ、入ります。」

 そこには、身長の高い女性、ライラと同じ白い布の服を纏った女性が、手に医療器具や何か布に覆われた物を携えて立っていた。

 腰まで伸びた美しい金色の髪、その場の雰囲気が急に張り詰める。どこか、神秘的な緊張感。

「左手首、毒蠍の尾の毒2箇所。」

「はい。」

 リザがその場に座ると、横たわるサチの左手首をじっと見つめて、小さく二度うなずいた。

 それにうなずいて応えたライラは、リヴィエラとサチ以外の者に、この場から出ていくよう指示を出した。
 かろうじて、もんちきはリヴィエラが中にいるように指示をだしてくれたため、追い出されなかったが。

 周りの者達が去ったのを確認すると、サチの両側に、左右で挟む様にライラとリザが座る。

「頼む。」

「はい。」

 ライラがサチの左手首を握り傷口を上方に向けて固定する。

 リザは持っていた布を丁寧に開いて白く輝く石を出した。その場に原石独特の気配がふわぁっと広がる。

 そしてその白く輝く石をサチの傷口に近づけて、ちからを込めると、原石から発せられた光が一瞬その空間でとどまり、直ぐにサチの左手首へと吸い込まれていく。

 それから徐々に光がサチの左手首を包み込むと、その状態を保ち続ける。
 

 どのくらい続いただろうか。

 全員無言のまま、時間が経ち、周囲が暗くなり始めた頃、サチの顔色に赤みが増してきた。唇の色も良くなってきた。

「もう大丈夫だと思います。」

 額に汗をにじませたリザが大きく息を吐いて笑った。

 もんちきはその言葉を聞いてすっと胸をなで下ろし、サチの温かくなった頬に触れ、ペチペチ軽くたたいた。

 ライラは疲れが見えるリザに下がるように告げると、サチの左手首に再び薬草を塗りつけて包帯を巻いた。

 リザは、小さく息を吐き笑顔を作って一礼すると、部屋を出ていった。



「彼女が光の民なのか?」

 ライラへのもんちきの問いかけに、リヴィエラが無言でうなずいて答えた。

「私の家系と、この村の一部の者が光の一族の血を引いています。でも、リザが最も良く光の原石を使いこなしますね。医学の知識も豊富ですし。あ、めずらしい、サブヒュムの猿さんですね。」

 ライラはもんちきと握手をするように、小さい手を握った。もんちきも笑って握手をして、サチの治療の感謝をする。

「突然だが、光の原石とリザのちからを借りたい。」

 サチの顔を触り、暖かくなってきたのを確認したリヴィエラが切り出すと、その隣でもんちきの顔が曇る。

「結界の崩壊と何か関係があるのですかな?」

 ライラが様子を探るように答える。

「ああ。素直に話そう。もんちきも良く聞いてくれ。それにリザも呼んで欲しい。」

 もんちきの顔が強ばる。そしてリザが再び現れるのを待ってリヴィエラは話し始めた。

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