炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ

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45 散る

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 赤い石がボワッと小さく輝いた。

「なにをしてるの?」

 ミクシアよりも小さな手が、その小型の弾丸をぎゅっと握る。

「おい、お前どうした。なぜここにいる!」

 レンが水面すれすれの高さで浮遊すると、ディアルトは弾丸を奪い取り、ゆっくりと金属の箱に乗り移る。

「エクシアを僕は助けられなかった。僕は逃げたんだ。ずっと後悔してた。」

「そうか。」

「僕に力があったら、エクシアを救えたのに。」

「なに、世の中そんな上手くはいかないさ。俺だって思い通りにいかないことの方が多い。」

「今のミクシアは、あの時のエクシアと同じ顔をしてる。放っておけないんだ!」

「悪いが、今のお前じゃどうにもできない。早くここを離れろ。本当に邪魔なんだ!」

 ミクシアが叫ぶと同時に、ディアルトの肩を叩き突き飛ばす。

「ララに言われたんだ。ミクシアが一人で全部終わらせようとしてるって。助けて欲しいって。」

「だったら戻ってララを助けてやれ。あいつは将来、チャクミの作業場の頭になる女だ。まだ時間はかかるだろうが、そのときは隣にいてやれ。」

「ミクシアがいればいいじゃんか!」

「そうもいかないんだよ。」

「なんでだよ!!」

「もう時間がないんだ!頼む、言うことを聞いてくれ!ここは俺がなんとかする!」

「絶対嫌だ!」

 ディアルトの身体に薄い炎がまとわりつく。
 それに応じるように火の原石が、一層眩しく輝き、水の青を押し退ける。

 人の姿でありながら、その背後に赤い誰かが重なって見えた。

 ディアルトが弾丸を両手で握りしめると、一瞬炎を大きく集め、一点に集中させ焼き尽くす。
 火薬が爆発する衝撃を、炎がすべて押し止めた。

「ほら、ララの言ったとおりだ。この小さな爆弾で原石を爆破しようとしたんだ。ミクシアごとね。」

 ディアルトの声が、知らない誰かと重なる。

「…お前。」

「火と水は均等な質量で混ざれば最大の威力を放つ。故に、火の力を過剰に与えて均衡を崩せば、破壊力は低下するだろう、というのが理論的な考察だ。」

 完全に誰か別の声。

 ディアルトは無表情で目を大きく見開き、動きを止めている。抜け殻のように。
 火の原石から溢れる赤い光が共鳴し、レンの深紅の身体はさらに眩く輝いた。

 異様な現象に、ミクシアは純粋に恐れた。

「お前はディアルトなのか?」

「なに、ただの戯れよ。アイラの民を通じ、力を貸そう。」

 ぎこちない動きのまま、ディアルトの両手に深紅の炎が灯る。
 右手で火の原石、左手で水の原石を握り込む。

「ふむ、この水の原石、なにか特殊な力が施されておるな。ここからでは力が届かん。」

「というと?」

「すまぬ、駄目だ。」

「なんなんだそれは。」

 ディアルトの身体を覆っていた炎が徐々に剝がれ落ちる。

「なんてな。水などに邪魔されてたまるか。これでどうだ。」

 剝がれた炎が逆にディアルトの両手へと収束する。

 炎の勢いのまま、二つの原石をもぎ取った。

「おい、爆発するんじゃないのか!」

 ミクシアが身を引き、身構える。

「原石は原石の力で抑制するしかない。でもなんだ、これは私のちからが遮られる……何かに干渉されている!!」

 再びディアルトは両手を原石に重ね、炎で包み込む。
 赤と青の力を衝突させぬよう、必死に押さえ込む。

「ディアルト!頼む、頑張ってくれ!!!」

 ミクシアが祈るように両手を組む。

 レンが一度強く羽ばたき、上空へ舞い上がると、向きを変えてディアルトの真正面に降り立つ。
 ディアルトの手中では、炎に逆らって赤と青が蠢き、膨張を始めている。

「駄目だ……これでは力が全然足りない。水のちからが抑えきれない!!」

 ディアルトの指が開き、危険な光が漏れ始めた。

「僕も。一緒に頑張る!」

 レンが大きく翼を広げ、全身に力を込める。
 何度も強く羽ばたきながら、ディアルトと原石を深紅の翼で包み、青い光を遮断する。

 短い膠着。

 レンの体が硬く閉ざされ、赤い光が増していく。

「ミクシア、お願いだ!」

「おう。」

「翼を開くから、ディアルトを掴んで伏せて。」

「ん?」

「もう抑えられない!」

「おい!」

 赤い光の圧が増し、レンの身体が膨張する。

「大丈夫か!」

「ディアルトを頼んだよ。」

「おい!!!」

「友達なんだ。大切な。世界で一番、大切な。」

 レンは翼を広げ、無意識状態のディアルトを金属の箱へと放り込むと、最後の力で上空へ舞い上がる。

 赤と青の光柱が海面から一気に空へ移動する。

 レンは火と水の原石を両足の爪で掴み、握り潰そうと力を込める。

 
 だが、変化はない。


 ミクシアも、意識を戻したディアルトも、金属の箱にへばりつき、ただ上空を見上げるしかない。

 赤と青の光はさらに強くなり、昼間の太陽にも匹敵する輝き。
 そして二色が混ざり始めた。

 さらに、さらに、光は増す。
 世界が白く塗り潰される。

 その瞬間、レンは力を抜き、深紅の翼でさらに上空へ。

 視認できない高さへと昇っていく。

 光が海面から離れ、再び闇が戻る。

 
 夜の静寂。


 そして


 破裂。

 
 世界が裂けたかのような爆音と轟き。
 青と赤の光が溢れ、混ざり合い、暴走する。

「レェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」

 すべてを悟ったディアルトが絶叫する。
 ミクシアはディアルトを抱き寄せ、伏せる。

 不安定な空。
 局所的な赤と青の稲光。
 凝縮。

 そして、再びの爆発。

 海面を押し潰す衝撃。

 闇。

 音のない闇。

 金属の箱の中、何も見えない。

 ただ、沈黙。



 夜が明ける。
 本当の太陽が、何事もなかったように昇った。
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