転移魔法は最強の攻撃魔法である!!

yomuyomu

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第6部:剣士の涙と贖罪の太刀

第五十七話:贖罪の終わりと、『今』を生きる剣

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水のように受け流す玄の太刀。 炎のように燃え盛る朱鷺の剣。 二つの、全く異なる理(ことわり)を持つ刃が、影山という一点で交錯した。

心を空にした朱鷺の剣は、もはや妖刀『慟哭』の糧となる憎しみを生まない。それはただ純粋な「技」として、影山の妖刀の動きを完璧に封じ込める。呪われた力の源泉を断たれ、影山の動きが一瞬、確かに鈍った。 その刹那を見逃さず、玄の剣が、まるで必然であるかのように、影山の鎧のわずかな隙間、心臓部へと深々と吸い込まれていった。

「……がっ……!?」

影山は、信じられないという表情で、自らの胸を貫く刀身を見つめた。口から、ごぼりと赤黒い血塊が溢れ出す。膝が折れ、その場に崩れ落ちる。妖刀『慟哭』が、主の手から滑り落ち、カラン、と乾いた、しかし森の静寂の中ではやけに大きく響く金属音を立てた。 刀身から放たれていた禍々しい瘴気は、まるで霧が晴れるように急速に消え失せ、そこには、ただ血を流し、苦痛に顔を歪める中年男の姿だけが残されていた。十五年間、玄と朱鷺を縛り続けた『亡霊』の、あまりに呆気ない実像だった。

玄は、倒れた影山を見下ろし、静かに問うた。その声には、もはや憎しみも、怒りもなかった。ただ、一つの真実を知りたいという、静かな響きだけがあった。 「なぜ、あんなことをした。ジルベスタの民を虐殺し、小夜を殺し……そして、なぜ時雨に付いた」

影山は、途切れ途切れの呼吸の中で、自嘲するように、歪んだ笑みを浮かべた。 「なぜだと?……俺も、お前と同じよ。国に仕え、正義を信じて……汚い仕事も、やった。その果てに、何が残った?……使い捨てだ。あの『紅い夜』で、俺も、信じていた部下も、全てを失った。国に、裏切られたのよ」 彼の瞳が、遠い過去を見つめる。そこには、確かに、かつて信じた正義への絶望があった。 「そんな時……時雨様だけが、俺のような『負け犬』を拾ってくださった……。この腐った国を壊すという、新たな『正義』を、与えてくださったのだ……。だから俺は……」 言葉は、そこで途切れた。

影山もまた、玄と同じだったのだ。 信じていたものに裏切られ、全てを失い、絶望の淵に立たされた。ただ、その絶望の中で、玄が過去への逃避を選んだのに対し、影山は時雨への忠誠という新たな執着を見つけ、その道を突き進んだ。選んだ道が違っただけで、根は同じ、この『ままならない』世界が生み出した、哀れな犠牲者の一人に過ぎなかったのかもしれない。

玄の内面(モノログ): (そうか……。こいつも、俺と同じだったのか。ただ、選んだ道が、違っただけで……)

込み上げてきたのは、憎しみではなかった。深い憐れみと、そして、自らの過去との完全な決別だった。 彼は、もはや動かなくなった影山の目元に、そっと手を伸ばし、その瞼を静かに閉じさせた。十五年に及んだ復讐の連鎖は、今、ここで終わった。

玄は、ゆっくりと天を仰いだ。 瘴気の切れ間から、森の奥深くには届くはずのない、微かな陽の光が差し込んでいるように感じた。 脳裏に、許嫁だった小夜の、最期の笑顔が鮮やかに蘇る。 しかし、それはもう、彼を苛む悪夢ではなかった。温かく、切なく、そして感謝すべき、大切な「過去の記憶」へと変わっていた。

玄(小さく呟く): 「小夜……。俺、やっと、前を向いて歩けそうだぜ」

彼は、貫かれた胸を押さえながらも、心配そうに見守っていた朱鷺と宗一郎に向き直る。 その顔には、いつもの人を食ったような軽薄さも、過去の亡霊に怯える卑屈さもない。 そこにあったのは、全てを受け入れ、乗り越えた男だけが持つ、穏やかで、力強く、そして少しだけ照れくさそうな、本物の笑顔だった。

「さあ、行こうぜ。姫様を待たせてる」

その言葉は、彼が過去の贖罪から完全に解放され、「今」を生きる剣士として真に再生したことを、何よりも雄弁に物語っていた。
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