転移魔法は最強の攻撃魔法である!!

yomuyomu

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第6部:剣士の涙と贖罪の太刀

第五十六話:決着、二対一の死闘

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玄の「本気、出すぜ」という静かな宣言は、瘴気が渦巻く回廊に、奇妙なほどはっきりと響き渡った。 それは十五年という長きにわたる過去との決別であり、今、隣に立つ仲間と共に未来を掴むための、魂からの咆哮だった。

次の瞬間、玄の姿が掻き消えた。いや、消えたのではない。影山が妖刀を振りかぶるよりも速く、その懐にするりと滑り込んでいた。 その動きは、かつての激情に任せた直線的なものではなかった。まるで流れる水のように、力みがなく、淀みがない。肩口を狙った影山の斬撃を、最小限の体捌きでいなし、同時に懐剣のように抜き放った脇差が、影山の鎧の隙間、脇腹へと吸い込まれるように伸びる。

影山は舌打ちし、妖刀の腹で脇差を弾く。「速いが、軽いな!」 弾かれた玄は、無理に体勢を立て直そうとはしない。攻撃を受け流されたその力を利用し、水面を跳ねる石のように後方へ飛び退き、朱鷺との距離を取る。 入れ替わるように、朱鷺が動いた。彼女の剣は、玄とは対照的だった。研ぎ澄まされた憎悪、弟を奪われたあの夜の怒り。その全てが、一点の曇りもない殺意の炎となり、神速の斬撃となって影山に襲いかかる。

「それだ! それがいい!」 影山は、狂喜にも似た表情で朱鷺の猛攻を受け止める。朱鷺の憎しみが強ければ強いほど、彼女の剣が鋭ければ鋭いほど、影山の持つ妖刀『慟哭(どうこく)』は、その刀身に宿る瘴気を禍々しく増していく。 妖刀『慟哭』。それは、斬りつけた相手の恐怖や憎悪といった負の感情を喰らい、それを自らの力へと変える呪われた刀だった。復讐のためだけに生きてきた天下一の剣士は、皮肉にも、その存在自体が敵にとって最高の糧となっていた。

「どうした、天下一! その程度か! お前の弟は、もっといい悲鳴を上げたぞ!」 「黙れッ!」 挑発に乗った朱鷺の剣筋が、わずかに乱れる。影山はその一瞬の隙を見逃さない。妖刀が朱鷺の剣を絡め取るように弾き飛ばし、がら空きになった彼女の胸元へと、必殺の一撃を突き立てる。

「姐さん!」 宗一郎の悲鳴が響く。 だが、その刃が朱鷺の絹の着物を裂く寸前、影山の前に、再び玄が立ちはだかっていた。 玄は、迫りくる妖刀を、正面から受け止めようとはしなかった。ただ、静かに、まるでそこに最初からあったかのように、自らの太刀を妖刀の軌道上に差し入れる。 キィンッ! 甲高い金属音が響き、火花が散る。しかし、それだけだった。 妖刀は、玄の太刀に触れた瞬間、その禍々しい輝きを明らかに鈍らせ、まるで粘つく泥濘にはまったかのように、その動きを止めたのだ。

影山の顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。「なっ!? 貴様! なぜだ!? なぜ『慟哭』がお前の力を喰らえん!?」 妖刀は、持ち主の意図を正確に読み取り、相手の心の闇に呼応する。しかし、今の玄の心には、恐怖も、憎悪もなかった。ただ、静かな湖面のように凪いでいた。そこにあるのは、目の前の仲間を守るという、ただ一点の曇りもない「今、ここ」の意志だけ。 それは、仏教で言うところの「正念」、過去にも未来にも囚われず、ただ現在の瞬間に意識を集中させる境地。そして、鉄斎との稽古で宗一郎が掴みかけた「心の目」にも通じる、相手の感情ではなく、その動きの「理」だけを読む力。

玄の内面(モノログ): (憎しみじゃねえ。恐怖でもねえ。俺は、ただ、こいつを守る。それだけだ!)

「ああ。もう、やめたんでな」 玄は静かに呟くと、足元に落ちていた朱鷺の剣を、つま先で器用に蹴り上げる。朱鷺はその剣を空中で掴み取り、再び構える。 「朱鷺! 奴の力の源は『心』だ! 心を空にしろ! 考えるな! ただ、斬る!」 「……!」

朱鷺は一瞬躊躇(ためら)う。憎しみを捨てろと? この男を前に? だが、隣に立つ玄の、迷いのない横顔と、自分をまっすぐに信じる瞳。そして、後方で息を詰めて見守る宗一郎と陽菜の気配。 (そうか。私は、もう一人じゃない) 彼女は、深く、深く息を吸い込み、そして、吐き出した。 憎しみの炎が消えるわけではない。だが、今はそれを燃え上がらせる時ではない。天下一として培ってきた、ただ純粋な「技」として、目の前の敵を捉える。

影山は、二人の気配の変化に、本能的な危機感を覚えていた。「小賢しい真似を!」 再び妖刀が唸りを上げ、二人同時に襲いかかる。 だが、今度の二人は、もう十五年前の絶望に囚われた亡霊ではなかった。 玄の太刀が、流れる水のように影山の妖刀を受け流し、捌き、わずかな隙を作り出す。 朱鷺の剣が、燃え盛る炎のように、しかし憎しみではなく純粋な技として、その隙へと正確に、神速で突き込まれる。 水と炎。 静と動。 過去を乗り越えた二人の剣士が、初めて真の意味で一つとなり、放たれた反撃の同時攻撃。 それは、十五年の長きにわたった悪夢に終止符を打つための、決着の一閃だった。
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