公爵様が信じるのは奴隷だけ

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今にも蹴り上げる瞬間だった商人はその身体の動きを止め、声を放った主のイザベルを見る。

ローブを深くかぶっているため、顔は見えないが声質から若い女性であることは分かったようだ。

こちらを見くびったような視線を向けてくるが、イザベルが金貨を差し出すと急に顔色を変える。

急に機嫌を取るような商人の態度にイザベルはさらにローブの下の顔に不快さが現れる。


打たれていた子供は特に動くことはなく、四つん這いのままだった。


商人はイザベルの気が変わることのない様すぐに契約書を持ち、奴隷紋の話を持ち掛けてくるが、イザベルはこのような商人がきちんと制約を交わせるのか不安に思った。


その時だ。


「…ご主人様。奴隷の売買は国から認可を受けた商人しかできないものです。奴隷紋が首に浮かび上がれば、問題なく制約は結ばれます」

リアムがイザベルにしか聞こえない声で囁く。


リアムが幼い時から生きてきた環境故のこの知識は特殊ではあるが、奴隷の知識がないイザベルにとっては重宝するものだった。

リアムの言葉に軽く頷きを見せ、イザベルは商人に向かって語り掛ける。

「奴隷紋の制約は、"私に逆らわない、私を傷つけない、私に嘘をつかない、自死を禁ずる"。この内容だ」

イザベルは契約書の上に血を垂らした。


すると、四つん這いのままの子供の首筋には奴隷紋が浮かび上がった。


謝意を述べ、わざとらしく機嫌を取ってくる商人にイザベルは踵を返す。


「…リアム、大丈夫か？」

リアムはイザベルの言葉に頷き、子供の奴隷に肩を貸す。

そしてイザベルの後に続き、自力で足を踏み出す力のない子供を半ば引きずるような形で人混みの中を抜けていった。







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主人の向かった先の人だかりを見つめるルディは、その人だかりから抜け出たイザベルと、子供を連れるリアムの姿を見て、すぐに長髪の男にリアムの抱える子供を運ぶように促した。

長髪の男は同意の言葉を返すことはなかったが、双子に荷物を預け、リアムの元へと駆け寄り子供を受け取る。


背に抱えた子供の身体はあまりに軽かった。
男につかまる力もないのか、ほぼ子供はされるがまま動かない

しかし、小さく呼吸する音、それだけは耳元から聞こえてきた。





「リアム、そしてお前。4名分の服を調達してきてくれ」


戻ってきたイザベルはリアムと、荷を持っていない双子の片方にそう指示した。


「ご主人様、承知いたしました」

リアムはすぐに同意し、共に向かう双子の片割れと視線を合わせる。
そして、何も言わずに足を進めた。

双子はお互い目を見合わせ、少しの間見つめ合っていたが、そちらも言葉なくお互いに頷きあい、命を受けた片割れはリアムの後に続いていった。