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しおりを挟むラウルは驚愕していた。
自身が馬車を向かわせていたのは30分はかからない時間だったと思う。
主人と同じ奴隷たちが待つ場所へと馬車をつけると、1人初めて見る顔、それもひどく弱った子供が奴隷仲間に背負われていた。
「先ほど新たに買った奴隷だ」
そう主人は言葉数少なく言っていたが、子供を見るとひどく痩せていて劣悪な環境にいただろうということがすぐに理解できた。
ルディから子供の奴隷の買った経緯について簡単に聞いていたところに、ちょうどリアムと新しい双子の奴隷の片方が荷を抱えて戻ってきた。
特に自身では何も言わずに、馬車の中で座って待つ主人。
何でもないこと
イザベルにとっては決して子供の奴隷を助けるためにそう行動したのではない
しかし、奴隷たちがそれを見て何を思うかはそれぞれの感じ方次第だ
ラウルにとっては、何も言わない主人のその姿が気高く思えて堪らなかった
――――――――――――――――――――――――
馬車を走らせ、ようやく屋敷にイザベルは戻ってきた。
商館で奴隷を買うだけのはずが、なぜかひどく時間がかかった気がした。
「ひとまず、部屋へ向かう」
ルディは食材の保管、ラウルは馬車をしまうため、2人以外はイザベルのを後に続いた。
階段を上り、かつて使用人たちが利用していた部屋が集まるフロアへと向かう。
「私はイザベル・マルシャン。マルシャン家の当主である」
イザベルはフロアへ着くと、新たに購入した3人へと名乗る。
「お前たちの名を聞こう。それぞれ名を教えなさい」
名前を聞こうとするイザベルに3人は黙ったきりだった。
彼らのこの姿は、かつてあの3人たちでも同じように見た姿だったなと思うとイザベルは少しだけ懐かしさを感じる。
「ご主人様は名を聞いている。早く名を伝えよ」
イザベルが何か言うよりも先に共に来ていたリアムが3人を急かした。
「…ふっ」
―自分だって戸惑っていたはずなのに―
そんな姿等さも見せなかったように彼らを急かすリアムを見て、イザベルは少しだけ笑みがこぼれた。
リアムの耳には届いていなかったが、3人には主人のその笑みが目に留まった。
「ネアでございます」
「ノアでございます」
双子だからか、名前をいう声も同時だった。
「…ナイン」
双子が名乗ったのを見て、ぶっきらぼうに長髪の男も名乗る。
「双子だからか、名前も似ているのだな。…まずそうだな、ナインはそこの部屋を使え。」
そう言ってイザベルが指さした方へナインは目を向け、同意の意味を込めて頷く。
「個室もあるが、ネアとノアは同室の方が良いのか?」
そう言って、問い掛けてきたイザベルに双子は驚き、咄嗟に目を合わせる。
少しの間言葉なく見つめ合っていたが、2人の中で結論が出たのようだ。
「「同室でお願いいたします。」」
合わせようとしたわけではないのに、自然と2人の声は重なった。
「わかった。リアム、もう少し奥の2人部屋への案内を頼む。」
「承知いたしました。」
イザベルの言葉にリアムは頷き、双子を引き連れ部屋へと向かう。
「ナインよ。その子供の治療をするからこちらの部屋へとついてきてくれ」
イザベルはいまだ子供を抱えるナインに向き直り、目の前の部屋のドアへと手をかけた。
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