いつか囚われるその日まで

萩の椿

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第1話

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 たまに、夢を見る。

 俺の足首についた足かせが、ずるずると檻に向かって引き寄せられていく。

 どんなにもがいても、抵抗しても、もう、どうすることもできない。

 凍えるように冷たく、頑丈な檻の中にいるのは、一人の屈強な体つきをした男。

「なぜ、逃げる」

 男は心底不思議そうな顔をして、抵抗する俺を封じ込めるように馬乗りになった。

「逃げる場所なんて、どこにもないというのに」









         ◇◇◇◇◇◇










「やめろっ」

 無意識にそう声に出して、柊は目が覚めた。季節はまだ冬だというのに、背中には汗をびっしょりとかいている。

「くそっ、またこの夢」

 何度も繰り返し見るこの夢に、柊は飽き飽きしている。あの、忌まわしい男の記憶なんか早く消し去りたいというのに、まるで体の中に毒が入っているかのように、定期的に柊を苦しめる。記憶をかき消すように、がしがしと乱暴に頭を掻きながら体を起こすと、リビングの方から香ばしい匂いが漂ってくる。柊はその匂いにつられて、ベットから起き上がった。

「奈美さん。おはようございます」


 キッチンに立っている奈美に向かって柊が声を掛けると、奈美は満面の笑みでくるりと振り返った。柊は奈美を後ろから抱きしめる。


「どうしたの? 朝から甘えたモード?」
「すみません。少し……、怖い夢を見てしまって」
「そう。大丈夫?」
「はい」

 柊と奈美が同棲し始めたのは、丁度五か月前。柊が、ドラッグストアにバイトとして勤めていたところに、店長として赴任してきたのが奈美だった。

 前の店長が不祥事を起こしたか何かで、突然、奈美が代役として抜擢されたらしく、慣れないながらも懸命に仕事をこなす姿に柊は思いを寄せるようになった。

 そして、二か月ほど思い続け、やっとの事で告白し恋仲になった。奈美はベータだが、オメガの柊にも優しく接してくれる。基本的に偏見を持たず、心優しい奈美とならこの先も上手くやっていけるだろうと、柊は思っていた。









「ねえ、もうそろそろ柊くんの誕生日でしょ?」


 ふと、奈美が話題を持ち出した。カレンダーに目を向けると、確かにそろそろ自分の誕生日が迫ってきている。


「なにか欲しいものないの?」
「うーん……」


 柊は基本的に物欲がない。考え込んでも、思い浮かぶ物など一つもなかった。けれど、願い事のように、脳裏にふと浮かび上がってきたものが一つ。


 言葉にするのはためらわれたが、柊は意を決して口を開いた。


「奈美さんと……、したい、です」

 途端に、奈美の表情が強張った。それを察して、柊は言葉を付け加える。

「あ……、でも、無理だったら大丈夫なので……」




 柊と、奈美はいまだにセックスをしていない。奈美が、なぜか柊を一方的に拒むのだ。そういう雰囲気に持ち込んでも、適当な理由を付けていつも断られる。

 やはり、オメガの自分とはしたくないのだろうか。

 と、柊は思い、奈美に聞いてみたのだが、それは問題ではないという。

 その時の奈美の複雑な表情をみて、きっと何か事情があるのだろうと、我慢していたのだが、男なのだから溜まるものは溜まるのだ。


「うん……、そうだね」

 奈美がぼそりと、そう呟いた。

「いいよ」

 奈美の言葉に、柊は驚いた。てっきり、また断られるだろうと思っていたのだ。

「……いいんですか?」
「うん」

 奈美はけろっとそう言った。五か月間、拒み続けていたのが嘘の様に。


「柊君の誕生日、ホテル予約しとくよ」
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