新撰組の想い人 ~幕末にタイムスリップしたオメガの行方~

萩の椿

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第5話

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その場が一瞬で静まり返った。

「お菊!」

蘭が即座に慧の頭を叩く。

「いたぃっ」

「申し訳ありません、新人なものですから。礼儀もなっておらず……」

慧の頭を押さえつけ、蘭が深く頭を下げる。

「いや、構わんよ蘭さん。顔を上げてくれや」

冷たい雰囲気を一蹴する朗らかな声が響いた。

「それにしても、活きのいい新人さんだ。名前はなんと言う?」

「あ、けぃじゃなくて、お菊です」

慧は頭を下げたまま答えた。

「お菊さんか。まあまあ、いつまでもそんなとこに居ないで酒をついでくれや」

真ん中の男が笑って手招きをする。

土方はじっと観察するように慧を見ていた。

その威圧にやられ、距離を置こうと一番離れた場所に座ろうとしたが、蘭に無理やり土方の隣に座らされた。

「お菊、土方さんにちゃんと謝るんだよ」

蘭が慧の耳元で囁く。

「はぃ……」





「ワシは近藤勇、で、こっちが沖田総司。で、お前さんの隣にいるのが……、まぁ紹介するまでもねぇな」

近藤が手を叩いて豪快に笑った。


慧は軽く笑って土方に視線を移し、頭を下げた。

「あの……、先ほどはすみませんでした」

「お前、俺の名前をどこで知った?」

「え?」

「おなごで、俺の名前を知っている奴はそういない」

土方が酒器に入った酒を飲み干す。


「えっと……」

(教科書です、なんて言えないよな)

「その、なんと言いますか……」

「トシも有名になったもんだな」

答えあぐねていた慧には、近藤の言葉が助け舟だった。

「そうですよ!土方さん、有名人なんです。ぼく……、じゃなくて、私の周りも土方さんかっこいいっ!ってみんな言ってます」

慧がすかさず言うと、土方は「そうか」と微笑してまた酒を飲み干す。

空いた酒器に酒を注いでいると、土方がすっと慧のうなじに顔を近ずけた。

「あの……なにか?」

「お前、何か特別な香りでもつけてるのか?」

(香り……?なんの事だ……、香水なんてつけてないけど)

「いいえ」

慧は首を横に振る。

「あー、それ私も思っていました」

突然、沖田が立ち上がり慧の前にあぐらをかいて座った。

「あなたが部屋に入ってきた時から甘い匂いが充満している」

沖田が慧の頬を撫でる。


慧ははっとして、自分の項を抑えた。

(しまった……。俺、オメガの匂い出してるんだ)


慧は土方と沖田から距離をとった。

「あの……、すみません。ちょっと失礼します」

そして、襖を開けて部屋を飛び出した。


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